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5.緊急会議

 正式にキャンプの開催が決まったのは、エミカから話を聞いてから一週間後のことだった。メリッサが充分に実戦に慣れるよう、余裕を持った形なのだろう。


 それに伴って、私の中でずっと疑問に思っていたことを解消する、良い機会であると判断した。新メンバーが加入したことにより、その意義も存在すると感じたからだ。


 そうして、時間が合うタイミングで、全員を喫茶店に招集した。おまけにアリスマリスも混ざっているが、そこはおまけ、というよりも賑やかし要員として受け入れよう。


 私はカウンターに腰を預け、タバコをふかしながら、全員に向かってこう問い掛けた。


「キャンプで食べるカレー、なにが入っていると嬉しい?」

「そんなことで呼び出したんスか!?」


 ダイナはそう突っ込むが、私は重要だと思ったから、こうしてみんなを呼び出したのだ。


 例えば、私は唐揚げが大好きである。かと言って、カレーにも鶏肉を絶対に入れる。というわけではない。むしろ、豚肉、それもブロック肉を一口大に切ったものを入れるのがベストだと考えている。


 もしくは、ポトフを作った後にカレーに改修をする、ということを踏まえて、ソーセージというのもありである。


 キャンプという、持ち込める材料に制限がなされる中、それぞれの好みがあったのなら、事前にそれをすり合わせておきたい。みんながみんな、私と同じような好みでもあるとは限らないから。


 ポトフなんかおかずになるかよ! なんて言われてしまえば、カレー改修計画も白紙になってしまうのだし。


 ずっとこの話をしようしようと思っていたのだけど、これまでは比較的急に予定が入っていたから、事前に話し合う猶予がなかったのだ。新人加入とタイミングが合った。これは幸運なことなのだ。


「重要よ。これは、とても重要な会議になるわ」


 サキの言葉には重みがあった。事の重要性を、把握してもらえているらしい。ならば、私が先手を打っておこう。


「因みに、私は茄子が苦手だから入れたくありません」

「あちゃー、先手を取られた。野菜たっぷりなカレーが好きなのにー。アトリさんの偏食家!」


 エミカの恨み節は、文字通り煙に巻いておこうか。


「こういうこともあるから、事前に話を聞こうってわけ。ダイナ、お分かり?」

「よーく、分かりました。俺、ツナ缶が入ったカレーが好きなんですよ」

「お、缶詰は持ち運びに便利だからポイント高いよ。それは採用」

「やった!」

「ぶーぶー。ダイちゃんずるいー。アタシはどうしようかなぁ――」


 エミカが悩む素振りを見せている間に、ノゾミがそっと手を挙げた。


「バナナはカレーに入りますか?」

「入ります」


 そんな、オヤツみたいに言わなくて良いのに。


 とは言えバナナは隠し味として甘みを出すのに使えるし、揚げて添えるだけでもアクセントになる。肉や野菜に目が行きがちだけど、リクエストされたら使い道が多い、万能な食材と言えるだろう。


 なにより、そのままでも食べられる。美味しい。


「四泊の予定って聞いているし、カレーは二回出したいな。その方が荷物を纏めやすいし」

「じぁ、後にもう一つバリエーションが欲しいんだね。うーん、アトリさんの好きな野菜ってなんです?」

「水菜」

「それは脇に添えるサラダのやーつ」


 まぁ、私も水菜をカレーに入れる発想にはならないかな。どちらかと言うと、根菜だとか実のなるものの方が合う印象がある。白菜やキャベツのようなものは合うだろうけど、他の葉物はどうなんだろうか。


 チンゲン菜は……、青菜のクリーム煮を例に挙げれば、馴染みはないが合わないことはないと思う。空芯菜とかはどうなのだろう。流石に、馴染みがないものを挙げ過ぎか。


「後はもう、アトリさん目線で言うと、ジャガイモ盛りだくさんしか思いつかないかなぁ。メリたんはどう?」


 ターンは沈黙していたメリッサに移る。海外の風を吹き込んで、私のカレーはどこに行き着くのか。海外のカレーか、取り分け本場のインドで言うと、豆のカレーがまず思い浮かぶ。そのあたりは、私としては未体験ゾーンだ。和洋中、ギリギリイタリアンしか学んでいないから。


