お姉ちゃんとかまじ無理www
川井家、2階、奥の部屋……そこには……彼女が居る…!
モニターの光だけが明るい部屋で、
カタカタカタカタカタカタ……
カチッ…!
キーボードやマウスの音が響く。
ピカンッ…!
そんな時にスマホが通知で光る。
部屋が暗い分とてもわかりやすい。
~メッセージ~
夢「お姉ちゃん今暇~?
しーちゃんがバロ教えてほしいって!!」
それを見た闇に潜む者は、
?「わかったよ!がめきょして!!」
ものすごい速さで返信し、PCの画面共有を求めるが、
夢「いや、お姉ちゃんがこっち来てよ!
直接!!」
夢弍羅はそれを拒否し、闇に潜む者を呼ぶ。
?「/;;|||\(頭を抱えるスタンプ)」
雫の部屋、
「お姉ちゃん今暇だって~!
多分出てこないから連れてくるね~!」
夢弍羅がそう言いながら部屋を出ていこうとすると、
「いや…!無理させちゃよくないよ…!」
雫は、夢弍羅を止める。
これは、会うのに緊張するというのと、無理矢理じゃ悪いという気持ちから来る行動だが、
「いや!たまには2人会っとかないと!ちょっと会わないだけでどっちも話せなくなっちゃうじゃん!!」
夢弍羅のそんな言葉を聞き、
「…」
黙って見送る。
再びさっきの部屋、闇に潜む者はモニターに映るゲームのホームらしき所と、ショップらしき所と、スキン変更らしき所を高速で行ったり来たりしている。
ガチャ…
そんな時に玄関の開く音がかすかに聞こえる。
シュン…!
闇に潜む者はとても素早いスピードでパソコンを消し、完全に明かりが消えた部屋のどこかにサッ…!と隠れる。
トンッ…トンッ…トンッ…トンッ…
どんどん足音が近くなってくる。
トンットンットンットンッ
「お姉ちゃん入るよ~!」
そんな声と同時に、
ガチャッ!
部屋のドアが開けられる。
廊下の光で闇に包まれていた部屋が少し明るくなり、闇に潜む者の輪郭がうっすらと見える。
夢弍羅はそんな部屋をトタトタ歩いて、
「は~い、カーテンバサァッッ…!!」
カーテンを、思いっきり開ける。
「ウアァァァァ…メガァ……」
太陽の光が差し込み、部屋の全ては照らされて、闇に潜む者の姿がくっきり見える。
髪はちょんまげで夢弍羅と同じく黄色の混じったオレンジ色、体型は少しぽちゃっとしており、胸がでかい。
夢弍羅がC~Dだとすると、F~Gといった感じで、服はダボッとしただらしない、上下セットの黒ジャージ。
名前は、川井 餅那、
引きこもりで、プロゲーマーで、夢弍羅の姉だ。
「しーちゃんの部屋行くよ!」
夢弍羅がもちなへ言うと、
「はい……」
意外にもすんなりと返事をする。
これは、抵抗してもダメだと、過去の経験でわかっているからである。
でもしかし、夢弍羅がもちなの手をとり、雫の部屋まで向かっていると、
「むにちゃん…お姉ちゃん臭くないかな…?
着替えた方が良い…?
いや、お風呂に入ろうかな…?
あっ…!ちょんまげは変だよね…!
髪切る…?」
歩く度に夢弍羅へ不安をこぼす。
「大丈夫!相手はしーちゃんだよ!!
だからなんでも良いって!」
夢弍羅はめんどくさそうに手を引き進み続けるが、
それでも、もちなの口は止まらない。
「あぁ…お姉ちゃん太陽の下は久しぶりだなぁ……前の大会ぶりかも……あっ…!
大会と言えば…なんか何かしらの大会が来月にあったような気がしてきたかもなぁ……
大会があるなら練習しなきゃなんだけどなぁ……」
こんなことを言って逃げようとするが、
「お姉ちゃんがそんなこと忘れるわけありません!
