12.脱タバコ
ビーチチェアに座り、吸っていたタバコをじっと眺める。そんな私の行動が、砂で遊んでいたエミカには気になって仕方がなかったらしい。
「アトリさん、どうしたんですか?」
「ん? あぁ、ちょっと、ね」
これから、私は戦うための武器を得ようとしている。そうすると、戦いながら侵食を抑える方法というものも、必要となってくるだろう。
エミカ達には、携行食替わりのクッキーを持たせているため、それを齧って侵食に対抗している。対して、私にはタバコを吸うしか方法がない。
戦闘中にタバコを吸って、灰が顔にかかったりしたらどうする? 私は、そんなことで火傷をしたりしたくはない。
「戦闘中にタバコを吸って、顔なんかを火傷したりしたら嫌だなぁ、って」
「あー、戦闘が長引いたりしたら、その可能性がありますもんね。それ、めっちゃ重要ですよ」
そう、重要なのだ。
「それなら、私と一度、外に戻りましょうか」
今度はサキが話しかけてきた。
「何か問題があった?」
「ええ、海の中の探索はある程度出来そうなのだけど――」
ネメシスの能力により、空気の流れを身体に作ってもらうことで、私達はある程度は海の中でも活動できるようになった。しかし、それでは探索が進まない要因があるようだ。
「海の中は広いでしょう? 沖の方まで行くのも一苦労なのよ。だから、船があったほうが効率がいいんじゃないか、とね」
「それで、船を買ってメガダンジョン――、方舟、といったほうがいいのかな? に持ち込めたら、と思ったわけだ」
「そうね。でも、呼び方はメガダンジョンでも、ダンジョンでもいいと思うわよ。伝われば、何でもいいのよ」
なかなか高い買い物になりそうだけれど、もしもそれが可能なら、ダンジョン内の探索にも大いに役立つことだろう。
私達は、早速外に出て、アリスマリスが待機する、彼女の部屋へと向かった。
「無理ですー」
「えー」
と、真っ先に否定されたのは、船の購入だ。いや、購入自体は否定されなかったのだけれど、ダンジョンに持ち込む、と言うのが、なかなか難しいらしい。
というのも、アリスマリスの転移、取り分け世界を隔てるものには制限がある。その制限とは、持ち運べる物の数がかぎられる、という点がある。
私達が探索に使っている車も、それを構成するパーツの数はかなり多い。様々な素材が使われているだろうし、ガソリンだって入っている。そこに、さらに私達の荷物や食材などが加わる。そこに、さらに船まで転移させるのは厳しい、と言うことだ。
「ほかにも、此処からメガダンジョンのなかをモニターしているといっても、それは画面を観ながら、というものではないんだよ。転移によって運んだもの、私の術式を組み込んだもの。それらを自動で観測している。頭の中でね。正直、今が精一杯なんだ。そこに船を入れたら、ちょっとしんどい」
「緊急転移に支障が出る、と言うわけね」
「そうそう。分かってくれて何よりだよ。だから、私の世界から持ち込める物も限られるわけで、なおかつタバコを作るための乾燥した葉っぱ。これは、かなり持ち運びしやすいもので、私としても都合がいいものだったんだ」
そうして、話は私の問題へ移る。
「私の世界からこちらの世界に物を運ぶ時、サイズや重量も関わるのだけれど、重量が軽ければある程度サイズを誤魔化せるんだね。だから、乾燥させた葉っぱは都合が良かったわけだ。加工はこちらで出来るから。あぁ、ちゃんと検疫には気を使っているよ。それがマナーだからね」
と、細かなフォローを忘れないあたり、ちゃんとしている人なのだ。
「で、アトリ的にはどんなものがいい?」
「そうだな。私が想像していたのは、タブレット菓子みたいなもの。さっと口に入れて、噛み砕ける」
「いいね。ラムネのお菓子みたいな、小さいやつだろ? となると、粉を持ってくるか、加工まで全部やって持ってくるか」
