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聖郷の騎士達―Arcadia knights―  作者: 星屑
序章:主世界エルサレム
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第一章、その男、不真面目にして天才



「で、あるからして……」



 某私立高校の世界史の講義は、今日も今日とて暇であった。もう、50代にも差し掛かろうとしているオッサンの話を延々と聞かされることになんの意味があろうか。それならば、家で自主学習をしていたほうが尚、身のためになるだろう。と、青年、花咲蓮夜は思っていた。しかし、単位をとるためには授業をサボることなどできないため、一応は授業に出席していた。

 周囲がオッサンの言葉を聞き逃さぬよう懸命に耳をそばたてている中で、蓮夜は口笛でも吹きそうな勢いでペンを華麗に回している。勿論、ノートなどとっているはずもない。

 これなら、俺が授業やった方が有意義になるな……などと、偉そうなことを考えながら、蓮夜は家に帰った後にやることを模索していた。

 まずは勉強だが、次回の定期テストなど、ノー勉でも楽勝。抜き打ちテストもバッチコイ。つまらない講義よりは数百万倍もマシだ。終わったら寝れるし。つまり、『勉強』という選択肢は時間の無駄であるから、除外となる。次に浮上する案だが、それは『運動』。だが蓮夜は部活には無所属だ。よく、陸上部やバレーボール部から助っ人要請が来るのだが、狙ったかのように大会の類はないらしい。はい、『運動』、却下。自主的に走るなど、蓮夜の選択肢には最初から存在しない。




(どーすっかなぁ……)




 ずり落ちそうになった、黒縁伊達メガネを押し上げながら、蓮夜はペン回しの大技に挑んでいた。



(あ、できた……)



 クルクルと鮮やかにペンが指の間で回ったのを見て、今日一番の感動を覚える。なんとも、つまらない一日だ。



「それでは、今日の講義を終わる」



「「「ありがとうございましたー」」」



 やる気のない声に、疲れたような声。そのだらけた言葉の応酬を聞いて、遊んでいただけの蓮夜も疲労を感じていた。即ち、ずっとじっとしているのにストレスを感じるタイプである。



「蓮~夜っ!」



「ぐはっ!?」



 未だに思いつかなかった帰った後になにをするか。あれよあれよと考えていた瞬間、ややハスキーな声と共に蓮夜の背中にバシン!と衝撃が走った。それも、尋常ではないほどに。



「テメェ、凛……」


 恨みがましく睨むと、黒髪をショートに整えた中崎凛はにへへ、と笑った。謝罪の気持ちは皆無である。



「なんか用かよ?」



 そんな凛の態度に溜め息を吐きながら、横目で見る。

 普通、何か用があるから話かけるのが普通であって常識なのだろうが、どうもコイツには常識は通じないらしい。どうせ、「なんでもなーい」で済ませるのだろうと思っていた。

 だから、今回の凛の発言は少々衝撃的だった。



「蓮夜、ナイト・レイジやってるでしょ」



「なに……?」



 凛の言っていることは間違いではない。ただ、俺は凛の話に内容があったことに驚いていたのだ。思わぬ質問をされ、少々返答が威圧的になってしまっていたためか、凛は首を傾げていた。



「いや、まぁ、やってはいるが……」



「やっぱり!昨日シルフ族の掲示板に蓮夜みたいな仮想体(アバター)が載ってたからもしかしてって思ってさ!」



 興奮しているのか、声が大きい凛に苦笑いしながら、蓮夜の思考は別のことを考えていた。それは、凛も『ナイト・レイジ』というゲームのプレイヤーだということ。

 『ナイト・レイジ』とは、詰まるところ大規模なMMOゲームだ。専用の機器を装着し、脳に直接特殊な電波を流し込み、仮想の世界を脳内に展開させるという仕組みなのだが、その途轍もないリアル感と、ゲームに設定された動き以外のこともできるという、今までもゲームとは一風変わったスタンスをとっていることから、現在は大人気となっている。