ちゃんと暇って言ったんだからお姉ちゃんは暇だよ!!」
あなたのことはわかっていますよ、という、ちょっと嬉しい感じに否定される。
「まぁ…そうなんだけどね~……!」
そして、それを受けたもちなはしっかり嬉しそうだ。
そんなこんなで雫の部屋に着くと、
「…」
さっきまでが嘘みたく急に黙る。
「しーちゃん入るよ~!」
夢弍羅は淡々と言い、
「う、うん……」
ドア越しに聞こえる雫の声は、しっかり緊張している。
ガチャッ…
雫の部屋のドアが開き、2人が対面する。
「……」
「……」
2人は見つめ合って黙っている。
すると、
「はいはい!ゲーム!ゲーム!
ゲームしてれば馴れてくるからね~2人とも!」
夢弍羅はてきぱきとそんなことを言って、強引に雫をモニターの前へ座らせ、もちなもまた強引に隣へ座らせる。
「よし!じゃあまずは一回ランクやろう!!
ね!
しーちゃんのプレイをお姉ちゃんがみて、言えることを言う!
ね!
あっ…!お姉ちゃんは先に言っときたいこととかある?」
夢弍羅が喋らない2人の分まで喋る。
そんな夢弍羅の言葉を聞いたもちなが、夢弍羅に耳打ちで言う。
「録画してって言って…」
すると夢弍羅は、
「はい!それを自分で言う!!」
そう言ってもちなの顔を雫へ向ける。
「ッ…!」
雫はなにかを言われると思い息を飲む。
もちなは、自分が年上ということもあるし、前は普通に喋れてたというのもあるので、頑張ってみる。
「雫ちゃん…!」
もちろん雫も、話したいという気持ちはあるので、
「はい…!」
相槌を打つ。
そんな相槌に安心したもちなは続けて言う。
「後から見返せるように録画して欲しいな…!」
そして雫はそんなもちなの言葉に、
「はい…!」
またしっかりと相槌を打つ。
夢弍羅はこのやり取りをみて、うんうん、とニヤけるが、
「しーちゃん!敬語じゃなくてもっとラフに!」
と、指摘する。
でもしかし、2人は年が違うので片方が敬語でも問題ないように思えるが……?
いいや、この2人にとって敬語かどうかは大問題である。
この2人には交流パラメーターというものが存在しており、そのパラメーターの値によって仲良し持続率が変わってくる。
2人はあまり頻繁に会ったりすることがないので、夢弍羅はこの機会に交流パラメーターをたくさん積み上げたいのだ。
そして、敬語かどうかは、かなりパラメーター関与率が高い、だから大問題なのである。
「う…うん……!」
雫は夢弍羅の指摘を受けて、ラフな感じに言い直す。
こうして、雫のゲーム特訓もとい、夢弍羅の「しーちゃんねーちゃん仲良し大作戦」が始まる。
まずは普通に一戦。
雫はストリームを使う。
雫のストリームは野良のストリームという、仲間に居ると、かなりストレスになるストリームである。
そしてそれは、隣にもちなが居るということと、プロゲーマーに見てもらうということへ、緊張しているにもかかわらず、遺憾なく発揮される。
(よし…!)
夢弍羅はそれを見て小さくガッツポーズをする。
「…」
もちなは真剣な表情で雫のプレイを見ている。
そんな一戦が終わり、真剣な目をしたもちなが口を開く。
「雫ちゃん!」
そして、今までで一番気迫のある声で雫の名前を呼ぶ。
「はん!」
雫はそんなもちなへ、敬語を使わないようギリギリで頑張った返事をする。
夢弍羅は、よしよし…といった顔をしている。
「録画したやつ開いて!」
「うん!」
ここからプロゲーマーもちなの指導が本格的に始まる。
「まずここ、なにも考えずに突っ込み過ぎて、不利な撃ち合いになっちゃってるから、ちゃんと味方の位置とかスキルとか把握して、味方がスキル使ってから行く!
