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聖郷の騎士達―Arcadia knights―  作者: 星屑
序章:主世界エルサレム
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第二章、その男、大罪者の息子


「ふぁぁ……」



 学校からの帰り道。市内の大通りにて、俺は今日30回目にもなる欠伸をした。八百屋や雑貨屋が立ち並ぶ、ちょっとした商店街となっている大通りは今、夕方だからか、夕食の献立を考えながら歩く主婦が多かった。スクールバッグを左肩に担ぎ両手を手に突っ込んだ俺は、特に急ぐ様子もなく歩く。銀行辺りが騒がしいが、気のせいだ。うん。



「ご、強盗だぁ!!」



 誰かの叫びが商店街にこだまして、辺りが一気に静まり返った。と思いきや、商店街の今までの賑わいは悲鳴に変わった。特に悲鳴が大きい俺の前の人だかりが、なぜか急に左右に割れた。




「……嫌ナ予感ガスルナー」



 片言になってしまったのは仕方ないことだろう。誰だってこの光景を見ればこうなる。ほら、その裂けた人混みの間を疾走してくるナイフとカバンを持った男を見ればな。



「どけガキィ!!」



 俺に接近してくる強盗は、相当切羽詰っているからか、目が血走っていた。さらに、息も荒いし心拍数もかなりだ。こんなになるんなら、強盗なんかやらなければいいのにな。



「テメェ、どかねえと殺すぞ!」


「んぁ?」



 分析に夢中になってしまっていたせいか、どうやら俺は逃げ遅れたらしい。刃渡り20㎝くらいのナイフを握る強盗の前にいるのは、一人俺だけ。積んだ、とは微塵も思っていない。こんな巻き込まれは、そう長くは無い俺の人生の中でたった今11回目を迎えたところだ。



「ハァ…仕方ないな…」



 この手の強盗なぞすぐに警察に捕まるだろうが、今の状況から逃走することは難しい。ならば、俺が相手するしかないだろう。面倒くさい、即効で終わらせる。



「このガキ!どけっつってんだよ!!」



 ついに我慢の限界が来たのか、男がナイフを振り上げた。周りの群集、いやもう野次馬でいいだろう。が悲鳴を上げる。そして、ナイフが俺の頭上に迫る。

 その瞬間、意識するより速く体が動き、男に肉薄してナイフを握る腕を左手で掴んだ。どうやら強盗さんは左利きのようだね。ナイフを左手で握ってたし。ま、そんなことどうでもいいか。



「なっ!?」



「オッサーン、もーう少しマシな大人になりなっ!」



 驚愕している顔面へ上段蹴りを敢行。俺の右足が強盗の左頬に着弾し、ゴッ!という鈍い音が大通りに響いた。意識を失い、無様に倒れた強盗の手からスルリとナイフを抜き取った俺は、自分のバッグから携帯を取り出した。



「…もしもし、あー俺です、蓮夜です。はい。ちょっと今銀行強盗を捕まえたんで来てもらえますかね?」



 掛けたのは、知り合いの刑事の番号。一番信用できるし、マジメだからすぐにすっ飛んできてくれる。


















「いやぁ~、お手柄だね蓮夜君!」



「その言葉を聞いたのは、今回で13回目です」



 銀行強盗を上段蹴りで沈黙させた現場から場所は変わって、建前は事情聴取ということで、蓮夜とすっ飛んできた刑事は近くの喫茶店へ来ていた。そこで二人は、適当に飲み物を注文してから、一番目立たない最奥の席に陣取った。



「そ、そんなことよく覚えてるね……」



 端整に整った顔の、口部分を引き攣らせて驚いている男を一瞥してから、蓮夜は「当たり前です」と言ってオレンジジュースを一口飲んだ。



「一守刑事殿が俺に依頼した事件が二回。ただの巻き込まれが今日を合わせて十一回。全部、詳細まで覚えてますよ」



 じとっ、とした視線と、うんざりさたように言う蓮夜に、一守は苦笑いした。



「その巻き込まれ体質はもう呪われてるんじゃないかな?」



「………嫌なこと、言わないでくださいよ」



 返答まで少し間があったため、「自覚はあるんだね」と一守は笑った。そして、ウェイトレスが運んできたハーブティーを受け取り、一口飲む。



「さて、本題に入ろうか」



「そうですね」



 佇まいを正した一守に、蓮夜も頷いた。

 蓮夜が一守を指定して呼んだのは、ただすぐに駆けつけてくれるからという理由だけでは無かった。二人はある事について協力関係にある。月に一回は二人で顔を合わせ、どこかで情報交換をしている。



