文化祭とかまじ無理www
10月前半、雫と夢弍羅が居る教室の教卓で、先生が意気揚々と言う。
「皆さん!文化祭の時期がやってきました!!」
そんな先生の言葉に、皆が楽しそうな反応をみせる中、顔色を曇らせるものが1人……
(文化祭……)
もちろん雫である。
お昼、2人は人気のない居場所で、お弁当を食べながら話す。
「しーちゃん!文化祭だってよ!!」
夢弍羅が雫へ元気に言うと、
「休む!」
雫も元気に言う。
「やっぱりかぁ…」
夢弍羅はこの雫の反応は予想済みという感じで、
「しーちゃん…学生としての文化祭って、人生で3回しかないんだよ……」
なにやら少し雰囲気のあるような話し方で話し始める。
「う…うん…!」
雫はそんな夢弍羅の雰囲気に少々威圧されながらも相槌を打つ。
「人生で3回……3回……はぁ……これってなんかすごく限定的だよね……いや限定的じゃなくて限定だよ……
だって人生で3回しかないんだもん……
人生で3回だけの限定イベントだよ……」
夢弍羅は人生で3回ということと、限定ということをかなり強調して話す。
すると、
「ウッ…!」
雫の顔色が曇る。
これは、雫が限定という言葉に、
ものすごく弱いからである。
「人生で3回しかない特別なイベントを休んで、しーちゃんは家でアニメを見るんだ……」
夢弍羅は手応えを感じ追い討ちをかける。
「うう……」
しかし雫はまだ堪えている。
「確かに文化祭はたくさん人が来るよね…
でもさ、運動会とは違って、みんなの前で何かするわけでもないし、修学旅行とは違って、誰かと一緒にお風呂入るわけでもないんだよ…
ただ楽しむだけなんだよ……」
夢弍羅は雫にとっての、かなり大きな障害をペリペリとめくるが、
「うううぅぅぅぅ……」
なんとまだ堪えている。
(意外としぶとい…!
人生レベルの限定なのに…!
まさかここまで耐えられるなんて……!
もう他に何て言えば良いかわかんないよ…!)
そしてどうやら夢弍羅の策は尽きたようだ。
だから、
「限定だよ…!3回だよ…!公開処刑は無いよ…!」
今までの大事なことを反復して伝えるが、
「ううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
雫はギリギリのところで堪えている。
しかしあと1つきっかけがあれば落とせそうだ。
そんな所で出てくるのは、夢弍羅の根元的な内なる思い。
「あたし、しーちゃんと一緒に文化祭楽しみたいんだよ!!」
「行く!」
「よっしッ!」
するとそれが決め手となり、無事雫を文化祭へと連れ出すことに成功する。
2人の教室でクラスの出し物を決めることになり、なんだかんだ紆余曲折あって、馬鹿力喫茶になった。
突「いやなにそれぇぇっ!!!」
馬鹿力喫茶、雌五里さんを筆頭に、クラスの筋肉自慢達が接客をする喫茶店。
そんなわけで、昼休みや、放課後などの時間を、たった1日だけしかない文化祭のために割くようになる。
そんな光景に、なにも出来ない雫は1人、疎外感のような、罪悪感ような、そんなものを感じるような、感じないような、とにかくとても曖昧な気持ちになる。
そんな雫を見かねた夢弍羅は、提案してみる。
~メッセージ~
夢「しーちゃんも文化祭何かしてみる~?」
雫「しない!」
夢「実は考えててさ!」
雫「なに!」
夢「しーちゃんを看板と一緒に置けばいいじゃん!みたいな。」
雫「どういこと?」
夢「いやね!看板が地味でごついな~って話しててさ!
