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名前

「……っ!」


 俺、佐倉さくら しゅうは今、なぜか壁際に追いやられている。俺を追いやっている奴がなぜか俺の顔のすぐ横に両手をついていて、なぜか逃げられないように俺の両脚の間に脚を入れていて、なぜかその吐息が掛かるほどの距離で俺を見つめている。

 ここで少し考えてみてほしい。こうして俺に迫っている目の前の奴が美少女だとしたら。迫られている、というこの状況も少しは(正直言うと凄く)楽しめる気がしないだろうか。

 さて、今までの話は仮にも〝美少女だった場合〟についてだ。では、もしもそれが男だったら? 男が男に迫る、という行為を想像するだけで吐き気がするだろう。事実、俺がそうだ。では今一度、冒頭に戻ってほしい。そして想像するんだ。まず、美少女が俺に迫っているところ。次に、男が俺に迫っているところを。……想像していただけただろうか。では、本題に戻ろう。俺が今置かれているこの状況は――――後者だ。


「だぁぁぁああ! 何が嬉しくて男に迫られなきゃなんないんだ! 説明しろ御崎みさき、三十字以内で簡潔に!」

「落ち着けって修! オレにもそれ相応の理由があったんだよ!」

「きっかり三十字で収めやがって!」


 くそ、学校の廊下でこんな醜態を晒す羽目になるとは! 廊下を歩く生徒の視線が痛い……! 未だ離れようとしない御崎を思い切り突き飛ばした後、握り締めた両手でこの馬鹿の頭をぐりぐりしてやった。ハッ、ざまぁみろ!


「うぐぐ、痛いじゃないか修くん! あぁ痛い、心が痛いわ修くん! 私を慰めて!」

「嫌だ」


 俺の脚にしがみ付いて来る鬱陶しい馬鹿を足蹴にしながら、なぜあんな気色の悪いことをしたのかと問い掛けてみた結果、意外な答えが返って来た。


「……名前?」

「おうよ!」


 御崎曰く、御崎は俺のことを名前で呼んでいるのに、どうして俺は蒼太そうたと名前で呼ばないんだ、とのこと。つまり俺に迫ったのは、俺に名前で呼ばせるためらしい。(だからといって迫る必要は無いと思う)


「だから、ね! オレのこと蒼太って呼んで! ね、お願い!」

「昔から御崎は御崎だろ、今更名前で呼べと言われても、」

「なに、恥ずかしがる必要は無いさ。……でもそんなに恥ずかしいなら蒼太きゅんでも良いぞ!」

「却下」


 付き合いきれん、そう思った俺はその場を後にすることにした。もうそろそろ授業も始まる頃だし、何よりこれ以上ここには居たくない。周りの視線が痛いからなこいつのせいで。

 名前で呼べとしつこい御崎に背を向け歩き出した俺は、次にこいつが発する言葉に驚愕しながらも足を止めることになるんだ。だって考えてもみてくれよ、急に暴露話が始まるんだぜ、俺の。


「待ってくれよ修! 修がオレのこと名前で呼んでくれたあかつきには、中学の頃お前が好きだったゆりちゃんの写真あげるから!」

「な、ななななんで俺があいつのこと好きだったって知って……っ、つかなんで写真持ってんだよ!」

「そんで、前にお前が欲しがってたふわふわでもっふもふの巨大ねこにゃんのぬいぐるみも買ってやるから!」

「べ、べべべべつに欲しがってなんか……!」

「お前がベッドの下にこっそり隠してるちょっとエッチな雑誌より、もう少しだけ大人の階段を上ったレベルの雑誌だって買ってやるからぁ!」

「それを勝手に隠していったのはお前だろうがぁぁぁああ!」


 あああ、なんだよこいつ本当に! 殴りたい、思い切り殴りたい、気が済むまで殴った後、木に吊るし上げたい……! や、でもゆりちゃんの写真は欲し……違う違うそうじゃなくて!

 未だ俺の暴露話を続けようとする御崎を一発殴り黙らせ、少し考える。このまま何もお咎め無しだと同じことをし兼ねないし、そうすると俺の面子に関わる……


「……え、え? 修くん、ちょっと顔が怖いよ? え、ちょ、あの、」

「蒼太くーん、歯ぁ喰いしばれ」

「やっとオレのこと名前で呼ん……や、あの、落ち着こうか修くん、ね、落ち着こう、一旦落ち着こう、深呼吸しよう、ね、だから、ほら、そんな不気味なほどの笑顔でこっちに来ないで、ね、お願い修くんもうしませんもうしないからお願い落ち着、ぎゃぁぁぁぁぁああ!」





吊るされた、かも。


お粗末様でした(´・ω・)ノ

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