God out of Machine
次にアリスは地下要塞の中枢へと入った。
アテア王国の叛乱分子だ、旧政権の人間が作った組織、その中枢とも言えるべき場所に入った。仮に普通の人間ならばこの反乱軍を一人で鎮めることなど不可能だろう、しかしアリスは人ではない、人が天使と呼ぶ者だ。
一人で数万の兵も制圧できる能力を持っている、それを止める事ができるのだろうか、もっと大きな力があればできるのかもしれない...
その大きな力が目の前にあった。
神の代行者、アテナと名付けられた生体兵器、どうしたらこの巨体を維持できるのか、巨大なガラス管の中に満ちた水、その中で無数の管を身体に繋がれた女神が眠っている。
「ふーん、確かに似てますけど、模造品でしょ」
漆黒の剣を召喚して周囲にあった装置に突き刺して破壊した。
「目覚めろ化け物...私が破壊してやろう」
アテナはうっすら目を開いた。
ガラス管の液体がゆっくりと抜けていく、そしてアテナの目は天使をしっかりと捉えていた。
『天使...』
アリスはその声を聞いた。目の前のアテナの声か、周りには誰もいない、声も音ではない、意識に語りかけられてるようだった。
「貴様、話せるのか?」
『殺す...』
「いいか化け物、私の前に平伏し許しを請うなら見逃すが、そうでなければ破壊する。」
アテナの手がアリスを捕まえようとガラスを突き破り襲って来る、室内の装置はそれだけで原形を留めないまでに破壊された。
しかしアリスは彼女の手に捕まる事なく、むしろその手を伝って彼女の肩に乗っていた。
「遅いぞ化け物」
剣を首筋に突き立てたが、彼女からすれば針のような剣に過ぎない、急所を突くか一撃で大きな損傷を与えなければ倒す事は難しいだろう。
彼女は何を思ったのか壁を登り始めた。円筒の中に梯子のような部分がありそれをよじ登る、外に出るつもりなのだ。
アリスはそれを見守る、ここで壊すより、こいつと遣り合いたいと思った。
アリスは彼女の首筋に手を触れた。
「そうか...ここでは不利だと知ったのだな」
アリスは飛び立ち天井を目指す、そしてあの扉を内側から破壊した。障壁の魔法陣は扉の内側に描かれていたのだ。
そして後からアテナが姿を見せた。巨大な剣を抜きアリスの方を睨みつけた。
アリスは急降下してアテナに切っ先を向ける、巨大な鉄の塊が目の前を塞ぐ、
巨大な剣身だった。
アリスは剣圧で吹き飛ばされた。だが空中で姿勢を立て直して剣を構え直す。
「速いじゃない...」
『我は神...』
「八つ裂きにしてくれる、神を騙る愚か者!」
再び間合いを詰めるが彼女の腕はそれを容易く振り払う。予想外の機動にアリスは翻弄された。
「ネフィリムなんかよりずっと面白いぞ、化け物」
アリスは即座に切り返して反撃に移る、ネフィリムより遥かに大きくて俊敏ではあるが、アリスはその弱点をしっかりと捉えていた。
急降下して足元までくると彼女の足に剣を突き立てる。ネフィリムもそうだったが動きを封じてしまえばどうにでもなる、しかしこれはネフィリムに比べるとあまりに大きい。
かつて対ネフィリム掃討戦をした天使ならば倒せるのだろうか...、ネフィリムを簡単に倒せるとすればティアリス、ユリュシアの二人だろう、しかしユリュシアは力を封じられている...
自分で処理すると言った手前ティアリスに頼るのも悔しい...
私一人でどうにかするか?これを倒したら帝国でも更に上級の天使になれるだろう。
アリスは空中に巨大な魔法円を描き始める、対ネフィリム魔法円、リリスができたのだから私もできるだろうという安直な考えだった。
空中に描かれた巨大な魔法円が光り輝く、それが完成した時、アリスは光に飛び込んだ。急激に力が流れ込んでくるのを感じる、身体も数倍に巨大化しているようだ。
「これくらいなら制御可能か」
ニヤリと笑ったアリスは大剣を召喚して構えるとアテナに斬りかかった。
「殺す!殺す!神を騙る奴は殺す!」
アリスは狂気染みた叫び声とともにアテナの右腕を斬り落とした。ドサッと砂漠の砂の上に腕が落ちる...、アテナも反撃をするが腕を斬り落とされ、その血が滝のように流れて動けずに膝をついた。
「どうした化け物!もう終わりか!」
少しの沈黙の後に声が聞こえた。
『殺して...』
その意思がはっきりと聞こえた。同時に深い悲しみの感情までが流れ込んできた。人によって作られた人は深い悲しみとともに砂上に横たわった。
「口ほどにもないな...灰になれ...」
その巨体は炎に包まれ、元の姿に戻ったアリスも意識を失って砂の上に落ちた。
ティアリスの元に一通の手紙が届いた。
アリスからの報告書だった。
“巡礼者失踪の件
アストレア王国捜索隊を含め犠牲者は百八十五名、全て死亡、ネフィリムという存在に関して、これに該当する対象はなし。
事件の首謀者は前政権の反乱分子であったため国内法により処刑致しました。
Alice Blade”
そう簡単に書かれていた。