 ……いくら学んだとはいえ、記憶にあるかどうかは未知数だけど。

 

「私ですか? 私は……、日本流のカレーは、まだ未体験です。何がいいのか、ちょっと、いまいち」

「あらー、そうなの? お母さんとか、作らなかった系?」

「はい。結婚してから料理を覚えたそうで、基本的に母国の味です」


 なるほど、それなら日本の味が食べられそうにない。そう考えると、日本人の幼馴染の家で食べたというお菓子も、衝撃だっただろう。


「それは可哀想だな。アトリさん。先ずは試食してもらったらどうっすか?」

「そんなことを言って、ダイナは自分が食べたいだけなんでしょ?」

「そうでもあります」


 まったく。そう言って煙を吐き、短くなったタバコを灰皿で揉み消す。何故タバコを吸っているのか。それはつまり、料理をし終えた後だからである。


「とりあえず、カレーは作ってあります。豚肉と、ジャガイモとタマネギ、ニンジンのオーソドックスなやつをね」

「ひゅー。最高っすね」

「リンゴは入ってる?」

「隠し味に、少しは入れたけど……。ノゾミってそんなにフルーツ好きなの?」

「ほどほど。でも、隠し味にフルーツが入っていると、なんか、お得感がある」

「あ、それわかる~。なんかこう、料理! って感じがするよねー」


 思わぬところで、ノゾミとエミカが解りあった。メリッサも期待を込めた視線を向けているし、夕食には少し早い時間ではあったけれど、軽食程度に出しておこうか。


 準備してくる、と言ってその場を離れようとした時、それを制する声が響いた。


「その前に、とても重要なことを話し合わなければなりません」


 みんなの意見をじっと聞いていた、サキが口を開いた。


「私は、辛口が好き。辛口が食べたい。身体が辛さを欲しているのよ!」


 それは、魂の慟哭であった。心を震わすような、そんな思いが込められていた。


 思えば、私はそこまで辛い料理は作らない。いや、別に辛いものが嫌いというわけではなく、むしろ大好きな部類であり、納豆にだって一味をかけて食べるくらいだ。


 そんな私が、辛い料理を殆ど作らない。作ったとしても、麻婆豆腐などの、辛いことが当たり前の料理を作る時くらいだ。その理由は、ひとえに――。


「いや、だって、アリスが辛いの苦手だから」

「だから、辛いのを作るって決めてほしいの。ダンジョンには、私達しか行かないのだから」


 ……よほど我慢していたのだろう。私があえて触れなかったことに、ビシッと踏み込んでしまった。


「うわーん! どうせ私はキャンプには参加できませんよーっ! そんな人の前でキャンプ飯の話をするなんて、酷すぎないかい!?」

「誘ってもいないのに、勝手にやってきたのは貴女でしょうに」


 そう、だから私は、彼女を誘わなかったのだ。


 彼女は強制転移の際、自身のいる場所の近くを座標として設定している。だから、どうしたってダンジョンには同行できないのだ。完全に安全が確保されているケースなら別なのだが、今回は完全に危険案件。料理の話をしたところで、どうせ彼女は食べられない。そんなお預けみたいなこと、させたくはなかったからね。


「みんなでこっそり美味しいものを食べるのかと思ったんだよ! 当たりだったよ! でもなんなのこの扱いは!」

「そんな、黙ってこっそり食べるなんてことはしないって」

「アトリは、こっそりマーガリンを食べている」


 それとこれとは話が別だ! パンに塗る前のちょっとした楽しみを、みんなの前で暴露しないでほしい。


「こうなったら、みんながカレーを食べているときに、強制的に転移させてやる」


 なんという職権乱用。無闇矢鱈に使っても、カレーを得られる食券はあげられないけどね。


 拗ねるアリスマリス。申し訳なさそうにするサキ。どうしたものか、と困惑した表情のエミカ、ダイナ、メリッサの三人。いつの間にか傍に寄っていたノゾミは、私に向かってこう言った。


「カレーだけにお疲れー」


 それは、私には言えない駄洒落だ。 

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