だから華やかさを演出するためにしーちゃん置けないかなぁって今思った!」
雫「そんな力は私にないよ!」
夢「名付けて!しーちゃん美少年作戦!!」
雫「しない!」
夢「しーちゃん女の子の格好で看板したら絶対男の人に話しかけられちゃうから、だから男装して少年みたいにしとくの!」
夢「そしたら話しかけてくる人は女の人ばっかりになると思うし、ギリ耐えれるよ!!」
夢「ね!」
夢「看板持って店の前に立つか座るかしとくだけでいいんだよ~!」
夢「しーちゃ~ん!」
夢「こんな時間に家凸しちゃうぞ~!」
雫がなにも返さなくなったので、夜10時くらいにもかかわらず、インターホンをならす。
するとアニTと短パン姿の雫が出てくる。
「しない!」
顔を合わせるや否や直ぐさま言う。
そして、夢弍羅を家の中へ上げる。
夢弍羅は、
「しーちゃんも何かした方が良いと思うんだよ!」
家へ上がりながら話す。
2人はとりあえず雫の部屋まで行く。
雫の部屋で、夢弍羅が先に言う。
「しーちゃんにも色々な考えがあると思う……
でもやっぱり最大限楽しむなら、なにかしらやった感を得ないと!」
雫はそんな夢弍羅へ、
「人前は恐ろしいよ…!」
正直な気持ちを言う。
「いや違うよ…!しーちゃんはしーちゃんであってしーちゃんじゃないの…!
看板人形みたいなものなの…!
喋らなくて良い…!動かなくて良い…!ただ居るだけ…!
その時は私もずっと隣に居るし…!すっごいごつくて怖い格好で隣に立ってるから!
そしてね!
美少年看板人形雫くんのことを写真撮ろうとしたりする人がいたら、
「no picture…(すごい発音)」って言うの!
めっちゃ面白くない!?」
夢弍羅は雫の恐怖感をかき消すべく言うが、
「面白い……!けど怖いよっ…!!」
雫は、「no picture…(すごい発音)」を気に入りつつ、でもやはり恐怖はあると言う。
しかしそんな雫の恐怖心にめげず、夢弍羅は言う。
「わかってる…!だからもうすっごいフォローする!
幼馴染みの総決算みたいなフォローする!
しーちゃんはただ真顔で男装して座ってればいい!
それだけでとてつもない達成感を得られるようにする!
すっごい圧で隣に立ってるから!
今の段階でもう凄腕ボディーガードの気分だから!
だから大丈夫!怖がらないで!
きっと最高に楽しい文化祭になるって約束する!!」
「…」
雫は熱い夢弍羅の言葉に黙る、
その時……
「話は聞かせてもらったぜ……マイ シスターズ…」
みなもが現れる。
「なもち!まだ起きてたんだ!
ごめんねうるさくしちゃって…!」
夢弍羅がそんなことを言うが、
「おい…お姉ぇッ……!」
みなもは特になんの相槌も打たずに、ドタドタと雫へ近づき両肩に手を当てながら言う。
「むにねぇがこんなに言ってくれてるんだぜぇッ…!
あんたはいつまで怯えているんだよッ…!
他の誰かとコミュニケーションをとれって話じゃねぇんだッ…!
むにねぇが、あんたにやれる最善のことをッ…!
参加したって気持ちになれるようなことをッ…!
あんたを思ってッ…!
考えてッ…!
言ってくれているんだよッ…!!
あんたはやるんだッ…!やるしかないんだッ…!
ここでやるしかないんだよォォッ…!!!!!
……
……
……
だから男装して!!」
みなもは、夢弍羅の熱が比にならない程の熱量で言う。
雫はそんなみなもの、欲がはみ出た言葉に、考えさせられるものがあり、
「むに…!
私にそれが務まるのなら……男になるよ…!!」
決意を決める。
「おぉ…!ありがとうしーちゃん!
なもちもありがとね!」
夢弍羅は喜んでそう言う。
しかし、元はといえば、雫が曖昧な雰囲気を醸し出していたところを見かねて提案したことであるため、
夢弍羅がありがとうと言うのもなんだか変なものである。
(よかったぁ~!)
まぁ、夢弍羅は満足しているようなので、それは野暮な話なのかもしれない。
こうして、クラスの人々に、
美少年看板人形雫くん、
という計画が話され、
衣装制作のチームが、恐ろしいスピードで服を仕立てる。
ちなみに採寸は夢弍羅が行い、その採寸データはトップシークレットとなった。
その時の夢弍羅の様子。
「しーちゃん採寸するよ~!」
(役得…!役得…!)
「腕の長さとか、足の長さとか肩幅とか?
