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これで準備万端?

昼休み、集合場所に指定されたのは廊下を渡った先の特別活動室のひとつだった。夏樹の担任が管理してるっていう。そこに熊谷君と二人で向かえば待っていたのは先生だった。


「よお、苑宮。大変だったな」

「山下先生、お久しぶりです」


気さくに話しかけてくれる山下先生は化学の担当で、一年の時は必須だったから教えて貰った事がある。もっとも私は化学が苦手で今は生物専攻してるけど。

で、苦手だったから先生に質問しに行きまくってたから、流石に顔を覚えられていた、と。


「しっかし、本当に鳥海が呆れた訳だな。見事な王子様っぷりじゃねーか」

「先生?」

「お前が怪我して階を跨ぐのは辛いが、かと言って教室じゃ落ち着けない。だから俺の教室貸してくれって言われてな。許嫁やめたってのになんでそこまでするんだって聞いたら、お前がはっちゃけすぎてて心配になったって言われたんだよ」


まあ座れと進められたのは先生の座る背もたれのついた椅子で。先生に目配せされた熊谷君が座りやすいように椅子を引いてくれたけど、えっと。


「それなら立ち上がるのも多少は楽だろ」

「ですが、先生は」

「準備室の椅子を使うから気にすんな。というかなんでそんなにはっちゃけたのか話聞きたいしな」

「あ、俺も」


熊谷君もか。うーん、どこまで話していいかな?


「ま、じゃあ二人が来るまでの間に簡単に説明しますか」


お言葉に甘えさせて貰って椅子に座れば、隣からキャスター付きの椅子を引っ張って来た先生が後ろ向きに跨いで座って。この人時々子供みたいな行動するよなぁ、そういうところ嫌いじゃないけど。

で、熊谷君も近くに椅子を持って来て、と。


「たいした事じゃないんですよ? そもそも私が夏樹……鳥海君と許嫁を解消したのは、澤尻さんに恋する鳥海君を見て私も恋がしたくなったからで。この怪我だってつい体が動いちゃっただけで。で、それがきっかけで澤尻さんと話をしたら、なんだか凄い同情しちゃったんです」

「同情?」

「ええ、ここにいる熊谷君と幼馴染みなんだって聞いて、でも澤尻さんって周りに色々といるじゃないですか」

「ああ、まあな」

「で、そのせいで幼馴染みに挨拶も出来ないって。それはおかしいじゃないですか。澤尻さんが誰と話そうが澤尻さんの自由なのに」

「そりゃそうだな」

「で、考えたんです。彼らを黙らせるには考えつかないようなとんでもない事が起こってしまえばいい。幸い私にはそれを行うだけの状況も立場も行動力もあるし、この怪我も結局は役立った訳で」

「で、とんでもない事ってのは?」

「澤尻さんと私が付き合うっていう」


そこまで言いきったらガターンと大きな音がした。見れば熊谷君が盛大にひっくり返ってる。


「ちょ、え、ええ!?」

「もちろんフリだよ? でも、彼らになんか真似できないくらい完璧に理想的な彼氏は演じるけど」

「ははははは!! なるほど、確かにな、とんでもないな!!」


おー、先生が大笑いしてる。ってことは、やっぱり私のこの考えは度肝を抜いてるって事だよね。


「あー、おっかしい。で、それをやる苑宮のメリットは?」

「超絶可愛い女の子の満面の笑み独り占め?」


あ、もう先生ってば声も出せないくらい笑い転げてる。そして我に返った熊谷君が座り直して。


「で、なんでそこまで打ち明けてくれたのか聞いても?」

「ん?」

「付き合うフリって事は明かさなくてもよかったはず。違うか?」


おー、熊谷君鋭い。拍手しちゃおうか。

そしてまだ笑みを残しつつ、先生も私を見て。


「それはもちろん、この際お二人にも協力をしていただこうかと」

「はーん。その口振り、既に鳥海は協力者なんだな?」

「流石先生、その通りです。恋人のフリを本当らしく見せたいのもそうですが、信頼出来る男性の味方が欲しいんですよ」

「男限定なのか?」

「ええ。澤尻さん、けっこう危ないので。このままじゃ完全に男嫌いになりそうで不安なんです」


別に桃香ちゃんがそう言った訳でもそんな素振りを見せた訳でもないよ?

ただ、これは二人を引き込む為に「私」が張った罠。


「授業でも休み時間でも、校内で何かあった時にどうしたって生徒じゃどうにもならない問題があるかもしれない。そんな時には先生を頼らせて欲しいです」

「なるほど、な」

「幼馴染みで話をしたいって桃香ちゃん自身が思ってるから、熊谷君がいてくれるなら桃香ちゃんが男性恐怖症になるまで追い込まれずにすむかもしれないし、クラスに協力者がいてくれる方がありがたい。後半はさっきも話したけど」

「ああ。わかった、俺は協力しよう。こうやって苑宮を手助けするついでにあいつと接触をするって事だよな。俺はあくまでも苑宮の介助人って立場で、自分からあいつぬ近づこうとしてる訳ではない、何か言いがかりをつけられたらそう言って逃げろって事だろ?」

「そう。ありがとう、熊谷君」

「しゃーねぇ、俺も協力してやるか。熊谷が化学専攻だから話しかける機会も不自然じゃねーし、こんな面白いもん見逃したらもったいないしな」

「先生、最後が本音でしょう」

「当たり前だろ?」


先生がそう笑った時、夏樹と桃香ちゃんがやって来た。お、いいタイミングじゃない?


「遅くなってごめんね、ちょっと色々……」


あ、桃香ちゃんが目をまん丸にして固まった。それからどこか泣きそうな顔で私を見て。


「波音ちゃん……」

「会いたがってたでしょ?」

「こんなにすぐだなんて思わなかったよ、ありがとう!!」


ぎゅうっと抱きついてきた体をポンポンを抱き締めて。

うん、これで協力者も出来たし、熊谷君をこっちに引き摺り込もうって作戦大成功したし。

後はこの二人をくっつける為にも、まずはうるさい方々を黙らせなきゃね。



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