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Nephilim  作者: 莉央奈
1/3

遭遇


西方教会本拠地、城塞都市ブリュンヒルデ。

アステリア帝国首都であるこの大都市の教会に一報が入った。


『シュハルク砂漠巡礼中の信徒から貴国入国後音信が途絶えた。貴国領内につき至急調査されたし。

尚、無事であれば保護を要請するものなり。

東方連盟 フラン・エイドリヒ』


アストレア王国 アリス・ブラッド宛にティアリスから連絡が入った。

『久しぶり、アリス』

「陛下こそ、まさかユリュシアが貴女の身代わりになっていたとは思いませんでしたが」

『ユリスならここにいるわ。娘の警護としてね。』

ティアリスはニヤリと笑う。

「用件はなんですか?」

『シュハルク砂漠の調査をせよ、殉教者一団が音信不通ということだ。同盟国の要請につき最重要事項とする。見つけ次第保護せよ。』

「御意」


砂漠への捜索隊は二十名ほどの小隊規模だ、二週間分食糧と荷物、武器を手にして国境へと向かった。

有翼人、アールヴの姿もちらほら見える。

国境に近い街を出ると東へと向かう、巡礼のルートは分かっている、普通ならそのルートを逸れるはずはない。


王宮のアリスの元に一報が届いたのはその数週間後だった。

『捜索隊は予定期日を過ぎても帰還せず。』

念のため期間を定めておいて正解だった。

アリスはすぐさま五十人規模の中隊を編成した。

『今回は巡礼者及び我が軍の捜索隊の捜索、いかなる事象が発生した場合でも冷静に対象せよ。対応しきれない場合は直ちに報告せよ。尚、戦時下ではないので身の危険を感じたら直ぐに撤退せよ。』

指揮官は長々と任務について説明していく、捜索隊とは言え屈強な兵士、アールヴや有翼人まで帰ってこないのはおかしくないか、そしてこの武器群だ。

禁忌とされる銃やライフル、ヴァルトノア王国軍が使うようなライフルを背負い馬を走らせる竜騎兵、馬二頭の引いているのは荷車とそれに混じって小径の大砲。

説明によれば多少厄介な魔物が出ても対応できるようにと言う事だ。

「俺たち何しに行くんだ?」

誰かがボヤく...

確かにこれは捜索以前に何かと戦う事を前提にしているようだ。

確かに、捜索隊十名が音信不通のまま帰ってこないとなると、何かしら事故に巻き込まれたか、あるいは魔物にでも襲撃されたか...

憶測ばかりだが最悪の状況を考えての事だろう。


国境に近い街


ここの住民に話を聞くと、帰ってこないのは巡礼者や捜索隊ばかりではないという、ここに住む住民も近くの街に行く際に忽然と姿を消すようだ。

必ずしも全員ではないのでたまたま魔物に襲われたのだと言う。

やはり魔物がいるのだろう、それも相当ヤバそうなのが...

出発前日の夜、宿舎を抜け出した兵士が酒場を訪れた。

飲んだくれの連中がまだ騒いでいるようだ。

一人で酒を飲みながらその雑談に耳を傾ける、他愛もない会話だ、もう一杯飲んで戻ろうとした時ふと耳に飛びこんだ会話に興味を惹かれた。

「アテアの王様も諦めてこっちにくりゃいいのに、旧政権なんぞより楽に稼げていいよな」

「ちげえね〜、だがこの街の水もそろそろ枯れてきてるし、俺らも別の場所にいかねぇとならんかもな」

そんな飲んだくれの雑談に混じって聞こえてきた。

「ネピリムがいるんだ...ネピリムがみんな食いつぶすんだ...水も食糧も...」

ネピリム...そう言ったのか?

古の超兵器と言われるあれを...?

伝承にはこうある

“その巨体は数十メートルないしは百メートルを超え、敵の一団を容易く壊滅する、創造主が創った世界を破壊するために創られた。”

