13.トルネードフィッシング
「竜巻を起こして、海にいる魚を巻き上げるんです!」
な、なんだってーっ!?
※
と言うのが、焼きそばを食べている間にメリッサが出した案である。
食欲センサーを発揮させたのかどうかは分からないが、焼きそばが完成した直後に帰還したメリッサは、伊勢海老らしきモンスターがいるのは確認したそうだ。しかし、動きが素早く捕まえるのは不可能。動きを封じなければ、料理を食べさせることも出来ないのではないか。
ならば、そう。
「竜巻を起こして、海の中にいる伊勢海老を巻き上げるんです!」
ちょっと言い方が変化した。
「メリッサは、そんなにエビが好きなの?」
「好きですねー。エビフライを箸にしてエビチリを食べたいと常々思っています」
そんな、ネギを箸がわりにして蕎麦を食べるみたいな表現を初めて聞いた。
「エビチリはスプーンで食べたほうがよくないっすか?」
「ダイナ、突っ込みどころが違うから」
溜息とともに煙を吐き出し、私はもう一度タバコから煙を吸い込んだ。
「竜巻を起こすなんて、私たちじゃ出来ないでしょ」
「ネメシスなら出来ると思います!」
出来るの? 視線を向けると頷かれた。
「では、作戦を纏めるわね。先ず、竜巻を起こして海の中にいる魚を巻き上げます。そして空に飛び出た魚は、と言うよりそのモンスター達は、近くにいる敵を襲おうとするはずです。その襲いかかる口に向けて、料理を差し出す」
「ねぇ、サキさん、本当に採用するの? サメが襲ってきたらどうするの? 私、チェーンソーとか持っていないんだけど」
「大丈夫ですよアトリさん。最悪、未来に飛んで伝説のチェーンソーを手に入れるんです」
「アトリちゃん、実は貴女もノリノリでしょ」
まぁ、奇想天外すぎて悪い気はしないかな。
と、そんなこんなで作戦は決まり、空中での活動にある程度自由度を持つダイナが、料理を食べさせる担当となった。
後はネメシスが竜巻を起こし、私達はそれを見守るだけ。料理でモンスターの本来の姿を取り戻すことが可能なのかどうか。その答えが――、今、判明する。
「麺がちょっとだけ残っているから、そば飯でも作る?」
「あ、それサイコー」
モンスターよりも早く、エミカが食いついた。
「そば飯ってなんです?」
「メリたんは知らない? ご当地料理なんだけど、一時期全国的に流行ったんだよねぇ。今で言う、シュクメルリみたいな」
「シチューをかけたご飯みたいなものですか?」
「あ、例えを間違えた。えっと、流行りの料理ってこと。そば飯はね、焼きそばと焼き飯を合体させたような、食べ応え満載なサイキョー料理なんだよ!」
「わぉ! それは、細かくしたパスタのパエリアみたいなものですか?」
「いいや、麺とご飯、両方入っているの!」
「わぉ!? 炭水化物がオーバーフローですね!」
本当、よく麺とご飯を混ぜようと思ったよねぇ。それで美味しくなるのだから、食への探求というものは奥が深い。
仕事終わりのダイナのご褒美にもなるだろうし、ここはパパっと作っておこうか。材料は、焼きそばを作ったときに余ったものを使っておこう。本場のものを作るなんて宣言はしていないから、完全に自己流のもの。
でも大丈夫。鉄板なら、多少の大味も雰囲気で許容範囲内だ。
「風が……」
ノゾミが、髪を抑えて呟いた。
「うっわ、ネギが飛んでった!」
「ちょ、めっちゃ砂が飛んでくる! 沖の方で起こす予定なのに、ここまで風が来るなんて聞いてないよーっ!?」
飛ばされる食材に慌てる私と、目を瞑ってしゃがみ込むエミカ。サキとメリッサは、直ぐに距離を取って状況を注視していた。
「この砂じゃ、料理なんて無理かぁ」
「そんなぁ。これでうまく行かなかったら、恨むからねー」
そんな恨み言も、砂と一緒に何処かへ運ばれていく。沖の方では、天高くまで伸びるかのごとく、一筋の水の柱がゆらゆらと不気味な動きを見せている。
こちらへ近付いてくることはなさそうだが、テレビでよく見る、世界の衝撃映像が頭の中に映し出される。ワゴン車は大丈夫だろうか。砂浜との境に停められたそれに視線を移すと、ざぁざぁと砂が当たっているのが見えた。
「うわぁぁぁっ!? 車! 窓、車の窓開けっ放し!?」
「えぇっ!? ちょ、メリッサ、行くわよ! 直ぐに閉めないと!」
「は、はい!」
「大変だ――、って、アトリさん! コンロガタガタ言ってますよ!」
「ノゾミと一緒に、必死で抑えてるんだけどさ! これ無理そう! バケツに水を入れて持ってきてくれない?」
「今持ってきます! 海水でいいですか?」
「持ってきた水を使って。もう、多分これが終わったら帰るから」
サメが来なくとも、人はパニックになれる。それを身を以て学んだ私たちであった。
※
「で、その成果がこれなわけね」
場所は変わって喫茶店。アパートの住人を集めて、我々の奮闘の成果を確認していた。
「ですです。見た目は完全に伊勢海老です。海の中にいた時は、もっと大きかったはずなのに」
そう言ってメリッサがバケツから取り出したのは、一目見ただけでは違いがわからないくらい伊勢海老にそっくりな、モンスターだったものだ。
ネメシスの解説によれば、戦闘能力を上げるために、巨大化しているのではないか、とのこと。私達が特殊な能力を得るのと、似たようなものなのだろう。
「本当に伊勢海老だと思う?」
私の質問に、彼女は首を傾ける。
「そもそも、これは実体なんだよね? 方舟に保存されるのは情報だと聞いたから、これもその手のものだと思ったのだけど」
「だったら、レアメタルなんかも採掘できるのはおかしいでしょ? それもあるから、実際に食べてみようか、って話になって持ってきたんだよ。とりあえず安全かどうかを確認してもらおうかと思って」
腰を預けていたカウンターから離れ、コーヒーを淹れるために内側へ回る。
慌てたこと。成果を得たこと。その興奮から忘れていたけれど、ダンジョンとこの世界では温度差があり、戻った的に縮こまる思いをしたのを覚えている。空調は利いているが、温かいものを用意したほうがいいだろう。
「貸して。……ふぅむ。質感は伊勢海老だね。活きも良い。方舟は重複した情報は破棄するらしいから、似たような生き物、という可能性もないと思う。魔力自体も、人体に影響を与える濃度のものは持っていない」
「では、本物の伊勢海老ですね?」
メリッサの期待の目が向けられる。
「食べるよりも、成分や遺伝子などを調べたいところだね」
「えっ!? では、食べられないのですか?」
「うん。今後あの中で行動するにあたっての、食糧事情に関係することだから、ちゃんと調べたほうがいいと思う。例えこの世界にいない生き物に出会ったとしても、同じようにしたほうがいいかもね。私の方でも、簡易的に調べる手段はないか、研究してみよう」
「じゃあ、もう少しサンプルがあった方が良いわね」
サキの提案に、アリスマリスは頷いた。彼女が自身の世界に戻る前に、いくつかのサンプルを得ることが、一先ずの目標となるだろう。
「では、当分は自給エビ食は無理なのですね」
そんな日本語はない。




