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飛行機で
「非常口はこちらです!」
「皆様、落ち着いて行動してください!」
人の波の中から、アテンダントの叫びが切れ切れに聞こえてくる。
「お子様連れの方は手を離さないで下さい!」
幼い子供特有の甲高い泣き声がどこからか飛んできて、マーロンの耳を突き刺した。
――パパ、早く帰ってきてね。
――マイク叔父さんにさよならだけしたら、すぐ戻ってきて。
出掛けに纏わりついてきた双子の娘たちの、チョコレート色の、小さな掌。
――あたしたち、二人ともいい子にして待ってるから。
無心に自分を見上げていた、黒ダイヤの様に輝く、四個の瞳。
いつだって、グズで、臆病で、失敗ばかりしてきた俺。
それでも、ここで意気地をなくして死ぬわけにはいかないんだ。
マーロンはゆっくり深呼吸すると、思い切り握り締めたためにますます形の崩れた写真を
胸ポケットに収めた。
大丈夫だよ、マイケル。
今度の滑り台は、俺一人でもちゃんと滑るから。(了)