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a.m.7:30-8:10  作者: 春井 武修
2月27日
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55/95

8

 ---- .. -…- ・-・-・ --・-


「結局、俺はそいつの代わりになるものを求めてるんだ。切実に」


 そこまで言ってしまって、金森は口を閉じた。小休止には十分すぎる時間が流れ、僕は、彼の話に一つの区切りがついたことを知った。


「話は、それで終わり?」

「さあ。本当のことを言うと、まだ半分も出し切れてないきがする。でも、思いつく限りのことはもう喋っちゃったよ」

 金森は、くたびれた様子で一つ息を吐くと、壁に背中をもたれかけたまま、ずるずるとその場に座り込んだ。彼の足元に地面がなければ、彼はどこまでも等速度で落ちていきそうにも見えたし、もちろんそんなことはなかった。彼はポケットの中から両手と共にカイロを取り出して、それが自分の掌に弄ばれるのを見つめた。


「相変わらず、君は愚痴を言うのが下手だね。いつも自分で悩みを増やしてる」

 僕も座り込んで、もう一度、彼と肩を並べた。

「うん、自分でも嫌になる。これまでは、それでも全部自分で解決……いや、忘れられたのにさ、どうも今度は、それじゃ収まりがつかないんだ」


 彼はカイロを自分の眉間に押し付けた。と同時に、僕の顔にも、何か熱いものが押し付けられたような気がした。僕のカイロは、依然制服のポケットの中で、小さな温もりを放っていた。


「別に、そんなのは我慢しなくったって、たまには誰かに押し付けちゃえばいいと思うんだけど。ねえ、君のことを仙人かなんかじゃないか、って思ってる人もいるんだぞ。愚痴も陰口も言わないし、浮いた話だってこれっぽっちもなかったから。君だって、そういう風に思われたいわけじゃないだろう」

「はは、それは間違いないことなんだけどさ。でも、芯からそういう人間になってみたいって、思ったことがあるのも事実だぜ。だっていいじゃん。頼まれたことは黙ってやって、人に迷惑をかけなくて、迷惑をふっかけられても文句一つ言わなくて、作り笑いでも毎日にこにこしてられたら。まあ、それはそれで歪んでる気はするけどさ、俺は小さい頃から反面教師を見て育ってきたから」

「反面教師?」

「そう。俺の親は共働きだからね、俺は離乳してからほとんどばーちゃんに育てられたって言ってもいい。まあ、要するにおばーちゃん子だな。ああ、さっき、過保護にはされてないって言ったけど、一人っ子に併せてそれなら、十分過保護にされる条件は揃ってるわな。外に遊びに行くにもあれこれ注文を付けられたし、遊ぶ相手も制限されてた。


 で、そんだけならいいんだけど、そんだけじゃなかった。これがね、実に、説教と愚痴と、昔の自分の自慢話しかしないんだよ。しかも同じ話を何度も、聞いてるこっちの耳が腐るんじゃないかってぐらいに。だけど、俺も、俺の親も-ばーちゃんは母さんの方とちがつながってる-、けっこうばーちゃんに恩があるもんだから、どれだけ間違ったことや腹が立つことを言ってても、下手に文句を言えないし、ばーちゃんもそれが分かっててこれ見よがしにまくしたててくるんだ。もっとも、最近は少し呆けてきたんじゃないかとも思うけどさ、とにかく、さんざん閉口させられたんだよ。それに哀しくもあった。歳を食えば、みんなこうなるのか、って。たとえそんなんでも、かけがえのない人ではある訳だし。

 まあ、おかげで人の愚痴を黙って聞くのには慣れたけど、その代わり、自分の愚痴を言えなくなった。これだけが理由ってこともないだろうけど、なんていうか、愚痴なり自慢なりを言ったって、相手を不快にするだけなんじゃないか、っていう、強迫観念? みたいなのができちゃってさ。実際そうなんだろう。

 それに、一人で黙ってると、嫌でも周りの話し声が聞こえてくるけど、本当に、馬鹿かかお前らは、って言いたくなるような会話しか聞こえてこない。ほら、いるだろう、人の好き嫌いをいちいち槍玉に挙げて盛り上がってる奴。“お好み焼きをおかずにごはんを食べるのは意味がわからない”とかさ。話を盛り上げるだけのつもりならそれでいいだろうけど、正直、もっとましなことは言えないのか、って思う。それを本気で言ってるんだとしたら、それこそ不毛だ。だから、それも反面教師だよ。口を開けばボロが出る。偉そうなこと言って、何も考えれずに喋ってる俺なら、なおさら」

「なるほど。でも、君はそういうのが羨ましいんだろう?」

「そう。俺も、たまにはボロを出したくなった。化けの皮をはがされたくなった。少なくても今のところ、俺は仙人じゃないから」

「で、今に至る、と」

 金森は、膝を抱えながら頷く。


「俺はきっと、長い間勘違いをしてたんだ-











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