なんかいろんなとこ測るんだって~!」
(いろんなことをね…!)
「は~い!じゃあ次胸測るね~!」
(はぁ…!はぁ…!服の上からなのが残念だよ…!でも最高…!)
「次はお尻ね~!」
(ちっちゃ~~い……!全部ちっちゃいよ…!
かわいい~~~~!!!!!!)
雫は、採寸だとしか思っていなかったのと、夢弍羅が淡々とこなしているのを見て、真面目に採寸を受けていた。
衣装合わせ。
雫の個性を尊重し、雫の部屋で、夢弍羅が衣装制作チームと通話しながら行われた。
「うん…うん…わかった!聞いてみる!
だから一旦ミュートするね~!
しーちゃん!どこかきついところとか緩いところとかない?」
夢弍羅は通話をミュートし、雫の声が入らないようにしてから聞く。
「ない!完璧!!すごい!!」
雫は少し興奮気味で簡潔に思ったことを言う。
雫の着ている衣装は、中世くらいの少年貴族が着ていそうな服をベースに、現代の趣味を混ぜたような感じで、色は黒をメインとしており、とても雫に似合っている。
(しーちゃんのかしこまった服はギャップえぐ~~い!
はぁ~~少年しーちゃんもたまらんです…!
最高です!)
「ミュート解除するね!」
「うん!」
「ばっちしだそうです!
そんですごいって言ってます!
あとめっちゃ似合ってます!
まじ当日お楽しみに…!」
「ウアウァァァァァァァァ!!!!!!」
電話の奥でただならぬ雄叫びが聞こえる。
こうして、かなり配慮してもらいつつ、雫の文化祭準備が終わった。
この配慮の全ては、夢弍羅の社交性によるものと、クラスメイト達の理解によるものである。
ちなみに、みなもはたまたま家にいなかったので、男装した雫を見れていない。
ここで雫について少し詳しく。
身長145くらい。
顔はとても整っているが、本人は特になんとも思っていない。
髪型はボブ、美容室などは恐ろしくて行けないため、なんと夢弍羅が切っている。
そして今回の文化祭では、男装ということで、ボブを良い感じに短くして、中性的にする。
耳が見えかくれするぐらいの長さ。
雫は自分の髪を切り、目立つことに怯えたが、ナンパされるよりはましでしょ、という夢弍羅の言葉を聞いてすぐうなずいた。
そんなこんなで文化祭が始まる!
雫は1人更衣室で衣装に着替え、外で待っている、サングラスに白スーツで、黄色の混じったオレンジ色の髪を威圧的に結んだ夢弍羅の元に行く。
「YES!BOSS!!」
そんな夢弍羅のテンションは高い。
2人は互いの衣装をチェックし終えると、馬鹿力喫茶になった教室へ行く。
教室へ着くと、何をしたらいいかわからない雫がとてつもない小声で聞く。
「どうしたら良いの…!」
夢弍羅は、
「まだお客さん来ないし、ここ座っといていいよ~!」
そう言って、馬鹿力喫茶の入り口に置いてある椅子を指す。
そこには手持ちのついた看板もある。
そしてそんな夢弍羅の言葉を聞いた雫が、椅子へと座ると…
クラスの人達が反対側の、スタッフ専用通路となったドアから、それとな~い感じに出てきて、鼻歌を歌いながら雫の横をやたらと通り抜ける。
これは、雫が皆の前で、衣装紹介を出来るわけがないとわかっているからこその行動である。
皆、今のうちに美少年看板人形雫くんを一目見ておきたいのだ。
「ウアワワアアアオオオオォォォッッ!!!!」
衣装制作チームの雄叫びもしっかり聞こえる。
夢弍羅はそんな皆にニヤニヤしつつも、
「keep distance…」
雫に近付きすぎた者には威圧的に言う。
対して雫はもう人形のように固まっている。
そして、こんな茶番をしていると、とうとう外部の客が入り始める。
「お客さん入ってきてるらしいよ!!
ここに来るのも時間の問題だね!」
夢弍羅が、友達づてに聞いたことを雫へ言う。
「…」
雫はずっと固まっている。
しかし、今は先程までの比ではなく、息をしているかもわからない。
「よし!じゃあ今日の予定を説明するね!」
夢弍羅はそんな雫に話そうとするが、
「…」
雫は反応どころかまばたきすらもしない。
こんな雫の姿を見た夢弍羅は、
(ほんとに人形みたいになっちゃった…!
