15:エピローグ
静かに時間は過ぎていく。
だけど絡められた指先からは陛下の激情が伝わってくるようだった。
朝陽に染まって行くバルコニーには柔らかな空気だけが通り過ぎていく。
「共に帰ってくれるか?」
ぽつりと陛下が零した言葉がやけに弱弱しくておもわず笑ってしまう。
不満げに私を見る陛下の肩に頭を乗せ、「この子も一緒にですか?」と聞いた。
肩に置かれた指先に力がこもる。
「勿論だ。ああ、すぐ早馬を走らせて後宮を改装しなくては。お前と、生まれてくる我が子の為に」
「他の姫君に怒られますわ」
「怒る姫君などいないから問題ない」
「え?」
驚いて陛下を見れば、至極当たり前のことを口にするように答えが返ってくる。
その瞳は悪戯が成功した子供のように輝いていた。
「後宮にいた姫君には全員暇を出した。スカーレット姫は国に帰り、あとの3人は降嫁することが決まっている」
「そんな!」
「不満か?まあ、モリスには小言を言われたがな」
「だって…そんな簡単に…どのお方も有力貴族の出身なのでしょう?ご家族がなんと仰るか」
「問題ないと言っているだろう。どの家にも有利な話だ。断る馬鹿はいない」
簡単に話してはいるが、それがどれ程大掛かりなことなのか私には想像が付かなかった。今頃モリスの執務机が大変なことになっているだろうということ以外は。
陛下の指先が私の髪を梳く。
好きになることが出来なかった髪。陛下の眩しい髪色に比べたらありふれた色だと自信をなくしていたっけ。
だけど陛下に髪を撫でられるたびその不安はなくなっていきそうだ。
バルコニーから広がる世界は、なんて美しいんだろう。
瑞々しい木々に、淡い色の草花。小高い丘から望む全ては柔らかな光に包まれ、精一杯の優しさで溢れていた。
「ここの景色がとても好きでしたわ」
「また来年もくればいい。その時は3人でな」
抱きしめられた腕の中はこれ以上ないほど穏やかだった。
この凪を手に入れるまでに、どれ程苦しんだのかは分からない。私も陛下も、お互いの言葉に傷つき人知れず心を痛めてきた。
しかしその過程があったからこそ、こうして静かに愛を重ねられたのだとも思う。
そう考えるとあの切なささえ、愛しく思えてくるのだ。
遠くからエレナの声が聞こえる。きっと私や陛下を探しているのだろう。
陛下にそのことを伝えると、額に唇を寄せられ、こう囁かれた。
「今はまだ、もう少しこのままで」
先ず。
ここまで読んで下さった方、全ての方に感謝いたします。
「愛に帰す」全15話のお話でしたがいかがでしたでしょうか?
小説というにはまだまだ稚拙な文章でしたが、こうして皆様に読んで頂けたこと心から幸せに思います。
まだ書き足りない部分があったり、数日したら「ここをこうすればよかったかな」なんて思うこともあるでしょう。
けれど今は、一つの終わりを迎えられたことにただただホッとしています。
昔からお伽噺が大好きでした。
お姫様が素敵な王子様と恋をして、途中色んな事があるけれど最後はハッピーエンド。
王道だけど大好きなお話を自分の手で完成できてとても嬉しいです。
たくさんの方に支えられて完結することができました。
お気に入り登録をして下さった方、感想を下さった方、ここまで読んで下さった方。
感謝の言葉は一言では言い表せません!
一旦このお話は終わりですが、後日談・番外編などなど書きたいことはまだまだあります。
それらのお話にもお付き合い頂ければ嬉しいです。
本当にありがとうございました*
2010/9/26 凪