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梅の屋:騒動記  作者: velvetcondor guild


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第二十八話:蔵を狙う牙、一番組の密告

『梅の屋:騒動記』


第二十八話:蔵を狙う牙、一番組の密告


「……源之丞、お前の『鼻』に聞きたいことがあってな」

ある夜の更け、「梅の屋」の裏戸を叩いたのは、北組一番組の頭・荒木剛蔵であった。

その横には、屯所に詰めていた曲直瀬弦一郎も付き添っている。源之丞は、竹子に「内密の酒と肴」を用意させると、二人を奥座敷へ招き入れた。

「……剛蔵殿、こんな夜更けに。ただの飲み直しではありますまい」

「ああ。ここ数日、火事場の焼け跡や船場の外れで、妙な連中をよく見かける。……身なりは下級の武士だが、眼光は飢えた狼だ。それが、これまた胡散臭い商人と連れ立って、どこぞの地図を広げてやがる」

剛蔵の言葉に、源之丞の表情が引き締まる。

「……彼らは、かつて私が潜入した『句会』の生き残り、あるいは伴林に唆された浪人たちの残党かもしれません。……標的はわかりますか?」

「ああ、連中の口から**『鴻池の北蔵』**という言葉が漏れた。……あそこには、幕府へ納める前の莫大な銀と、何よりこの街の米相場を左右する『蔵預かりの証文』が眠っている」

源之丞の脳裏に、先日助けた鴻池の孫娘・お琴の姿が浮かぶ。

「……鴻池を襲えば、大坂の経済は根底から崩れます。それはもはや、単なる盗賊の仕業ではない。大坂という街への『復讐』だ」

弦一郎が、静かに口を開いた。

「……剛蔵殿の言う通り、私の元へ来る怪我人の中にも、刀傷ではなく『蔵のかんぬきを壊すための特殊な道具』で指を潰したような、不審な男が数人おりました。……決行は、おそらく今度の新月の夜」

源之丞は立ち上がり、壁に掛けた十手を手に取った。

「……剛蔵殿、一番組の力、貸していただけますか。奉行所の正規の出動を待っていては、内通者に漏れる恐れがある」

「がっはっは! 当たり前よ。俺たちの仕事は火を消すことだが、大坂の火種を事前に踏み潰すのも、一番組の役目だ」

その時、襖の向こうで聞き耳を立てていた梅子が、音もなく盆を運んできた。

「……源之丞さん、剛蔵さん。……相手は必死や。しっかり食べて、根性据えていきや。……お琴ちゃん(鴻池の孫娘)を泣かせたら、うちが許さへんで」

梅子が出したのは、力が出るようにと精をつけた「鰻の白焼き」と、握り飯。

そこには、三人の男たちの無事を願う、彼女なりの覚悟が込められていた。

【本日のお献立:決戦前夜の「結束」膳】

うなぎの白焼き・山葵添え: 精をつけ、集中力を高めるための一品。甘いタレではなく、あえて塩と山葵で「士気」を高める。

鉄火味噌の特大おにぎり: 一番組の男たちが好む、ガツンと塩気の効いた握り飯。

(梅子の独白): 「……源之丞さんは法を守り、剛蔵さんは街を守り、先生は命を守る。……そやから、うちはこの三人の『腹』を守るわ。……お父ちゃん、大坂がまた荒れそうやけど、見守っててな」

【後書き:時代考証】

鴻池の北蔵:

大坂随一の豪商、鴻池家の蔵は、単なる金庫ではなく、当時の金融システムの中枢でした。ここが襲撃されることは、現在の銀行システムがハッキングされるに等しい大打撃を意味します。

下級武士と商人の共謀:

戦のない時代、困窮した武士(浪人)の武力と、知恵の回る悪徳商人が手を組む犯罪は、奉行所にとって最も警戒すべき「知能的かつ武力的」な脅威でした。



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