精霊さんのこと その1
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「まったく、君にはいつも妙なときに会うな。まあ、出てきてもらっといて言うのもなんだけどさ。君の気配はよく覚えてるんだ。独特だから」
「そう?」
「ああ。強いて言うなら、隠す気もないのに、こっちからは不自然なぐらい隠されて見える感じ、か。何にしても独特だよ、君のは。誰だかすぐに分かる。……そう言えば、このシートを掛けてくれたのは、君?」
彼女は無言で頷く。
「そうか。ありがとう。おかげで、多分、いくらかマシだよ。でも、いつからここに? 俺が起きたときから、いたみたいだけど」
「夜明け前から」
「へえ、ご苦労だな、それは。ここで一晩過ごすよりかはいいだろうが。ここにはよく来る?」
再度、無言で頷く。
「俺は夕方と夜の間しかいないから、朝のことは知らなかったよ。一応聞いとくけど、どうして?」
彼女は、今度は首を横に振った。
「なら、いいさ。ああ、どうも他人事には興味がなくていけねーな」
「あなたは、絵を」
「そう。まあ、見ての通りたいしたもんじゃない。途中から俺自身、何を描いてるのか分からなくなってきてね。夜に描いたのがいけなかったかもしれない。こうやって朝に見てみると、昨日描いてた時とは全然違うみたいに見える。失敗作だな、これは」
「足りない」
「ん」
「足りない」
「何が?」
「意志が」
「意志? この絵に、意志が、か。確かに、そこまで作為はないかもしれない。でも、あんまりそいつが重要なテーマではねーだろう」
しかし、彼女は首を横に振る。
「何かを留めておくためには、それだけの意志がいるの。それを動かすのと同じくらいに」
「随分哲学的な話だな。……まあ、なんとなく言いたいことは分かった。要するに、必然性みたいなものが欠けてるってことか」
返事はない。
「ああ、どっちにしても、そこまでは考えてなかった。うん、やっぱりこいつは失敗だ」
彼女は、キャンバスを見つめながら、首を横に振る。
「大丈夫。もう、やっと、始まったから」
「ん、何か言ったかい」
返事はない。
「まあ、いいさ。それより、もうそろそろ俺はここを降りないといけねーから、だから、さっき言ったとおり、ちょっとこいつを俺の体にくくりつけるのを手伝ってくれよ。けっこう手間なんだ、一人でやると」
彼女は頷く。
「サンキュ。じゃあ、このひもをそっちに回して。そうそう。ああ、そうだ、カバーを忘れてた。傷がつかないように………」
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「ところで……今更だけど、君の名前は――




