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梅の屋:騒動記  作者: velvetcondor guild


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第十三話:船場の夜風と、二人の同心

『梅の屋:騒動記』


第十三話:船場の夜風と、二人の同心


道修町の蔵に踏み込んだ源之丞が、密貿易の浪人どもと死闘を繰り広げているその頃。

「梅の屋」の周囲には、音もなく忍び寄る不気味な影があった。

三河屋を殺めたのと同じ、抜き身のアイクチを逆手に持った男たちが、梅子のいる板場へ繋がる勝手口を狙っている。

「……誰や!」

板場の中、梅子は手に持った「特大のすりこぎ」を握り締め、暗闇を見据えた。

その鼻は、夜風に乗って漂ってきた、あの「にかわ」と「生臭い鱗」の混ざった異臭を、はっきりと捉えていた。

「お母ちゃん、竹子姉ちゃん、奥へ! 奴ら、来たわ!」

梅子の叫びと同時に、勝手口の戸が乱暴に蹴破られようとした――その時。

「おっと、そこまでだ。夜更けに女子おなごの城を覗くとは、粋じゃねぇな」

闇の中から、聞き慣れぬ、だが低く凛とした声が響いた。

西町奉行所、源之丞と同部屋の同心・**佐々木兵馬ささき ひょうま**である。源之丞とは対照的に、遊び人のような軽妙さを漂わせているが、その剣の腕は奉行所内でも一、二を争う実力者だ。

「さ、佐々木様!」

板場の窓から覗いた梅子が声を上げる。

兵馬の傍らには、彼の手下である岡っ引きの長助と、威勢のいい下っ引きたちが、提灯を隠して待ち構えていた。

「源之丞の奴、随分と心配性だと思ったが……正解だったようだな。長助、野郎どもを一人も逃がすな。東横堀の仏の仲間入りをさせてやる」

「へい、がってんだ!」

提灯が一斉に開かれ、暗闇が昼間のような光に包まれる。

不意を突かれた賊の残党どもは、狼狽え、逃げ場を失った。

「御用だ! 西町奉行所の夜警である! 抵抗すれば容赦はせん!」

兵馬の抜刀が、月明かりを反射して美しく弧を描いた。

アイクチなどという小刀では、鍛え抜かれた武士の太刀には敵わない。兵馬は流れるような身のこなしで賊の腕を叩き、一人、また一人と石畳に這わせた。

その間、梅子はお菊と竹子を守りながら、板場から賊の頭に「重たい大根」を次々と投げつけ、兵馬の加勢をしたというのは、後日の笑い話である。

「……ふぅ、片付いたな。梅子殿、怪我はないか?」

兵馬が刀の血を拭いながら、爽やかに板場を覗き込んだ。

そこへ、道修町での捕物を終えた源之丞が、肩で息をしながら駆け込んできた。

「兵馬! 無事か!」

「遅いぞ、源之丞。お前の義妹いもうと殿はなかなかの強者だ。大根で賊の頭を割るとは、恐れ入ったよ」

兵馬の軽口に、源之丞は膝をついて安堵の息を漏らした。

淀屋の心付けで買った三姉妹の着物は、一滴の血で汚されることもなく、奥の箪笥で静かにその出番を待っていた。

【本日のお献立:夜警への感謝膳】

冷やし飴と塩おにぎり: 駆けつけた兵馬と長助たちのために、梅子が急いで用意したもの。塩気の効いた握り飯が、捕物後の興奮を静める。

叩き大根の浅漬け: 「武器」に使われなかった残りの大根を、さっぱりと漬けたもの。

【後書き:時代考証】

同心と夜警:

江戸時代、同心は交代で「夜警(夜回り)」を行いました。同部屋の同心同士は非常に絆が深く、非番の時でも互いの家族を守るために融通を利かせることがありました。

佐々木兵馬:

源之丞のような真面目なタイプに対し、少し世慣れた同心の相棒です。



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