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11.ファーストステップ

 先ず、改めてネメシスと話をして、分かったことを挙げていこうと思う。


 一つ。方舟は百年単位で世界を渡り、その世界の情報を収集する。その情報を元にフロアを作り、内部を巨大なものとしていっているのだ。


 かと言って闇雲に増えているのではなく、共通する項目は自動で削除。それ以外は統合されるので、今ある階層、フロアはそこまで多くはない。全部で百。それを超えようとした時、不具合が出始めたそうだ。


 二つ。十層目、つまり十個目のフロアは、収集した世界に存在した街を再現しているそうで、そこまで辿り着ければ、完全なる安全地帯として利用できるそうだ。


 それを聞いた時、アリスマリスは大層喜んだ。十層程度の移動時間なら許容範囲であり、安全地帯があるならやりようがある、と。


 それ以外のフロアはいくらモンスターを倒したところで、いつか補給されてしまうために完全には安全にならない。そこは、気をつけておきたいところであるし、次の判明点に関わることだ。


 三つ。一つのフロアに出現するモンスターは、総数としてカウントされており、一定数を下回ると、許容範囲の目一杯まで補充される。


 これは、そもそも方舟にいるのは各世界により収集された動物たちであり、それが自由に歩き回っているのは、その生態や環境から得られるデータを収集する目的があってのことだ。その種の情報は最深部に保存されているため、いつでも再現が可能となっているため、何らかの要因によって数が減れば、データ収集に支障が出ないように補充される、というわけだ。


 四つ。先に出たように、方舟の目的は世界の情報を保存することにある。理由はひとえに、そんなテーマパークがあったら嬉しい。そんな製作者の願望だった。


 内部で更に、動物の情報を収集するのは、既に完成されている地形の中で、重複されずに収集された種が、きちんと生存できる環境になっているかを確かめる為だ。もしもそれが出来ないのなら、更に階層を増やすことが本来の動きなのだが……。


 百ものフロアを形成するのに使われた容量が、その余剰を受け入れるだけの余白を上回っていた。それが、今回の不具合の原因らしい。


 使われたいのに、余剰になってしまうために廃棄されなければならない。けれど、それを使わなければこれ以上の収集は不可能となってしまうかもしれないので、無理にでも使おうとする。それが、形となることのできない魔力となって、方舟を侵食してしまっているという。


 その他にも、これからの指針となる情報は得られたが、これ以上の情報の羅列は、私も頭が痛い。


 一つだけしっかり理解しておきたいことと言えば、この状況が完全に解決できるかどうかは、最深部にある管理ユニットの侵食を解除しないことには解らない。と言うことだ。そして、私達の目的は恐らく、その最深部にある。


 ※


「海だぁぁぁっ!」


 水着を着て、波打ち際に向かって走り出すのは、元気があり余ったダイナだった。かと言って、海の中にはまだまだモンスターがいるため、入ることは出来ない。


 それなのに、何故私達は、水着を着てこの海にやってきたのか。それは……、伝説の武器を得るためである。


「はぁ、今更だけど、ゲームの世界に入ったみたい」


 サキが立ててくれたパラソルの下に入り、設置したビーチチェアに腰掛ける。肩と腰の痛みは大分消え去っていたが、今度は頭が痛くなってくるようだ。


 ゲームは好きであるが、それを体験したいかどうかで言えば、話は別なのだから。


 何故そんな話になったのかと言えば、方舟のキャパシティの関係で、これ以上はフロアを増やすことはできない。つまり、動物のモンスター化は防ぎようがない。それだけ魔力が溢れかえっているということであり、それを解決するためにはどうすればいいのか、を議論した結果なのだ。


「ご不満?」

「趣味を仕事にするのは好きだけど、息抜きを仕事にするのは、なんだかなぁって話」

「なんとなく、解るわ」


 ただでさえ、今現在方舟は、アリスマリスの世界にありながら私達の世界と繋がっているという異常な状態だ。二つの世界から情報が収集されるという、通常の倍で溜まっていく余剰な情報。最深部に向かうごとに魔力が濃くなっているのも、それが大きな原因であるそうだ。


 だから、アリスマリスが実験を行ったときには、その事実に気が付かなかった。最深部に続く転移用の道を作り、直接乗り込む実験を行っていたのだ。


 それが失敗し、この世界に繋がり、最深部は魔力によって閉ざされた。


 その溜まった魔力を消すために必要なことと言えば……。


「廃棄口を無理やりこじ開けて魔力を流す。管理人であるネメシスならそれができるのだけど、十層を超えれば強力なモンスターが現れだすので、一人ではとても難しい。だから、伝説の武器を装備して、私達もちゃんと戦えるようになれ、と」