ここはしっかりがっちりフォローしなきゃ……!
幼馴染みの総決算フォローを…!)
本気を出す。
夢弍羅は雫の耳元に近づいて小さくソワソワっと喋る。
「しーちゃん…!」
雫は耳をなぞられるようなぞわぞわ感に、硬直をやめ身震いをする。
「…!」
そして夢弍羅へ無言の圧をかける。
それを受けた夢弍羅は
「へへっ…!まじ大丈夫だから!
どん!っと構えといていいよ!!
あたしが全部何とかする!!
むにちゃんハードモードだぜ!」
笑いながら、自信満々にとても頼りがいのある雰囲気で言う。
「…!」
雫はそんな夢弍羅に安心してうなずく。
夢弍羅もそんな雫を見て安心し、これからのことを話す。
「よし!じゃあ最初は看板持って立つ!!
そして疲れたら座って!休めたら立って!
それを繰り返して、3時間くらい経てば、自由時間!!
わかった!?」
「!!」
終わりが3時間後とわかった雫は、気合いをいれて看板を持ち、固まる。
たださっきとは違い、イキイキと固まっている。
夢弍羅はそんな雫を見て優しく笑い、
「よしっ!」
自分も頑張らなきゃと気合いを入れ、
「フッ…!」
ブワァンッ…!
ただならぬオーラを発する。
まさにハードモードだ。
そしてそこから少し経った頃、
やんちゃそうなカップルが歩いてくる。
「ここの学校の文化祭手ぇ凝ってんね~!」
女の方が、男へ言う。
「あぁそうか~?なんかちゃちくねぇ~?」
男は軽~い感じで適当に返す。
すると、
ブワァンッ…!
ゾクッ…!
全身を握り潰されるような感覚に襲われる。
(なんだッ…今何が起きてんだッッ……
なんなんだよこの感覚はッ…!)
その異様な感覚に震えながら辺りを見回すと、少し先に、サングラス白スーツの化物が立っている。
ブワァンッ…!
ゾクゾクゾクゥッ…!
(あれはヤバイッ…関わっちゃいけねぇッ……!
まだ生きたいならッ…関わっちゃいけねぇッ…!
まだ死ねないならッ…関わっちゃいけねぇッ…!!
俺みたいなどうしようもないクズがッ…
関わって許される存在じゃねぇッ……!!!!)
「悪魔を見たァッ…!!!!」
男はそう言って振り返り、女を置き去りに、ものすごいスピードで走り去る。
「はぁ…?」
女は困惑しつつも男を追う。
(ふぅ…準備運動にはちょうどいい相手だったね…)
悪魔の正体はもちろん夢弍羅である。
夢弍羅が発するただならぬオーラで、雫に害を与えそうな者を威圧したのだ。
こんな夢弍羅の力で、特に危なげなく雫の看板人形時間が削れていく。
普通のお客さんの場合。
「えぇ!めっちゃかわいい~!!
写真撮っていいですか~!」
「Sorry no picture…」
「oh...」
「これ本物の人ですか…!?」
「this is ビショウネンカンバンニンギョウシズククン…!」
「ん…?なに…?」
「あの…!連絡先おしえてほしいです…!」
「oh...sorry cutie girl...
this is ビショウネンカンバンニンギョウシズククン...
カナワヌコイ sorry ...」
「だめってことですか…?」
「うん…ごめんね…!」
「うぅ…一目惚れでした……!」
「おぉ?これがみなもんのお姉ちゃんか?」
「そ…そうだよ…!」
「お兄ちゃんとか弟じゃなくてか?」
「WOW!!Fff! friends!?」
「あぁ……うん…あ……り…りんちゃん!と…とりあえず中入ろう…!」
「え……?ん…?あ!確かにここで話したら邪魔になるか~!すみませんでした!」
「It's OK!It's OK!
オトモダチ!
イラッシャイマセ~!!」
と、こんな感じで3時間後。
「よし!看板人形は終わり!!