バロの野良では、敵を見るより味方を見た方が勝てるからね!!」
もちなは、録画したプレイ映像を止めて、今までが信じられないほど饒舌にそんなことを言う。
「な…なるほど!!」
雫はそんなもちなのプロゲーマーっぽい指導に感激してテンションが上がる。
夢弍羅はすっごいニコニコでやりきった感が出ている。
「ここ上手!
良い感じに味方のスキル使ってエントリーしてるし、ちゃんとキルもとれてる!
フィジカルもすごく良いね!
で、これ見て思い出したんだけど、さっきの試合、雫ちゃんはミクロがすごい上手だったから、今日はマクロを教えていくね!」
ミクロ、プレイヤースキルみたいなもの。
マクロ、全体的なゲーム展開などを見る力。
フォジカル、敵と対面した時の力、エイムが良いみたいなこと。
「うん!!」
雫は褒められて嬉しそうに返事をし、
もちなは相槌を受け取ったので、早速説明を始める。
「まずマクロで大事なのがね、将棋とかチェスとかカードゲームとか、ターン制で、全体が見えるものの感覚!」
「…?」
しかし、雫はいまいち理解できていない様子。
それを見かねたもちなは、もっと詳しく説明する。
「先を考える感覚って言ったらわかりやすいかな?
なんかそういう系のゲームだと、今、自分が置かれてる状況を考えて、使える手札とか、相手が持ってる手札とか、そういうのを加味した上で、自分が勝つためにするべき行動を考えるでしょ?」
「確かに…言われてみればそうかも……?」
そして、なんとなく雫に伝わる。
「そういう考え方を、バロでもやってみるの!
例えばね!」
と、こんな感じでかなりの時間、雫への指導が続き、
夢弍羅はその間、雫のベッドで幸せそうに寝ていた。
そんな夢弍羅を起こす声が聞こえる。
「むに!起きて!!」
雫が寝ている夢弍羅の体を揺らす。
「ん……」
夢弍羅はその揺れを感じとり、目を覚ます。
夢弍羅が起きたことを確認すると、
「むに!生まれ変わった私を見てよ!!」
雫が元気な声で言う。
「んん……」
夢弍羅は眠いながらに雫の方を見る、
するとそこには、ワクワク顔の雫が、満足げで自慢げな顔をしたもちなを背に、立っている。
そんな雫を見て、
(寝起きにしーちゃんがいるなんて……なんか嬉しいなぁ……)
こんなことを思いながら、
「ん……んん…その前に…トイレと水だけ行かして~……」
夢弍羅はそう言い、とてとてと、トイレへ向かう。
そして、スッキリ目が覚めたところで、新生雫のプレイを見る。
マップはアゼンド。
この場合、雫のキャラピックはストリーム一択なのだが……
「え!?ストリームじゃないの!?」
なんとグローヴである。
「むに……!私わかったよ…!
私がストリーム使ってる時に、むにがグローヴ使う理由…!!」
「ギクッ…!」
夢弍羅は、雫がストリームを使うときは大体グローヴを使うようにしている。
これがなぜかと言うと、野良のストリームである、雫をカバーするためであるからして、
「私が好き勝手にやっちゃうから、なんでもできるグローヴでカバーしようとしてくれてたんだよね!!」
これは正にその通りであるが、
「そっ…そうだね~!」
(バレちゃった…!
けど、しーちゃんすっごい元気だ…
バレたらてっきり、
ふんぎぃー!
ってなると思ってたのに!
ちょっと見てみたかったのに!)
夢弍羅は、特に何事にもならずバレてしまい、安心するとともに、少し残念そうな顔もする。
「もう大丈夫だから私……マクロを覚えた私に敵はいないよ!」
試合が始まる。
攻守は攻めからだ。
(どんな風に変わったんだろ~!
あたしお姉ちゃんがどんなプレイスタイルか知らないからな~!
どんなこと教えてるのか全然想像つかないよ~!まじちょ~楽しみ!)