「まず、俺のほうですが、最近忙しくて全然です。ログインすらできていませんしね」



 眉を顰めて言った蓮夜に、一守は神妙な顔で頷いた。



「まあ、『ナイト・レイジ』のほうは直接的な関与は少なさそうだしね。無理はしないでいいよ」



「はい。ですが、今日は時間がありそうなんで久しぶりに見てきます」



「そう。うん、お願い」



 ニッコリ微笑んだ一守に、蓮夜は頷いた。



「じゃあ次は僕のほうかな。全然進展はないんだけどね、コッチは先日に、『研究所跡』に行って来たよ」



「え、研究所跡に?」



 よほど意外だったのか、蓮夜は目を見開いて驚いた。そんな彼に、「別に意味は無いんだけどね」と一守は笑った。



「相変わらず、なにもない所だったよ。前に行ったときと全く変わらない、埃一つ無い……まるで、『つい数瞬まで誰かがいたかのように』、ね……」



 明らかにナニカを含んだように言う一守と、それが意味している現実に、蓮夜は顔を顰めた。



















「研究所跡に、誰かがいる……か」



 一守さんと別れ、一人帰路についていた俺の脳内は、つい先ほどの会話に埋め尽くされていた。

 一守さんが先日調査に行ったという『研究所跡』は元々、俺の父と母が働いていた場所だ。政府公認の極秘プロジェクトとかなんとか、それっぽい名前の難しそうな研究をしていた。確か、父は主任だったような気がする。まだ幼かった俺は、そんな大役を務めることのできる両親を誇りに思っていたし、大好きだった。だが、その気持ちは、ある時、露と消えた。

 7年前の8月4日。俺の10歳の誕生日の前日に、父と母は、なにも言わず、顔も合わせずに、俺の前から忽然と姿を消したのだ。

 8月4日、その日も両親は研究で帰りが遅く、俺は10時を回ったところで睡魔に負けて寝てしまったのだが、11時頃、突然警察が家宅捜索やらなんやらで侵入してきた。そして、訳も分からぬ内に家を荒らされ、訳の分からない内容の詰問をされ、そして、気づいたときには、近くの孤児院に一人だけでポツンと立っていた。

 両親が、あの21世紀最大の大犯罪『人造人間開発未遂』という禁忌を犯したということを知ったのは、二人が失踪してから2年後のことだった。

 最初の頃は警察とかが血眼になりながら捜索していたが、7年経った最近では『死んだ』と言い出す人間も出てきた。いや、寧ろ大多数がそう思っただろう。しかし、死体は発見されていないということでまだ『捜索』を続けている人間もいる。俺も、一守さんも、その一人だ。俺は、両親をブン殴るため、一守さんは、『人造人間開発未遂』の裏側を探るため。

 しかし、一守さんはともかく、一般的な高校生である俺にできることは少ない。というか、ぶっちゃけ言って一つしかない。

 『ナイト・レイジ』。それが、俺にできる唯一の『捜索だ』

 これは、一部の人しか知らないことなのだが、『ナイト・レイジ』というVRMMOゲームの大元のシステムデータベースは全て、『研究所跡』で発見されたものだ。なんのためか知らないが。

 だが、とにかくこのゲームが研究所跡で発見されたということは、少なからず父さんと母さんとの関わりがあるはずなのだ。だから、俺はβテストにも応募したし、発売されたら真っ先に買ったし。このゲームに掛ける熱意なら、そんじょそこらのゲーマーにも負けていないと自負している。とはいえ、大した進展も無いのが悲しい現実というヤツだ。




「はぁ……クソッ、父さんも母さんも、なにがしたいんだよ……」



 もし、見つけたら顔の骨格が変わるくらいボコボコにしてやろう。うん。



 新たな決意をし、顔を上げると、いつの間にか夜空には星が瞬いていた。





「寒ぃ……」
















――to be continued――

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