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聖郷の騎士達―Arcadia knights―  作者: 星屑
序章:主世界エルサレム
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第三章、その男、濃紺の剣の使い手

「ふぅ……」



 パチ、と玄関の電気をつけて靴を脱ぐ。いつもの下校より数倍疲れた気がするのだが、それは気のせいではないだろう。

 溜め息を吐き出して、蓮夜はバッグを四畳半の自室へと放り込んだ。

 欠伸をしながら、台所にある冷蔵庫を開き、適当な冷凍食品を手にとって電子レンジへIn後、スイッチOn。現在の時刻は6時50分。夕食を摂るにはまだ早い時間だが、今日は久しぶりに『調査』するため、プレイ用の時間は多いに越したことは無い。故に、お好み焼きが出来上がる数分も、無駄にはできない。

 早足で自室へ戻り、本棚から数学の参考書とノートを引っ張り出し、11月7日という付箋がついているページを開くと、目にも留まらぬ速さでシャーぺンを動かし始めた。分野は既に高校を通り抜け、大学のセンター試験レベルに突入している。だが、それで慢心する気はなかった。科学者として有能だった父と母を、『全てにおいて抜かす』という目標を達するまでは。

 電子レンジが仕事を終える頃に、蓮夜は二ページを終了させていた。















 冷凍お好み焼きを数分で食べ終えた俺は今、自室でネットを覗いていた。『ナイト・レイジ』のホームページなのだが。



「おいおいおい……まじかよ」



 唖然とした俺の前の画面には、『侵攻戦発生』の文字がデカデカと写っていた。気になった俺は、即クリック。最新式のパソコンなので、パパッと画面が切り替わるのに感謝だ。

 まずは一番上に、大きな字で、『火水連合軍vs中立域(ニュートラル)軍』と書いてあった。

中立域(ニュートラル)とは、以前説明した『流れ者』の領地だ。ここは、大して領土欲がないプレイヤーが多いため、他領土侵攻など有り得なかった。即ち、今回の侵攻戦はサラマンダーとウンディーネ連合軍とやらが侵攻してきたということだろう。嘆息したがら、画面を下へスクロールする。クエスト名の下には、詳細な内容が書いてあった。



『サラマンダー勢とウンディーネ勢が連合を組んだ。目指す領地は中立域。長年、四国が鎬を削りあっていた戦い、遂に終止符が打たれるのか!?



 参加人数:無制限


 参加資格:火水連合軍のプレイヤー、及び無所属(ニュートラル)プレイヤー


 クエスト時間:50分


 勝敗条件:

 火水連合軍:中立域の完全制圧

 無所属軍:50分間の中立域の守護の成功


 ルール:基本的には無制限。各種ハラスメント行為が認められた場合、当事者は死亡判定。

     PK(プレイヤーキル)推奨


 その他:レベルアップ有り。死亡判定によるペナルティは解除。全アイテム使用可能。魔法有り。各種

NPCノンプレイヤーキャラクターは、クエスト開始10分前に一次完全離脱します


 クエスト開始時刻:本日11月7日9時00分



                                   ――――運営委員会ナイト』



「随分と、思い切ったことをするな」



 クエスト内容を読み終わった俺の感想はこれしかなかった。



「しかし、よりにもよって中立域か……」



 勿論、このクエストを無視することなど俺にはできない。何しろ、俺は無所属(ニュートラル)プレイヤーであり、中立域には苦労して買ったホームがあるのだ。そこをブン盗られるのを黙って見ているわけにはいかないし、なによりも中立域が消えることは俺の『捜索』の妨げになる。是が非でも、このクエストは無所属(ニュートラル)軍の勝利に終わらせなければならない。



「なんか、気合入ってきた……」



 現在の時刻は7時半過ぎ。一時間もあれば、レベルを1上げるくらいはできるだろう。

 早速、俺はパソコンに繋げた黒色のヘッドフォンを被った。長時間のプレイになりそうなため、椅子をソファーに変えて寝転ぶ。ヘッドフォンの耳当ての横にあるスイッチを上に押し上げ、『ナイト・レイジ』のマイページ最低辺にある、『FULL DIVE』というボタンをクリック。そして、目を瞑った。
















 ―――起動します―――



 ヘッドフォン型の機械を通して、俺の脳に景色の情報が送られ、脳がそれを処理して、意識に情景を形作って行く。まずは、いつも通りの虹色の世界。いつも、この世界の情景からログインしている俺。何故か、この空間に来ると感覚が研ぎ澄まされるのだ。

 そして、―――ようこそ、ナイトレイジへ―――という文字が浮かんだ瞬間、俺はこの、鉄と魔法が混ざり合う世界へと足を踏み入れていた。




「いつ見ても、よくできてるな……」



 目の前に広がる仮想の空間を見て、しみじみと呟く。今現在、俺の目には簡素な机とパソコン、ソファ、ついでにベッドというシャープと形容していいほどに何も無い四畳半の部屋ではなく、色鮮やかなベッドや棚、キッチンには食器などなどが並んでいた。

 約一ヶ月振りにログインしたものの、フルダイブ環境での感覚は特に衰えはないようだ。

 それを確認した後、俺は左の指をパチン!と鳴らした。すると、目の前に青色のウィンドウが浮かび上がった。所謂、『ステータス・ウィンドウ』というヤツだ。プレイヤーホームの一室に立つ俺の姿は、アンダーウェアにスラックスという完全室内用のもの。もしこんな姿で外へ出ようものならば、一瞬で笑いものにされるだろう。それはとても面倒なので、しっかりと装備を整えることにする。

 表示されたウィンドウの中の、『防具』というアイコンをタッチ。すると、左側に人間を簡易的に表したもの(トルソーと呼ばれたりしている)が、右側には文字の列が浮かび上がった。その中から、まず最初に、『白シャツ』という普通のワイシャツをクリックしたままスライド。トルソーの上半身の部分まで持っていき、指を離す。すると、俺の仮想体(アバター)の上半身に、アンダーウェアの上から白のシャツが重なった。そんな感じで、更に上から『レジェンド・オブ・コート』という仰々しい名前の黒色でフードつきのオンボロコートを着る。下は、普通のズボンで、更に脛までの長さのブーツを履き、防具の調整は終了となる。ステータスが敏捷と筋力に結構振られているため、俺は防御のことを考えていない。ひたすらよけて、かわして、反撃。ヒットアンドアウェイというやつが俺の主な戦い方にして真骨頂だ。

 さて、防具は変に見られない程度、というかガチ装備にしたが、武器がなくては勿論、笑われる。そのために、武器も持ち歩くのがこの世界の常識だ。その人物のレベルや強さは、大体防具や武器で分かるのだ。俺は勿論、甘く見られるのは好きではない。『防具』ページをメニューに戻して、次は『武器』のアイコンをクリック。こんどは、画面一杯に文字列が浮かんだ。その数、全部で25、くらい。その中で、一番上にある武器、カテゴリーは『長剣』、種類は『両刃』の銘、『ミストルティン』をオブジェクト化する。シャラン、という鈴のような音が鳴ると、俺の右手には鞘に納まったままの濃紺の剣が収まっていた。それを、背中に回し固定する。

 これで一先ずは準備おーけーなはずだ。




「行くか」



 一言だけ呟き、俺は自分のプレイヤーホームを出た。

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