もちなは、知り合いに見られるとデバフがかかるということで、絶対にネット上で私のことを見ないで、と、自分の周りにすっっっごく強く釘を刺しているのだ。
キャラを動かせるようになる。
いつもの雫ならジェリブを買って真っ先に、A側かB側に走っていくが、
ピタッ…!
なんと雫は動かずに、
(しーちゃんが動かない!?
利己的で、味方のことを全く考えないあのしーちゃんが動かない!?
しかも!モクとゴーズド買ってる!?)
スキルと武器という安定した購入を見せる。
購入、このゲームはラウンドごとに、もってるお金で武器やスキル、アーマーなどを買う。
最初のラウンドは皆800円しかもっていないので買えるものが限られてくる。
ジェリブ、ハンドガンで一番強い武器だが、800円という値段のため、最初のラウンドだと他の物を買えないかつ、扱いが難しい。
ゴーズド、扱いやすくそれなりに強いハンドガンで、値段も500円、大体の人はゴーズドとスキルを買う。
これは雫のゲームスタイルだとあまりに不自然な行動のため、夢弍羅が言う。
「しーちゃん動けるよ…?
あとジェリブじゃないの…?」
すると、
「最初はね、味方の動きを見るんだよ!
そして、フラッシュ持ちが居る方に行くの!
何てったって野良だからね!
あと武器はね!グローヴだとモクが強いからジェリブじゃないの!!」
雫は少し自慢げに覚えたことを話す。
フラッシュ、相手の目を眩ませることが出来るスキル。
「なるほど~!」
(ちゃんとした意思で動いてる!?
さすがはお姉ちゃん……!)
夢弍羅は利己的から卒業した雫を見て、姉の偉大さを再確認する。
最初のラウンドが始まる。
今回はAを攻める雰囲気になっている。
勿論いつもの雫なら突っ込んでいくが、
今の雫は一味違う。
(やっぱり攻めない…!)
夢弍羅もそうじゃないかとは思っていたようだが、雫は夢弍羅の想像を超えていく。
雫は味方がA側に索敵スキルを撒くとすぐに、ヘブンといわれる場所と、ツリーと言われる場所へモクを炊いて、走り出す。
(え!?いきなりすっごいガンダ!?)
夢弍羅はいきなりのありえないダッシュに驚く。
ツリー、メインを抜けて左にある場所。スイッチを押すと壊せる壁で閉まる。
ヘブン、メインを抜けると正面にある高台。
ガンダ、ガンガンダッシュする事。
このゲームは走ると足音がなるので、位置がバレていない場合は歩くのが基本。
雫はガンダで、流れるようにメインを進行する。
それにつられて味方達も走り出す。
すると雫は、うまい具合に走る速度を調整して、メインからサイトへ抜けるくらいの所で、味方と距離がビタビタになったタイミングを見計らい、急に止まる。
その時、他の味方4人はフラッシュを炊いたり、メインを抜けてピークしたりなど様々な行動をしていて、ピークした2人がやられ、味方がその敵を倒し、互いに2人が削れる。
ピーク、顔を出すこと。
そして、雫は味方の後ろからサイトと呼ばれるメインの戦場へ入り、ヘブン手前にある壁際のコンテナへ歩いて直行する。
(え……?
今…………?いや……まぁとりあえずこのラウンドは静かに見よう……)
夢弍羅は今の一連の動きに不自然さを感じたが、一旦この場は静観することを選ぶ。
コンテナに着いた雫は、モクが炊かれたヘブンをじっくり見ている。
この間に味方が爆弾をエリアへ設置する。
そして、ちょっと経った後にモクが晴れる。
そこに敵はいないので、雫はヘブンを上がり、右の壁際にピタッと張り付いて、敵が来るであろうヘブンに繋がる道を見る。
この時味方は、ツリー横に1人と、メインの方に1人という感じで、ツリーは閉まっている。
雫が同じ場所で待機していると、ツリーの閉っていた壁が壊される。
そして、それと同じタイミングでヘブンに敵が2人来る。
雫は、落ち着いたエイムで頭に1発、これで1人をキルし、残った1人は勿論撃ってきているが、ハンドガンかつ胴体や脚当てばかりだったので、雫は死なずに、相手の頭をまた1発で撃ち抜く。
すると、
シュンッ…!