その手持ち看板は椅子に立て掛けて見えるように置いて!
そして立って!雫ちゃん!!」
夢弍羅が慣れない呼び方をして雫に言う。
この雫ちゃんという呼び方は、人前で雫を呼ぶときの呼び方である。
これがなぜかというと、自分以外に雫のことを、
しーちゃんと呼んでほしくないからである。
「…!」
雫は言われるがままにして立つ、その顔はやりきったという感じがすごく出ている。
「じゃあ遊びに行くよ~!」
「!」
こうして2人の文化祭遊び編が始まる……が、
「あれ食べる!?」
「…」
首をふる。
「射的だってよ!!」
「…」
首をふる。
「ゴスロリ道場は!?」
「…」
首をふる。
雫がどこにもいこうとしない。
これを受け夢弍羅は考える。
(やっぱりかぁ…
限定という言葉で連れ出せたはいいけど、しーちゃんほんとこういうとこ苦手だからな~……
いやでもここまできたし!もうひとふんばり!!
絶対に楽しい思い出にする!!!)
考えた末に、夢弍羅の雫攻略!第二回が始まる。
邪魔にならない道の端で夢弍羅が話し始める。
「雫ちゃん…!」
「…」
雫は黙って夢弍羅を見る。
「せっかくここまで来たんだよ…!」
「…」
相変わらず雫は黙っている。
そんな雫へ夢弍羅が熱弁を始める。
「聞いてね…!
まず第一段階である、文化祭へ行くというのをクリアして、
次に、文化祭準備をするっていうのをクリアして、
最後の大関門である、仕事をしたんだよ!!」
すると、
「…」
雫の黙り顔にほころびが生じ始める。
夢弍羅は、そんな雫に手応えを感じながら熱弁を続ける。
「もう後は楽しむだけなんだよ!!
雫ちゃん……いいや、今は雫くんと呼ばせてもらおう。
雫くん……君は確かに目立つ!
かっこいいし!衣装が派手だし!かわいいからね!
……
でもさ!
今だけは絶対にあたしの方が目立つから!!
あたしを差し置いて雫くんを見る人は、よっぽど少年が好きな人くらいだから!!
だからほんとに大丈夫!」
「…!」
雫は夢弍羅の格好を改めて見て、確かに!とハッとする。
それを見た夢弍羅は、
「よし!じゃあ人目を多少気にしつつ!
人生3回限定文化祭!今から全力で楽しむよ!!」
しっかり雫へ配慮しながら言う。
「うん!」
そんな夢弍羅の言葉に、雫は元気いっぱいうなずく。
この肯定を見た夢弍羅は、
「よぉしッ…!!
じゃあ雫くんが楽しむことを決めたところで!
おばけ屋敷行こう!!
文化祭と言えばおばけ屋敷だよ!!」
とてもニヤニヤしながらそんなことを言う。
「…!?」
それに雫は固まる。
「はいはいもう頷いたもんね~!
たくさん楽しもうね~!」
夢弍羅はそんな雫をひょい!っと抱えて、とてもとてもニヤニヤしながらおばけ屋敷へと向かう。
このとてもなニヤニヤにはちゃんとした理由があり、
なんと今向かっているおばけ屋敷は夢弍羅が監修した物なのだ。
そして夢弍羅は監修する時に、もしかしたら雫と一緒に来るかもしれないなぁと思い、雫の思考を完全に予測して作ったのだ。
これはもちろん、雫以外の人が入っても怖いものとなっているのだが、
雫に対してはその3倍の恐怖が襲う。
なので、今から行くおばけ屋敷は、
見た感じのイメージを裏切ることなく怖がりな雫にとって、地獄も同然の場所である。
おばけ屋敷に到着する2人。
「2人よろしく~!」
夢弍羅が受付の幽霊ガールへ元気に言う。
雫は、もう既に夢弍羅の腕にしがみついている。
そして、
「そっち2人向かうから……
え…?あぁ…?大丈夫…
巫女でもなければ…エクソシストでもない…男のガキとなんかすげぇ見た目のやつ。
うん…好きにしていいよ。」
幽霊ガールがいきなり真顔でそんなことを言い始める。
「…!!!!!」
雫はそのあまりにも真顔すぎる真顔に恐怖を感じ、なんで自分はエクソシストじゃないのかと悔いている。
「あぁ!お二人様ですね~!