「貴女達の会話って、端から見ると怪しいわよね」
サキの言葉に、私達は笑うしかなかった。
結局、その場では答えが出ずに、アリスマリスは自身の世界でも検討すると言っていた。明日には戻るそうだから、彼女が戻るまで、ダンジョンの探索は休憩となるだろう。
私達は再びダンジョンに戻り、みんなと合流する。そこでは、バーベキューコンロの設置が行われていた。
「あれ、もう焼きそば作る?」
「あ、もう戻ってきたんすね。いえ、炭を熾しておこうと思ったんですよ。サキさんもいないから、一応余裕を持って、と」
温度を操るサキなら、炭自体の温度をあげて発火させることもできるから、このような場面ではとても便利なのだ。
「それなら、サクッと着けておくわ。それより、海の中はどう? モンスターはどれくらい襲ってくるのかしら」
「魚みたいなのが多いですね。今、メリッサさんが沖の方まで見に行っているんですけど」
「そう。ならその報告を待っている間に、魚に何かを与えておきたいわね」
そういう意味も込めて、コンロを用意していたのだろう。魚が食い付きやすいものといえば、やはり海の幸が上げられる。
「イカを持ってきているから、とりあえず醤油で焼いてみようか。それと、焼きそばでも作る?」
「いいっすねー。海で焼きそば! 雰囲気満載っすよ」
気が付けば、側にいたノゾミが声を掛ける。
「天かすは焼きそばに入りますか?」
「天かす? んー、私はあんまり馴染みはないけど、入れてみよっか」
「あら、アトリちゃんの馴染みがある焼きそばってどんなもの? いつもの焼きそばなら、豚肉とニンジン、タマネギとキャベツだったかしら」
「そうだね。そんな感じ。でも、一番馴染みがあるのはソーセージかな」
「うっわ、いいっすねー。あれ、でもフランクフルトも持ってきてませんでした?」
「うん、持ってきたけど……。切って入れる?」
ダイナとノゾミが頷いて、焼きそばの具材が決定した。フランクフルトは太さもあるし、千切りにしてみようか。その方が、麺と一緒に食べやすいだろうから。
「問題は、どうやって食べさせるか、よね。ネメシスは自分から食べたんでしたっけ?」
「そう。でも、それは廃棄口に居たから、っていうのが大きかったかも」
廃棄口に連れ込むしても、この海からは繋ぐ事が出来ないらしい。となると、襲いかかる魚の口に料理を放り込む、というのが理想だろうか。
「釣りなんかはどうっすか? 料理をつけて、食いつくのを待つ」
「良いかもしれはいけれど、それで正気に戻ったら気まずくない? 普通の魚が釣れちゃうんだけど」
「はい。……え、それが普通っすよね?」
……うん、それが普通だ。私としては、モンスターがともに戻れば、みんなネメシスのように会話ができる存在になるのでは、と思っていたから、ちょっとその普通の考えが持てなかった。
「そっか、みんながみんな、ネメシスみたいな存在ってわけじゃないのよね」
「二人が居ない間に話を聞いたんすけど、会話ができるような奴って、それなりに強力な奴なんすて。だから現れるのは十層を越えた先が基本らしいし、こんな所にいるのは相当知性が高くて警戒心があるか、とか」
「住む場所を選べるんだ」
「階段がありますしね。まぁ、基本的に街がバリケードになるらしいんすけど、ある程度強ければ関係ねー! 的な?」
街を越えるのか、シャチなのに。
「で、そのネメシスはどこにいるのかしら」
「あの長い毛の中にいれば、海の中でも濡れないのではないか。ってノゾミさんが言い出して、エミさんと実験中」
自由すぎか!
てか、そんななか一人頑張ってるメリッサが健気すぎるでしょ。
「メリッサひとりにばかり働かせて」
「いやいや、それは誤解っすよ。アトリさん。メリッサさんなんて……」
「メリッサなんて?」
「伊勢海老を探すんだって、張り切ってました」
イカじゃなくて、エビを持ってくれば良かった。