ここで、ツリー側の方から撃たれて、雫は殺られるが、
その敵を味方が倒しこのラウンドを取る。
「よし…!」
雫はふぅと一息ついて小さく喜ぶ。
「しーちゃんすごい落ち着いてるね!
なんか今までとは全然違うよ…!
あとあの1対2勝つのすごい!!」
夢弍羅は色々感じたこともあったが、とりあえず雫を褒める。
「まぁね!でもあんなのはラッキーでしかないよ!相手に救われたみたいなとこある!」
いつもの雫ならドヤ顔しそうな所だが、ドヤ顔はせずに、ちょっと鼻につくゲーマーがよく言う台詞を言う。
夢弍羅はそんな雫にすごい違和感を覚える。
そうしていると次のラウンドが始まる。
ここで夢弍羅はもちなへ耳打ちする。
「お姉ちゃん何教えたの…!」
何か悪いものを見たような雰囲気で言う。
「雫ちゃんはフィジカル強かったからね…!私のプレイスタイルをそっくりそのまま教えたよ…!」
もちなも夢弍羅に合わせてヒソヒソと喋る。
「いや、あたしお姉ちゃんのプレイスタイルとか知らないから、そんなこと言われてもわかんないよ…!」
こう言って夢弍羅が説明を求めると、
衝撃の事実を伝えられる。
「えっとね…味方を武器だと思うやり方…!」
(利己的の極みじゃんっ!!!!!!!!)
夢弍羅は心の中で1人叫ぶ。
「雫ちゃんは才能あるよ…!フィジカル強いし…!直ぐ覚えてくれるから…!」
夢弍羅が喋らないのを見てもちなが逆に喋る。
「いや…!すっごい利己的なプレイスタイルじゃん…!」
ここで夢弍羅は思ったことをしっかり言うが、
「うん…!野良だとこれが一番安定するから…!
でもフィジカルがないとできないんだよ…!
雫ちゃんにはフィジカルあるから…!」
もちなは当たり前みたいな顔をしながら、やたらと雫のフィジカルを褒める。
ここで、雫のプレイ。
また雫がガンダでサイトに行こうとしたところ、急に止まる。
「あれなに…!すっごい不自然な動きなんだけど…!」
夢弍羅がまたもちなへ問うと、
やはり衝撃の事実を伝えられる。
「味方にピークさせるテクニックだよ…!」
(最低じゃん!!!!)
これは要するに、お前が体張って囮になれよということである。
「サイトにスキルとかも使ってくれるから、味方が学習するまでは使うの…!」
もちなは夢弍羅が喋らないのを見て、テクニックの説明をしてくれる。
「いや、それ最低だよね…!」
そんなもちなへ、夢弍羅は良心的な価値観を武器に言うが、
「でも、野良で安定して勝とうと思うなら、味方は信じちゃダメだし…!
このランク滞だと特にね…!」
もちなのプレイスタイルが、勝利ファーストなので全く通じない。
「よし!」
と、ここで雫がラウンドを取る。
「ナイス~!ほんと強くなったね~しーちゃん!」
夢弍羅はもちなと話しながらに、ちゃんと雫のプレイも見ているのですぐに反応する。
「まぁね!でも、ファースト取った後のセカンドだし!勝って当たり前みたいなとこある!!」
雫はまたドヤ顔ではなく、鼻につくようなことを言う。
これを聞いた夢弍羅は、原因であろうもちなへ、
「お姉ちゃん…!しーちゃんがドヤ顔しないんだけど…!!」
少し高圧的に問う。
「それはね…!私も不本意なんだよ…!!」
しかし、この事に関しては、もちなも不本意ということらしい。
「なにそれ…!どういう意味…!!」
夢弍羅は、その不本意ということの意味わからなさに説明を求め、
そう問われたもちなは、しっかりと不本意の説明を始める。
「いやね…!雫ちゃんはさ…!