しかしながらその全貌を知るものはいないと言う。

アストレアの兵士はグラスに残った酒を一口に飲み干すと酒場を後にした。


翌朝、アストレア王国の兵士らが出発すると、街は静けさを取り戻した。

期日は二週間、それまでに捜索を完了しなくてはいけない、それで発見できなければ帰還するのみである。

一路東の砂漠地帯へと進む、昔は広大な森林地帯であったが、いまはその面影は残されていない、全ては世界を巻き込んだ戦争の為だ、何度も繰り返されてきた。

歴史上世界を巻き込む戦争は五回行われ、この大陸でも大規模な戦争は三回行われている。

前回の戦争でも腐敗した大地が形成されていた。

この広大な砂漠から天を貫くような建造物がいくつか見える。


一日目、めぼしい発見はなく、廃墟の街に野営地を築く、目的地はこのさらに東だ。

二日目、夕闇が迫る頃、目的地周辺に辿り着く、かつて聖地と呼ばれた場所はここから南に数百キロ行った場所だ。

巡礼者のルートからすれば自分たちはその逆を進む事になる。

三日目、捜索の為陣形を開く、前方の哨戒部隊、そのすぐ後方に支援部隊、中央後方には補給部隊とその護衛部隊、そして長距離砲を装備した支援部隊が展開している。

「こんな無茶な陣形でいいのか?」

部隊長の隣を並走する下士官がぼやいた。

「忘れるな!これはあくまで捜索!戦争に来てるんじゃないんだ!」

「これだけ武装してか...?」

「黙らんとその口をライフルで吹っ飛ばすぞ!」

「了解であります!」

「隊長!」

今度は別の方から隊長の馬に並走するように兵士が寄って来た。

「昨日聞いたのでありますが!」

「何だ?」

「街の人間に聞いた話ですと、ネピリムではないかとの噂話があるようです!」

「噂話を信じるな!お前はその目で見たものを信じろ!」

「はっ!」

その兵士はすぐさま持ち場へと戻って行った。

「どう思う?」

「所詮は噂話ですが、火のないところになんとやら...、噂だとしてもそれに近い何かがあるやもしれません。警戒は必要かと...」

「マジでネピリムなら俺たちの向かう先はゲヘナかも知れんぞ?」

「お供します!」

全力で疾走する、しばらく馬を走らせた所で前方から赤い煙幕が上がった。その直後に前方の哨戒部隊から伝令が来た。

「この先で遺品と思われる物を発見しました!一部に我が軍の徽章が混じっていたとのことです!」

「信号矢!赤!」

隣の兵士が矢を一本抜いて弓を構えて矢を斜め前方に放つ、ヒューっと甲高い音と共に赤い煙幕が上がった。

全軍が停止し隊形を方陣に変えていく、そして更に伝令が来た。

「遺留品らしきもの多数あり、何れも砂上に点在、尚、近隣に不審な足跡等はありませんでした。砂で消えたものと思われます。」

その報告を聞いて実際に現場を見てみると、確かにやや窪んだ砂地の上に綺麗に置かれている、その光景にむしろ違和感さえ感じる。

もし風で足跡が消えたなら、どうしてこの遺留品は砂に埋もれずにあるのか...

「哨戒部隊の有翼人に周囲を偵察させろ、怪しいものがないか徹底的に調べるんだ。」

日が暮れていく、その日は何の収穫もなく野営することになった。


そして六日目になった。

突然目の前の砂漠地帯に裂け目が現れた。

五十メートル四方の巨大な裂け目だった。


「なんだ...?」

裂け目の中から突然巨大な柱が現れたかと思うと地面に倒れた。

砂塵が巻き上がる中で見たのは巨大な手だった。

そして更にもう一本、そして本体のお出ましだ...

だがそれは化け物と呼ぶにはあまりにも美しすぎた。金色の長い髪に青く深い青の瞳、男なのか女なのかそれすらも分からない、神がいるとすればおそらく今目の前にいるこいつの事だろう。

地上に立ったそいつの姿は、神話で語られるように“地上に足をつき、頭は太陽に届く...”まるで自分達が虫のような存在だ。

「なんつーでかさだ...」

「こいつにやられたのか...?」

「こいつがネピリム...?」

ズゥン...

砂塵が舞う、そいつの足が哨戒部隊の真ん中に踏み降ろされていた。

その姿に圧倒され、完全に逃げる機会を失っていた。次々と兵士が踏みにじられていく...

「散開し撤退!」

撤退命令が出た。

後方の部隊からもその光景が見えていた。何を思ったのか偵察員が観測用の双眼鏡を取り出す。

「おい!撤退命令だ!」

「あとちょっと...でかいくせに早いな...」

部隊はすでに方向を変えていた。

「多少誤差はありますが、あいつ体長は八十から九十メートル...」

指揮官は慌てて非常用の魔導鏡を取り出した。

映し出されたのはアリスだった。

『何かあったのかい?』

「陛下!ネフィリムが...!」

冷静さを失った指揮官は混乱しながら叫んだ。

『危険を感じたらすぐ逃げろと言うたろ、私の命令は“一人でも生きて帰れ”以上』

アリスは笑みを零した。

女王の笑みを見て指揮官は見捨てられた気がした。

そして指揮官は再度命令を出す。

「女王陛下からの命令を伝える!一人でもいい!生き残れ!」

有翼人ならば生き残れるかもしれない、だが彼らの飛行能力では敵の機動の前には無力だった。敵の巻き起こす乱気流に翻弄され、簡単に落とされてしまう。

数分で戦力は半分以下にまで落ちていた。


アリスは魔導鏡を操作してティアリスを呼び出した。

「アストレア王国アリス・ブラッドです。」

『随分と遅かったな』

「ええ、どうやら作戦は失敗したようです。しかし収穫はありましたよ、ネフィリムが現れたと報告が...」

『あれはもう何百年も前に葬ったはずだが、本当か?』

「出現した場所も分かりましたし、あとはお任せください。私が仕留めてみせます。」

アリスは玉座を立ち一歩前に進む。そして側近と王女に向かって言った。

「私はこれよりネフィリム討伐に赴く、その間の事はまかせます。」

「お一人で行かれるおつもりで?」

「私一人で十分でしょう。」

アリスはそう言うと玉座の間から出て行った。

先の戦争で彼女の力は嫌というほど知っている、アステリア帝国の四将に選ばれるくらいだ。


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