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星の解読者  作者: 恒星
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予期せぬ人と大聖堂


「ここは…」


グニャリと視界が歪んだあと、エレベーターが上がる時のような懐かしい感覚に襲われた。視界が正常に戻ると、そこは元いた小部屋と全く変わりないように見えた。


「同じに見えるけれど、タウンハウスだよ。この魔法は部屋にあるもの全てを転移させてしまうから部屋には何も置けないんだ」


父が扉を開けると、その先はさっきと同じで書斎だった。しかし内装が違う。窓の外を見て、私はようやく自分が帝都に来たことを実感した。


ルミナ帝国の帝都ルミエール。あらゆるヒトとモノが行き来する、大陸で今一番栄えている都市だ。皇宮を中心に貴族街や大聖堂、商業区、職人街などが順に広がり城壁に囲まれている。街並みは前世で旅行したパリによく似ているが、気持ちとしては初めて東京に行った時の気分だ。


「ようこそおいでくださいました」


書斎を出ると初老の燕尾服を来た男性が頭を下げていた。


「私は───」

「オリヴィエ!」

「…覚えてくださっていたのですね、リリアネヴィラお嬢様」


オリヴィエは全当主の時から公爵家に仕えている執事で、私が幼い時はよく顔を合わせていた。数年前副執事を任されタウンハウスで働くことになったのだ。


「当たり前よ。久しぶりね、オリヴィエ」

「はい、お嬢様。まさか、あの幼かったお嬢様がこんなにも成長しているとは」

「もう、みんなそれを言うのね」


タウンハウスは本邸より小さなものの、それでも十分に広かった。自分の部屋や食堂などを見て回ったあと、私は家族が待つサロンに案内された。私以外の家族はタウンハウスに行ったことがあるので、間取りを既に知っているのだ。


「今日はある方がいらしてますよ」

「ある方?」


誰かしら、と扉を開けると、そこには普段見慣れた顔ぶれの中に懐かしい人がいた。


「セラ兄様!」


私が名前を呼ぶと、ジェミネール家の長男であるセラフィオンは立ち上がって腕を広げた。私が思いっきり抱きつくとセラフィオンは私を抱き上げた。


「リリィ、久しぶり。誕生日おめでとう」

「ありがとう、兄様。兄様に会えるなんて思ってなかったわ!」


私たちの感動の再会を見ていたカシエルがうんざりとした顔で言った。


「たった三ヶ月前にも会ったのに、まるで三年ぶりの再会だな」

「セラ兄様がアカデミーに入学してから会えることがほとんど減ったんだから、三年ぶりと言っても過言ではないわ。ねぇセラ兄様?」

「そうだね。リリィに会えなくて寂しいよ」

「でも兄様、私はもう十歳なのよ。この姿勢は恥ずかしいわ」


私がそう言うとセラフィオンは名残惜しそうに私を床に下ろした。どうにも彼の中で私は三年前から時が進んでいないらしい。


今年十六歳になるセラフィオンは問題児のカシエルと違って眉目秀麗成績優秀な次期公爵だ。アカデミーでは毎年表彰されているらしい。前世で兄が欲しかった私にとって完璧なお兄様だ。若干シスコンだと思わないでもないが、私も大概ブラコンなので目を瞑ることにする。


「そのくらいにして、大聖堂に行きましょう。馬車を用意させてるわ」


馬車は家族五人が乗り込んでも全く圧迫感がない小さな家のようなサイズだった。私は窓の外を流れる景色を眺める。貴族街なだけありどの家も大きく、行き交う人々は貴婦人や紳士ばかりだ。ファンタジーのような心躍る光景に私は感動した。ような、ではなく本当にファンタジーの世界なのだが。


帝都には大聖堂は複数あるが、今回輝石の儀を行うのは中でも一番大きいルミエール大聖堂だ。馬車から降りると私はその荘厳さに圧倒された。ノートルダム大聖堂やケルン大聖堂を彷彿とさせるゴシック様式で、外観を見るだけでも来た甲斐があるくらい美しい建物だった。


「ジェミネール公爵家の方々ですか?」

「はい」

「私はこの大聖堂の副司教を務めております。どうぞ中へ」


副司教の後ろについて中に入ると、外観に劣らない見事な作りだった。副司教が中央身廊や祭壇を案内してくれ、そこにある絵画や逸話を話してくれるので気分は完全に観光者だ。


「では、リリアネヴィラ様はこちらへ。大司教がお待ちです」


そう言われて私は輝石の儀を受けに来たことを思い出した。正直もう満足で、お土産でも買って帰りたいのだがそういうわけにもいかない。私は家族に別れを告げて副司教の後に続いた。

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