最初ちょっと良いプレイするとすぐドヤ顔してて、ゲーム楽しんでるなぁ…可愛いなぁ…って思ってたんだけど、教えていくうちに、どんどん、どんどん、ドヤ顔ハードルが上がっていっちゃって、今はクラッチかエースぐらいでしかドヤ顔しなくなっちゃったの…!」
クラッチ、1人の状況で、2人以上残った敵からラウンドを取ること。
エース、5人を1人で倒すこと。
「う~ん…!もったいない…!!
しーちゃんの浅い所も、可愛かったのに…!
何で深みに落としたの…!」
夢弍羅は教えるということを色々わかった上で、半ば八つ当たりぎみに言う。
「落としてないよ…!普通に教えてただけだから…!不本意だって…!」
しかし、もちなは本当に普通のことを教えていただけなのでこう言う。
夢弍羅もそれはわかっているので、
「むぅ…!他にはなんか教えたりした…!」
ぐぅっ…と飲み込み、他に変なことを教えていないか聞く。
「うん…!
エイムのあわせ方とか…
購入の優先順位とか…
グローヴとフシックスの使い方…
チャット非表示のやり方…
味方のジャンル分け…
利敵通報のやり方……とかかな…?」
「ちょっとぉ…!最後の方のやつなに…!」
夢弍羅は、色々問いただしたいことを聞いてしまうが、
ここで雫がラウンドを取る。
「ナイス~!しーちゃんつよ~!
このランク滞じゃもう敵無しのフィジカルだね!」
そして、夢弍羅がしっかり褒めると、
雫の鼻につく反応が変わる。
「そうなんだよ!
私フィジカルあるんだよ!!」
なんと久しぶりにドヤッ…とする。
夢弍羅はこれに思い当たる節を見つけて、
「お姉ちゃん…!さっきからやたらとフィジカル押してたよね…!
今のドヤ顔となんか関係あるでしょ…!」
またもちなへ高圧的に聞く。
するともちなは、
「う~ん……確証はないけど……
雫ちゃんフィジカルすごいねぇ…!
良いフィジカルだねぇ…!
それが一番の武器だよ…!
とかって、ことあるごとに言ってたから…もしかすると褒められ洗脳みたいなのかかっちゃったかも…!」
曖昧な感じで、絶対にあり得ない洗脳のしかたを答えとして言い、
そんなあり得ない答えを夢弍羅は、
「しーちゃんは純粋で染まりやすいんだから…!
同じことで褒めまくっちゃうと間違いなく染まっちゃうよ…!!」
がっつり肯定して、しちゃダメじゃん…!という感じに言う。
対して、あり得ないと思いながら言った洗脳方法をがっつり肯定されたもちなは、
「いやでも…!逆に褒め褒め洗脳みたいなの私もかかっちゃってたから…!
今思い返せばたくさん言ったかもなぁって…」
自分も洗脳状況下に置かれていたこと説明し、少しは情状酌量を見いだしてもらおうとする。
しかし夢弍羅は、
「いやお姉ちゃんは正気に戻れても、しーちゃんは完璧に染まってるから…!
もうフィジカルを褒められたら、喜んじゃう体になっちゃってるから…!!」
姉がどうこうよりも、雫が洗脳済みになってしまったことに強く反応する。
それを聞いたもちなは、
「でも…喜んでくれるなら可愛いしいいじゃん…!
クラッチか…エースか……フィジカルだよ…!」
多少ふざけ混じりに言うと、
「よし!」
ここでまた雫がラウンドを取る。
「しーちゃんすごい!!
もう四連続ラウンドを取ってるよ!!」
夢弍羅はやっぱり褒める。
「まぁね!でもまぁ味方運もいいか……」
そして雫もやっぱり鼻につくようなことを言おうとするので、
「よっ!フィジカルモンスター!!」
割り込んで言う。
すると、
「まぁね!!
私はフィジカルが一番の武器だからね!!」
しっかりドヤッっとする。
これを見たもちなが、
「ほら…!