 私が落とされた時と同じようなことを、各フロアでやっていく。それを繰り返していけば、下に続く階層も徐々に魔力が薄くなっていくだろう、という作戦だ。


「そのためには、伝説の武器を産み出すとされる動物、――精霊とか、霊獣と言うんだったかしら。それらを正気に戻す必要がある、と」


 サキと二人で椅子に座って、まったりとはしゃぐ若者を眺めながら、急に現れたワードに黄昏れてしまうのだった。日差しはまだまだ眩しいけれど。


「はぁ。料理を作っていればいいと思っていたのになぁ」

「でも、前線に立たなくてはならないような武器は持っては駄目よ? 貴女が怪我なんかしたら、そもそもの作戦が台無しになるのだから」

「解ってる。だから、最初に選んだのが、この三層の海に潜むっていう、巨大なシャチ。聖なる力を操る槍を授けてくれるんだっけ?」

「そう。サポートも遠距離攻撃も出来て、おまけに槍だから距離を取りつつの接近戦も出来る。貴女向きの武器ね」

「槍を使ってポールダンスをすれば、魅了の状態異常もばらまける、とか?」

「ごめんなさい。そこまでのゲーム知識はないわ」


 まぁ、私もまだ、その様なゲームには出会ったことがないのだけど。


「ちょっと二人とも! なに休憩してんすか。先ずは準備運動をして遊びましょうよ」

「ダイナは元気だなぁ。モンスターが出るんでしょ? 気を付けなよ」

「それを倒さないと始まらないっすからね。それを込みでの遊びです。ビーチバレーでもしましょうよ」

「サキさん、やってあげて」

「私はパス。貴女の仕事場を作ってあげなきゃならないし」


 あぁ、私は炭に火を着けるのが苦手だから、こういう時には誰かに頼むしかないのだ。


「私もパス。運動は苦手だし」

「槍が手に入ったら、そうも言ってられないっすよ。今からトレーニング、頑張りましょう!」

「熱血はんたーい。クールに行こうぜー」

「……そんなに動きたくないなら、作戦行動用の水着じゃなく、プライベートな水着を着てくれたら良かったのに。あーあ、俺、ちょっと楽しみにしてたんすよ?」


 黒一点は、競泳用水着に似た地味な水着がご不満らしい。


「へぇ、ダイナくんは、アトリちゃんにどんな水着を着てもらいたかったの?」

「スタイル的にビキニが映えそうですけど、顔立ち的にはもう少し、可愛い感じのがベストですね。フリルがある感じとか」


 ……ビキニがなんか似合わないなぁ、と思って妥協したのを、こいつは見抜いているのだろうか。


「そういう事を堂々と言うなんて、あんたハート強いよね」

「鍛えられましたからねぇ」


 なんか、ごめん。


「はぁ、仕方がない。遊んでやるかぁ」

「よっしゃ! じゃあ、直ぐにボールを用意しますね。チームは、俺とエミさん、アトリさんとノゾミさんで――」

「誰がビーチバレーをやるなんて言ったよ」

「は?」


 そう言って私は立ち上がり、手近に転がっていた流木を手に持つ。


「ビーチフラッグスをしよう。あんたとネメシスが勝負をして、私達がどちらが勝つかを賭ける。勝った人には、特製シロップのかき氷を作ってやるよ。勿論、あんたも勝てば作ってやる」

「はぁ!? あのデカ犬と!?」


 煮え湯を飲んだ間柄なんだから、一度安全な形で決着をつけたほうが、今後の付き合いもスムーズになると思うのだ。ネメシスも、私達の輪に馴染んでくれたら嬉しいものだし。


「あら、良いわね。みんなーっ! 賭けに勝てばかき氷が食べられるわよーっ!」


 そうして、思い思いに海を楽しんでいたみんなが集まってくる。


 能力を駆使した白熱のレースはそれなりに盛り上がったのだが、流石にその巨体と、空気などといった『流れる』ものを操るネメシスには適うこともなく。それを察した私達も、悔しがるダイナを横目にかき氷を楽しんだ。


「くっそーっ! ネメ公、特訓だ! 能力がなとなく似通っているし、お前の技を盗んで、次は俺が勝ってやる!」


 その時は、特大のかき氷でも作ってやろう。 

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