どうぞお入りくださ~い!」
そして幽霊ガールはいきなりニコニコしながらそう言う。
「ありがと~!」
夢弍羅はそんな幽霊ガールを全く気にせず、とても自然な感じで入っていく。
雫はその光景が異様で、なんでそんな笑顔で入っていけるのかと夢弍羅の感情をすごく疑うが、腕を掴んでいる都合、夢弍羅が進むと自分も進むしかなくなる。
ここで夢弍羅が追い討ちをかける。
「受付の人優しそうだったね~!
文化祭の出し物だし案外怖くないのかもね~!」
ここで想像力豊かかつピュアな雫はもう完全に理解する。
さっき受付の幽霊が話した言葉は、自分にしか聞こえない言葉なのだと。
つまりあれは本物の幽霊なのだと。
夢弍羅の腕を掴む力が強くなる。
「じゃあ進もっか~!」
夢弍羅はこの腕の締め付け感に、すごくニヤニヤしながら言う。
そして雫はすごく恐怖しているにも関わらず、しっかり逃げずに着いていく。
これがなぜなら、そもそも雫は逃げようにも、夢弍羅がいないと人混みを歩けないため夢弍羅へ着いていくしかないのだ。
夢弍羅はそれを理解しているため、
ニヤニヤがとどまることを知らない。
中は暗いながらに、全然見えてしまう暗さで、雫は目をつぶって歩く……が、
腕をつかんでいるため耳は塞げない。
「お……?来た来た…あれが男のガキにすげぇやつだな……ほおぅ確かにすげぇが……ガキの方なら持ってけるかぁ……?」
そしてそんな塞げない耳に、こんな声が無理矢理入ってきてしまうから、
「ゥゥッ…!」
とてもか細い声が出る。
夢弍羅の腕はギチギチだが、雫はすごく非力なため気持ちいいくらいで済んでいる。
そんな雫を片腕に、夢弍羅はニヤニヤしたまま進む。
そして進む度に、どこからともなく聞こえる声は、どんどん近くなっていく。
「おおし…そろそろ行けそうだなぁ……カウントダウンでもするかぁ……タイミング掴みやすいしなぁ……
ぜってぇ魂奪ってやるからなぁ……
よぉし……」
雫はあまりの恐怖に、もはや引きずられながら進んでいる。
「さ~~~~~ん………………」
「あれぇなんも脅かし来ないね?
ここほんとにおばけ屋敷かな?
ただの屋敷じゃない?」
夢弍羅はわざとらしく、なが~いカウントダウンに合わせて言う。
雫はもう完璧に引きずられている。
しかし、雫はとても軽いので、夢弍羅は簡単に引きずる。
「に~~~~~い……!」
ここで、
「バアァァッッ…!!!!!!」
カウントダウンを無視してすごい怖い見た目の殺人鬼みたいなやつが出てくる。
「…」
夢弍羅の腕を掴む力が一気になくなる。
「え?」
夢弍羅は驚いた雫の反応を見るために、ずっと雫のことを見ていたので、冷や汗をかく。
なぜなら、雫が完璧に完全に立ったまま気絶しているからである。
「えぇ!?ちょっ…!?えぇぇっ…!??
しー……ずくちゃん気絶しちゃった…!?」
そんな言葉を聞き、
「ごめんなさい…死んで詫びます…」
脅かし役の人は、手に持っていたおもちゃの包丁で切腹する。
「えぇ!?いや!えぇ!?」
こうして完璧すぎた夢弍羅監修の、身内協力型おばけ屋敷は終了となる。
夢弍羅は直ぐに雫を保健室へと運び、先生の指示で空いていたベッドに寝かせる。
寝かせて結構経った頃、雫が目を覚ます。
部屋には2人しかいない。
「ん……?」
雫が自分の状況が全くわからないでいると、
「うぅ!しーちゃん!!よかった!!」
起き上がった雫へ抱きつく。
そして、
「いやもうあたし、おばけ屋敷史上一番ビックリしたよ~!」
離れて顔を合わせながらそんなことを言う。
「…!」
雫がおばけ屋敷でのことを思い出してまた飛びかけるが、
「しーちゃん!」
「ハッ…!」
夢弍羅が気絶にキャンセルをいれる。
そして、
「いや~ほんと生きててよかったよ~!
