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聖郷の騎士達―Arcadia knights―  作者: 星屑
序章:主世界エルサレム
7/8

第六章、その男、ツッコミスキル有り



「やっと着いた……」



 『迷いの森』に出現する中ボス、ベアリング・ジェネラルを謎の女性プレイヤーと共闘して倒してから約10分。俺はやっとのことで、目的地である『シルフ領』へとたどり着いた。

 『中立域』から見て北の方角に位置する四大勢力の一つ。の、割にはここは無所属(ニュートラル)プレイヤーに対して大分オープンだ。金銭的な差別も存在しないし、ましてや街中で襲われるようなこともない。



「さて、あまり時間がないな……」



 ズボンのポケットから小型のキューブを取り出して時刻を確認する。このキューブの名前は、『タイムコンフィメーション・キューブ』俺訳:キューブ。えぇ、そのまんまです。

 六面存在するキューブの一面に表示される時刻は、7:58.これは、この仮想世界の時刻ではなくて、現実の、今俺が寝転んで眠っている世界の時刻だ。

 防衛線開始が現実時間にして9:00.なんの障害もなくシルフ領から中立域までは約15分程度。空き時間は、45分くらいか。クエストの一つくらいは受けている時間はありそうだ。



「んーー―――」



 現在、俺の目の前にあるのがシルフ領の依頼板(クエストボード)。縦10m、横20mのコルク製のボードには、紙のオブジェクトに依頼内容が表記されている。これがサラマンダー領とかになれば乱雑に張り出されているだけだが、ウンディーネ領と並ぶ綺麗好きな領域のため、かなり整頓されて張ってあり、大分見やすい。これには感謝感激だ。



「むぅ……」



 しかし、今、俺の目の前に張り出されているクエスト。俺に対して、はたまたニュートラルプレイヤーに対しての嫌がらせなのか、全て二人組み(ツーマンセル)限定クエストだった。

 ニュートラルプレイヤーはその名の通りどこの勢力にも属さない所謂風来坊だ。聞こえはカッコいいかもしれないが、簡単かつ簡潔に言ってしまえばボッチだ。

 ツーマンセル限定クエストとは、これもその名の通りなのだが、二人でチームを組んで行くことを前提としたクエストだ。一人では受付嬢NPCに依頼を受理してもらえないばかりか、依頼書を手にすることすら不可能。

 目の前に依頼書があるのに依頼を受けられないというもどかしさに唸りながら、俺はチラリと横を見た。

 そこには、俺と同じような表情で凍りつく銀髪の女性プレイヤーがいた。彼女こそ、先ほどの熊将軍討伐共にした女性プレイヤーなのだが、だが……やはり、ボッチなんだな。



「ツーマンセル限定クエストしかないってのは、ボッチに対しての嫌味なのか?差別なのか?それとも嫌がらせかコノヤロー」



 一人で勝手にシルフ領侵攻戦の計画を打ち立て始めた俺。ふむ、まずは拠点となる風鳴りの塔を落とすのが先だな。いや待てよ。どうせ俺一人なのだからここは思い切って一気に本陣を……などと不吉な発想が次々と浮かんできたその時、トントン、となにかが俺の肩をつついた。

 やむなく脳内作戦会議を中断し、振り向く。



「あの……良かったら、一緒にクエスト、どう?」



「……マジ?」



 そこにいたのは、銀髪の女性プレイヤーだった。俺がキョトンとして問い返すと、

彼女はコクンと頷いた。



「え、と……それはつまり、俺と一緒にクエスト受けるってこと?」



「え、えぇ」



 再度確認する俺に、女性プレイヤーは再び頷いた。

 これは、いい機会であることは間違いないだろう。依頼が受けられるようになることは勿論のこと、先の熊さん戦で見る限り、射撃魔法の腕も相当なものだ。時間短縮も計れる。

 そこなで思案した俺は、漆黒のグローブに包まれた右手を差し出していた。



「よろしく」



 そう言うと、一瞬の逡巡の後に彼女の藍色のグローブを着けた手が重なった。



「こちらこそ」
















「はい、それでは気をつけて下さいね」



 少し機械的なイントネーションを残した受付嬢NPCの言葉に「どーも」と返してから俺は、依頼書を受けとってステータスウィンドウを開いた。そして、そこに依頼書を突っ込んでウィンドウを消す。自身のステータスに、『依頼実行中』と認識させる動作を終了させてから、俺はゆっくりと後ろを振り向いた。



