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新しい私、はじめます

例えば前世の記憶を持っていたとして。この世界が物語だったとして。

全部わかっているのに見て見ぬふりをするのは、とても傲慢な事だと思う。

だから私は、この世界が乙女ゲームに限りなく近い世界だと、自分がそこでライバルキャラと呼ばれる存在だと、気付いた時から決めた事がある。

それは、幼馴染で許嫁の鳥海夏樹を幸せにしてあげよう、という事で。

そうして色々やらかした結果、現在の私はだいぶ笑えない状況になっていた。

何かっていうと、ぶっちゃけた話とあるイベントをぶち壊した結果、シャレにならない大怪我をしたっていう。おっかしいな、病院行くまでは普通に切ったーくらいの感覚だったのに、検査したら全治半年って何それ。痛みは薬で緩和されてるからそこまでじゃないんだけどさ。

とりあえず最大に困った事がひとつ。場所が悪すぎてスカートが履けない。

だって太腿が包帯グルグル巻きだよ? スカートだと完全にまくりあがるしアンダーズボン履くくらいなら男物のゆとりあるズボンの方が楽。という訳で、学校にお願いして、よくなるまでのしばらくの間はズボン登校許可して頂きました。

で、せっかくズボンな訳ですし。とある計画もあるしで。


「おは……おい」


怪我をしたからとわざわざ迎えに来てくれた夏樹がジト目になったけど、明るく笑って返す。

ビックリしたなら大成功って事だからさ。


「なにかな、夏樹。自分ではよく似合ってると思うんだけど」

「やり過ぎだ。似合い過ぎて違和感がない」


今の私はブラウスこそ女物だけど、リボンをネクタイ風に結んでるしズボンだしベスト着てるし肩甲骨までの髪は後ろでひとつに束ねてるしでさ。うん、ワザと男っぽくしてるんだよね。

違和感が無いなんて、最大級の褒め言葉だよ。


「それは重畳。可愛い彼女に惚れ直して貰えそうだね」

「……は?」


あれ、私まだ夏樹に言ってなかったっけ?


「彼女って、お前そういう趣味か?」

「ビックリしてるね、夏樹」

「普通は驚くだろう!!」


おっと、怒られちゃった。でも夏樹には誤解されたくないし、というか協力者になって欲しいしな。

一人くらい私達の味方になって欲しいと思ってもいいじゃん?


「まあまあ、落ち着いて。ちゃんと話すから」

「馬鹿馬鹿しい話なら怒るからな」

「馬鹿馬鹿しくなんてないよ。可愛い女の子の恋を応援する為の、精一杯さ」


気取った仕草でウインクをひとつ。いやぁ、どうせなら徹底的に男の子やってみようかなって。それも、女の子が夢見るような王子様を。

こうさ、格の違いというか私の方がカッコいいってなったらみんな諦めてくれないかなって思うのですよ。


「簡単に言うと、桃香ちゃんに同情したの」

「同情?」

「そう。好き勝手に周りで騒ぎ立てる男子のせいで自分の好きな人に挨拶さえできないなんて、おかしいじゃない。それならいっそ、私が恋人って事にして男子達を牽制しちゃおうって。ズボンで過ごす事にもなった訳だし、見た目も行動もそこらの男子とは比較にならない彼氏っぷりをだね」

「なんだか最近ぶっ飛んでるな、おい」

「失礼な。元々こういう性格だよ。ただ今までは許嫁に恥をかかせないよう自重していただけで」

「それはそれで傷付くんだが」

「だって、こんな女が許嫁だって知ったら恋も何もないじゃない」


私とのじゃないよ。世の中の女の子に夢見られなくなりそうだからさ。

私は幼馴染に幸せになって貰いたいだけ。私の幸せは自分で探せるけど、夏樹はゲームの為に決められた運命を無理矢理選ばされるかもしれなかった。そんなのはさ、許せなかったんだよ。


「結局フラれちゃったらしいけどさ。恋をしていた夏樹は私が知るどんな時よりも楽しそうで幸せそうで。だから、猫を被って女の子に夢を持って貰っていてよかったなって」

「……お前の幸せは、どこにあったんだ?」

「私の幸せ? それはもちろん、夏樹が笑って幸せになったのを見てニヤニヤする事だね」

「おい、それはもちろんなのか」


なんか変な事言ったかな? でもね、思うのよ。


「小さい頃から誰よりも身近で味方だった夏樹の幸せを祈らない訳が無い、でしょ?」

「波音……そうだな、お前はいつもそうだ。いつだって優先するのは人の事で自分を後回しにするどころか自分の幸せを他人の幸せにすり替えて」


あれ、なんか不穏な気配が。

というか夏樹の声がどんどん低くなっていくって怖いな。


「それで俺がどれだけ傷付いたのか考えもしなかっただろう」

「夏樹……?」

「俺だって、大事な幼馴染の幸せを望むさ。だからこんな無理は」

「あ、ごめん。この格好なら楽しんでる」


あ、たそがれた。ごめんね、なんかカッコいいセリフ言おうとしたの遮っちゃって。

でも、この怪我そのものに関してもこれからやろうとしてる事に関しても、後悔はないからさ。


「夏樹は、私がこういう馬鹿やっても普通に友人でいてくれるでしょ?」

「まあな、付き合い長いし」

「だったら別に取り立てて問題もないよ。味方がいるならさ」


まぁ、夏樹の性格的に見捨てられるとは思わなかったけど。ゲームだとクールキャラで実際もけっこうクールだけど、ちゃんと優しいし人の事を客観的に判断も出来るいいやつだからね。

鉄壁のクールになる布石をいくつも壊した結果がいい方向に働いてくれた訳ですな、うん。

今の夏樹は幼馴染としての贔屓目なしにしても相当レベル高いと思うんだ。

それこそ他に好きな人がいなければ桃香ちゃんゲット出来ただろうくらいには。


「で、桃香の恋人役として他の男子を牽制しつつ本命とくっつけようって話だけど、そもそも本命に誤解される可能性は?」

「それは大丈夫。彼も巻き込むから」

「相手を知ってるのか?」

「隣の席だった」

「……世間狭すぎるだろ、それ」


うん、ぶっちゃけはじめて聞いた時、私もそう思ったよ。

ま、これも何かの縁ってやつでしょう、きっと。

運命だなんて、絶対に認めないけどね。




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