 俺はそれを、一年ほど前からログインし、プレイしていたが、最近は様々な事情で長らくプレイできていなかった。ついでに言うと、俺のゲーム内での仮想体(アバター)は現実の俺のまんまなので、知り合いにでも会えば即バレである。流石に伊達メガネはつけていないが、大したカムフラージュにはなるまい。



「なんだ、お前もやっていたのか。レベルはどん位だ?」



「あはは……ま、まだ37くらい」



 恥ずかしげに笑った凛を見て、蓮夜は別に恥ずかしがることはないのだが、と思う。今現在は知らないが、俺が一番最後にログインしたときの最高レベルは43くらいだった。そう考えると、凛のレベルはそこまで低いわけではない。ちなみに俺は41だった。



「あ、蓮夜の固有能力(レアスキル)って……あー、時間切れだー。また後でね」



 凛が聞こうとしたときに、タイミング悪く授業開始のチャイムが鳴った。まだ先生は来ていないが、その内に不健康の根源のような体躯の男が教室に入ってくるはずだ。

 手を振って席に戻っていく凛に手を振り替えし、机に肘をついて手の甲に顎を乗せる。

 次の講義は、物理――サボっても、いや、真面目に受けなくても平気だろう。



(それにしても、凛もやっていたとはね……ん?ちょっと待てよ。凛は確か、俺の仮想体(アバター)が掲示板に載っていたと言っていたけど……なんでだ?俺、なにかしたのか?)



 級友共が先生に下げたくもないのに頭を下げたのを見て、俺も渋々頭を下げる。

 が、頭の中に自然界の法則や元素記号やイオン式などといった科学的思考などは微塵もなく、代わりにナイト・レイジ内の世界地図を繰り広げる。

 級友共がノートと無駄に分厚い教科書を開いたのに倣って、俺も適当に開いておく。だが、勉強しようという気は微塵もなかった。

 ナイト・レイジというMMOゲームには、根底を流れるストーリーが存在しない。故に、その世界を作り、変えていくこともできる。そこに魅了された人が多いらしいが、まあ、俺はもっと別の理由だが。

 世界がどう進むのかはプレイヤーしだい。最初こそバラバラに活動していたプレイヤーたちだったが、その内に『ギルド』なるものを立ち上げた。それは、今では大きく分けて四つのギルドに分割された。まず一つが、NPCノンプレイヤーキャラクターの中で、火の神の末裔と言われる人間を擁立して立ち上がった、火龍族(サラマンダー)。二つめは、風の神の末裔を擁立した、風精族(シルフ)。三つ目は、固有能力(レアスキル)の“水”を扱える者が自らを王と名乗り、プレイヤーを中心として栄える勢力、水神族(ウンディーネ)。四つ目もウンディーネと似て、レアスキル“土”を扱えるプレイヤーが立ち上げた、土怪族(ノーム)

 四つのギルドは肥大化し、遂には“国”にまでなった。今では、四つの国の領土争いも起きる始末だ。

大体のプレイヤーは何れかの国に属すことが多いが、偶に、どの国にも族さない『流れ者』が現れることがある。俺も、その一人だ。基本、流れ者は広大な土地の、四国以外にある村とかで寝泊りすることが多いが、たまに依頼(クエスト)などを受けに四国へ赴くこともある。流れ者の利点は、気兼ねなく、どんな国にでも立ち入ることができ、気兼ねなくその国の依頼(クエスト)を掻っ攫うことができるという点だ。もしかしたら、シルフ族の依頼(クエスト)を掻っ攫いすぎてお尋ね者にでもなったかだな。



(……つっても、サラマンダーとかおいしいクエストねえんだもんなぁ…)



 いつの間にか黒板にはビッシリと白い文字が書かれていた。蓮夜は軽くそれを一瞥し、内容を一瞬で頭に叩き込む。相変わらず、未だに俺の予習範囲内らしい。



(ふむ…久々に現地調査(・ ・ ・ ・)でも行くか)



 そう決めた俺は、ナイト・レイジ略図を削除した。



















――to be continued――

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