何回心臓の音聞いても、安心できなかったから~…!
まじ生きててよかった~!
安心したらちょっと涙出てきたし~w」
垂れた涙を拭きながら言う。
「…!」
雫は喋らない。
それがなぜかを察した夢弍羅が言う。
「あぁ…!この部屋誰もいないよ~!
安心して~!」
雫は夢弍羅のそんな言葉に安心し、
「ふぅ……」
と、一息ついた後、
「むに!あのおばけ屋敷本物だよ…!!
やばいよあれ…!」
こんなことを本気で焦ったように言う。
「あっはっはっはっはっ!!!!!」
夢弍羅はそんな雫を見て大笑いしながら言う,
「しーwちゃwんwかwわいwすぎ~w!」
そんな夢弍羅を見てもなお、
「いや!ほんとだって…!!
むには知らないと思うけどほんとにおばけいたし…!受付の幽霊は本物の幽霊だよ…!!
たっ…魂が吸い取られちゃうよ!!」
雫がとても真剣な顔で言うと、
夢弍羅が種明かしをする。
「あれね~!
身内協力型おばけ屋敷ってやつでさ、あたしはあらかじめ何が起こるか知ってたんだよ~!」
「えっ……?
うぅ……?
ん……?
……
……
……むうんんんん…!!!」
雫がぷくぅっと怒る。
「あはは~しーちゃんごめんよ~!」
そんな雫へ夢弍羅は笑いながら謝る。
「むうっ…!」
雫はそっぽを向く。
「あはは~!」
(めっちゃ怒ってる~!
これ結構怒ってるな~!
あは~!)
雫が機嫌をなおすまで15分くらいかかった。
そして、結構な時間気絶していたため、文化祭はもう終盤。
雫の意思を尊重して、ステージパフォーマンスや製作物などを見て過ごし、なんだかんだで雫は楽しんでいた。
もちろん夢弍羅も楽しんでいた。
こうして文化祭は終わり、後片付けの時間。
夢弍羅はいろんな所で片付けまくり、雫はとりあえず更衣室で制服に着替えた。
この雫の男装衣装は貰っていいと、事前に夢弍羅から言われていたので持ち帰ることになる。
そして夢弍羅と分かれた際、先に帰ってて!と言われたため、手伝わない罪悪感を少々感じつつも帰…………ろうとしたが、やっぱりなんか罪悪感を感じたので、自分に出来そうなことを探した結果、校内のゴミをたくさん拾った。
それなりの時間が経ち、お祭りムードでき煌びやかだった学校が、日常の見慣れた風景に戻る。
雫は終わった雰囲気を察して、たくさん集めたゴミをゴミ処理場へ置き、手を洗って1人帰る。
夢弍羅はもちろん打ち上げに行く……
と、思いきや、
「一緒か~えろっ!」
雫の後ろから夢弍羅が呼び掛ける。
「…!?」
雫は、周りに人は見えないが、一応まだデッドラインの内側ということで、声を出さずに、それでも伝わるくらいに驚いている。
夢弍羅はそんな雫の言いたいことを、なんとなくでくみ取り、
「打ち上げはね~行かない!
だってあいつらとはしょっちゅうご飯食べに行ったりするしね~!
今は人生で3回しかない!
しーちゃんとの文化祭下校イベントが大事なんだぜ!」
すごく楽しそうに笑顔で言う。
「…!」
雫はそれを聞いて、嬉しそうな、ちょっと悔しそうな、やっぱり嬉しそうな顔をする。
こうして2人は、文化祭の余韻に浸りながら一緒に帰る。
そして、2人の初めての文化祭は、とても楽しい記憶となった。
ちなみに、雫は種明かしを受けてもなおあの恐怖が忘れられず、みなもと一緒にお風呂へ入るようになった。
もう1つちなみに、強く握られ過ぎた夢弍羅の腕は、雫の力といえど、3日ほど後がついた。
そしてそれはしっかり使われた。