「あのさぁ、本当にこの依頼でよかったのか?」



 そう呆れ顔で確認する俺の先にいるのは、顔を青ざめさせて立つ銀髪の女性プレイヤー。

 プレイヤーネームは《アスカ》。



「だ、大丈夫……かも…?」



「おいおいおい……」



 そんな返答に、ますます不安になってしまう。

 彼女がかんなことになってしまったのは、つい数分前。今、俺がステータスウィンドウに突っ込んだものが原因だった。

 俺達、というか俺が選んだ依頼。その名も『心霊病棟突破戦』

 聞いた瞬間、このテのものがダメな人が顔を青ざめさせそうな依頼なのだが。アスカもその例に漏れず、今の彼女は誰がどう見ても心の底からビビッていた。

 では何故、こんなことのなると予感していながら俺がこんな依頼を選んだのかというと。ぶっちゃけ、クエスト成功時の報酬が凄かったのだ。名前からか、大分長いこと敬遠されてきた依頼のようで、報酬金やら報酬アイテムやらが結構高いランクのもので、レアだったのだ。こんな美味しい依頼を、現金な俺が見逃せるはずなく、ほぼ独断で選んでしまったのだが……よもや、ここまでヒドイとは。



「無理するなって。今からだって依頼は変えられるしさ」



「だ、大丈夫だから……早く行こう。ね、イコウ?」



「……ホントかなぁ…?」



 覚悟が決まったのか、それとも諦めたのか、目が据わった彼女を見て、

俺は溜め息を吐き出せずにはいられなかった。
















「おぉーー……だーいぶ本格的だな」



 シルフ領最西端に位置するダンジョン。その名も『闇黒の森』。名前の通り、鬱蒼と生い茂っているいる木々のせいで日差しが遮断されてしまっているため、辺りは結構暗い。そして、この森の最奥に、俺達が突入する未だ未攻略の建物があった。

 『かつては市営の病院だった』とかよく有りがちな説明をツッコミつつ読みながしてから、(例えば、『市営』じゃないだろ、とか)目の前にある結構大きな建物を見ると、ほーらビックリ。更に怖い。

 これを隣にいるビビリに音読してやろうか、などと考えて横を見ると、その彼女は、虚ろな表情でなにごとかをブツブツと呟いていた。




「悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散あくりょくっ、悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散」



「一回噛んだな」



 陰陽師にでもなるつもりか、というツッコミを飲み込んで、代わりに溜め息をつく。

 そして―――――-



「わっ!!」



「フニャア!!?」



 後ろから背中を叩きつつ大声を出すと、銀にの髪を持つ彼女は猫のような悲鳴と共に飛び上がりつつ俺に抱きついてきた。



「うおっ、と」



「ば、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ーー!!」



 顔が真っ赤と真っ青の入り混じったすんごい色になってアスカが俺の胸をポカポカ叩いてくる。

 その度に俺のHPが僅かずつ減少していくのを視界の端に捉えながら、溜め息をついた。



「どうする、やめるか?」



 そう聞くと、ポカポカ叩いていた手をピタリと止め、俺の顔を見上げてきた。



「いや。だって、今から戻ってたら時間がなくなっちゃうでしょ?」



「まあな……」



 呟き、眼前に聳える廃墟となった病院を見上げる。怖ぇー。



「行こう。うん、イコウ」



 自分に言い聞かせるように呟くアスカに苦笑いして、俺は一度、背中に吊ってある濃紺の刃の柄に手を触れた。冷ややかで、確かな感触が仮想の肌を通して伝わってくる。心霊病棟から来る恐怖と、女性に抱きつかれている羞恥にバクバクしている鼓動を、鎮める。



「よし、行くぞ」



「ええ」



 アスカも覚悟が決まったのか、太腿のホルスターに一丁の拳銃を差し込んだ。















――to be continued――

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