鼻につくようなゲーマーの言葉も、フィジカル褒めれば解決だよ…!」
洗脳は結果的に良かったでしょ!という感じに言う。
「はぁぁぁぁぁ…!
こんなことなら野良のストリーム時代に戻って欲しいよぉ…」
夢弍羅はそんな言葉を無視して、無邪気さを失った新生雫に項垂れる。
ここで、プロゲーマーの知恵が発動する。
「私もさ…すごいスピードで育つ雫ちゃんを見ててさ…
嬉しいような…悲しいような…そんな気持ちになってたから…!
もういっそのこと忘れるように洗脳しちゃおう…!」
「え…?」
もちなのそんな言葉へ、夢弍羅は呆気にとられる。
そして一瞬の間の後、聞く。
「どうやって…!」
そう聞かれたもちなは、
「たくさん褒めて染み付いたってことは、同じことをたくさん言えばその言葉に操られるってことだよ…!」
理解しがたい即興理論を完全な答えとして夢弍羅へ言う。
夢弍羅は、
「褒められ洗脳ならまだしも…!ただたくさん言うだけなんてそんな訳ないじゃん…!」
褒められ洗脳は肯定しつつも、物量洗脳を否定する……が、
「むにちゃん…!こういうのはやってから、やっぱダメかぁ…って言うやつだよ…!」
もちなはとりあえずやろうと言う。
「よし!」
そんなところでまた雫がラウンドを取る。
「すごい!5連続だね!!
もう誰にも負けないんじゃない?」
夢弍羅はよいしょよいしょと褒めて、
「まぁね!でも今回は…」
ここで割り込む。
「だってフィジカルがすごいもん!!」
「まぁね!!
私はフィジカルが一番の武器だからね!!
フィジカルモンスターだからね!!」
それを受けた雫は、さっき夢弍羅が言った言葉を取り入れてドヤる。
そんな雫を見て夢弍羅は、あれ…?いけるかも…?
という手応えを感じ、希望を持ってもちなへ言う。
「よし…!とりあえず試合終わったらやってみよう…!」
「うん…!」
雫の洗脳が決まった瞬間である。
試合が終わり、2人は雫をベッドに座らせ前に立つ。
「むに…?もちなちゃん…?2人共どうしたの…?」
雫はそんな2人に少々の恐怖を覚える…
が、そんなことなどお構い無しに2人は洗脳を始める。
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
こんな言葉の暴力に、雫の目が回りだす。
2人は手応えをひしひしと感じ、追い洗脳をいれる。
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
「しーちゃんは今日お姉ちゃんに教えてもらったことを忘れます…」
「私はなにも教えていない…」
パタッ…
雫が後ろに倒れ、
「しーちゃん!?」
「雫ちゃん!!」
2人が心配し呼ぶと、
「むに……」
雫が起き上がり、夢弍羅を認識して名前を呼ぶ、
そして少し遅れて、隣のもちなも認識する。
ピタッ…!
雫が固まる。
これはもちなの姿を見たからである……
そう、さっきの物量洗脳は効果抜群で、
なんと雫は今日もちなと話したことを全て忘れてしまったのだ。
その雰囲気を感じとったもちなは、
「雫ちゃん!」
慣れたように雫の名前を呼び、
「はい…!」
雫は緊張したように返事をする。
「3人でなんかパーティーゲームでもしよう!」
そんな緊張した雫をゲームに誘う。
「はっ…はい…!」
雫は、状況がいまいちわからないながらに返事をする。
そこに夢弍羅が言う。
「しーちゃん!もっとラフにいこう!!
敬語は無しで!!」
「え……?う…うん…!」
こうして3人はリビングに行き、フリオパーティーをした。
そして、もちなの積極的な歩み寄りで、雫ともちなの交流パラメーターは過去最高値に達し、
夢弍羅はそんな2人を見てとても嬉しそうな顔をする。
(これは5ヶ月くらい持つかな…!)
ちなみにゲームはもちなが無双した。