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星の解読者  作者: 恒星
3/6

知ってることと知らないこと

「輝石の儀…」

「本当は領地の教会に行くのだけれど、特別に大聖堂の大司教様にして頂けることになったのよ」


母がるんるんと機嫌良さそうに「帝都に行くためのドレスを新調しましょうね」と言い、私は笑顔で「はい、楽しみです」と返した。


昨日のことですっかり忘れていたが、そういえば私は来週輝石の儀という一大イベントを控えていた。貴族の子供は十歳の誕生日の日に教会に行って自分の魔法の属性を魔法具で調べる。薄ぼんやりとだが、属性については設定を作ったような気がする。一般的なファンタジーと同じように光、水、火、土、木、闇にしたような。そこまで考えて私は思い出した。星の解読者だけは星属性の適正がある。また忘れてしまわないように頭の隅にメモをした。


「それでね、あなたの誕生日パーティーのことなのだけれど」

「はい」

「皇帝のご厚意で皇宮で催すことになったの!」

「皇宮…ですか?」

「ええ、リリィは初めてかしら?皇帝陛下や皇妃殿下にもご出席して頂けるそうよ」


面倒なことになった、というのが本音だ。皇帝や皇妃についてはよく覚えていないが、皇太子はヒロインであるリリアと結婚する設定だったのだ。そして悪役令嬢リリアネヴィラは皇太子に恋していた。もうおわかりだろう。リリアネヴィラは嫉妬からリリアを虐める。王道中の王道展開だ。


その先の展開は思い出せないが、リリアネヴィラが皇太子によって断罪されるのは間違いないだろう。私がここが黒歴史の世界だと気づく前から恐れていたことだ。


私はチラッと母の表情を見た。とても楽しそうに飾り付けやドレスについて話している。


「ああ、大急ぎで招待状を送らないと。ねぇリリィ?」

「ええ、そうですわね。わたくし、とても楽しみですわ」


父と顔の好みが似ている私はとても母の悲しむ顔を見たくはなかった。


***


その夜、私は自室のソファに座りぼんやりと考え事をしていた。


この世界を知れば知るほど、私の知る設定から乖離しているような気がする。私の書いた物語では、リリアは星の解読者であり消失した星の女神の生まれ変わりだった。星の女神が遺した預言書を読み解き世界を救う救世の乙女。それが私の知る設定。


この世界では、星の解読者ではなく星の聖女で、星の女神は消失したのではなく眠りについたことになっている。


なんだか不気味だ。私が作ったはずなのに、私は知らない。昨日までの常識が非常識に変わったような、違和感ともいうべき気持ちの悪さがある。


もう少し前世のことを思い出せばこの違いについてなにかわかるかもしれない。物語のことだけでなく、前世の私自身について考えてみる。平凡な少女だったように思う。父と母の顔さえ霞がかかったような記憶しかないが、どこにでもあるような平和な家庭だった。


今でもたまに夢を見る。家族で遊園地に行ったり、桜が咲く街道を散歩したり、ピクニックに行ったり。全て朧気で、朝起きるとその情景は記憶から徐々になくなっていく。


ただの夢じゃないか、と思うこともあった。生まれたばかりの頃の記憶も、私が作り出したものかもしれない。


けれど、どうしてもそうは思えなかった。なぜなら、朝目覚めても鼓膜に私を呼ぶ声がやけに生々しく残っている。


『玲奈』


私の名前は玲奈だった。柔らかく私の名前を呼ぶ声。誰のものかはわからない。けれど、酷く懐かしい。泣きそうになるくらいに。

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