コミュニケーションとかまぢ無理www
9月も後半、月曜日、家の外で朝の7時20分くらい、
「おっはよ~!!」
「おはよ~」
制服姿の夢弍羅が同じく制服姿の雫に勢いよく抱きつく。
(月曜日だけに許されたおはようハグ!
華奢な体が朝から染みるな~!)
(はぁ……これで今週の学校もがんばれる~!)
夢弍羅は相変わらず露出度の高い足のよく出た着こなしで、
雫は制服の上に、アニメのキャラが小さくプリントされたパーカーを着ており、スカートは夢弍羅と同じく短いが、タイツを履いている。
「なもちもおはよ~!」
夢弍羅は雫から離れて、隣にいた黒いランドセルを背負う子供にも抱きつく。
「お姉ぇからでは得られないこの胸部の柔かみ……はぁ……どうやらまた、日曜日は敗北したようですね。」
夢弍羅の胸に顔を埋めながらこんなことを言う子供は、今年で11歳になる雫の妹、百合海水南雲。
「はは~wなもちは相変わらずだね~!」
夢弍羅はみなもを離しながら言う、
解放されたみなもは、
「お姉ぇ私をむに姉ぇのしたように包容してみてください!」
と言い、雫がそれに答えるように抱きつく。
「ふむ、これで同じメスだというのだから人間は面白い……」
抱きつかれたみなもはいきなり高位存在目線で失礼な感想を言うが、
「高位存在さん、もう離して良いですか~?」
雫は特に顔色を変えず淡々と言う。
「お姉ぇが離したいと思うのであれば、そうすべきだと、みなもは思います。」
雫はすぐ離す。
「みなもは姉の暖かみを失い、余韻に比例して大きくなる寂しさを手に入れた。」
みなもは今の気持ちを、どこかで聞いたよう感じで言う。
雫はそんなみなもに手伸ばす。
「学校行くよ。」
みなもは雫の手を右手で握り夢弍羅に言う。
「むに姉ぇ、左手がまだ寂しそうですが…」
「はいどーぞ!」
夢弍羅は笑って右手を伸ばす。
「これが年下の強みというやつです…!」
伸ばされた夢弍羅の右手を握ったみなもは、真ん中で満足げにそんなことを言う。
みなも、
不思議な語彙力を持っていて、かまってちゃんかつ寂しがりな性格であるが、これとは違う別の顔も持っている。
3人は学校へ向かう。
歩いて5分、みなもと別れる道で。
「じゃあね~なもち~!」
「いってら~」
「さよならは言わない、それが私のポリシーだ!」
みなもは2人と別れ、1人歩きながら重苦しい雰囲気で喋る。
「はぁ…また学校が始まってしまう……
せめてこの両手の温もりが消えないうちに、あの地獄へ行こう……
そしたらきっといつもよりも楽に校門を通れるから……
2人が私の背中を押してくれるから……」
「みなもんおっはよ~!」
意味深なことを言うみなもの後ろから、活発そうな少女が元気よく肩に手を当てて、馴れ馴れしく挨拶をする。
「え!あっ!おっおはよう……!りんちゃん…!
今日は遅いんだね……!!」
それを受けたみなもは、焦った顔で、とてもおどおどと挨拶を返す。
「うん!今日はな!寝坊しちゃって!!
ほんとは朝からサッカーしたかったんだけどな!!
まぁでも!みなもんと一緒に学校行けるなら寝坊してよかったかもな!!」
「えっ…あ…………う…うん……!
私も嬉しいな……!」
実はみなも、人見知りである。
そして、一度定着したキャラを変えれない質で、学校ではこのようにたじたじなのだ。
これがみなものもう1つの顔、
その名も…
「アンチコミュニケーション!!(名前はみなもがつけた)」
そしてこのアンコミ……まだ使い手がいる……
雫と夢弍羅は同じ教室で、各々自分の席に座る。
雫は右から二番目の列、一番後ろの席で、
夢弍羅は右から一番目の列、前から二番目の席だ。
まだ朝のちょっとした時間ということもあり、陽気な者達は友達と喋っている。
「なぁ今日バロしよーぜ!」
顔の造形がはっきりしない男2人が、夢弍羅と会話をしている。
夢弍羅の横には、やたらと距離が近い女友達らしき姿もあるが、夢弍羅は平然としている。
「ごめん今日先約あるから無理~。」
昨日約束した雫とのポリクラである。
(ふん……!)
この会話を聞いた雫は心の中で勝ち誇る。
そしてそんな雫は1人、ノートや教科書を広げて次の授業の予習をしている。
これは勉強バリアといい、話しかけられないようにするための技である。
「マジか~!夢弍羅ができないのいてぇ~
お前が居るだけでフルパの勝率マジ全然ちげぇんだよな~」
男が夢弍羅の断りに反応をすると、
「らっちょ~今日カラオケ行かな~い?」
横に居た距離感の近い女が夢弍羅に聞く。
「だからあたし先約あるって~!」
夢弍羅はさっき言ったじゃんという感じで返す。
「ゲームだから夜の話かと思ってた~ごめ~ん。」
ここでいきなりだが、夢弍羅の態度はわりと、雫のことを好きだと言っているような感じがある、しかし雫はそう思っていない。
これは夢弍羅の女友達たちがしている、この距離感が理由である。
夢弍羅の女友達たちは距離感がやたらと近く、いっつもひっつきべったりしているがゆえ、例え夢弍羅が自分に好意的に見える行動を取ったとしても、それを好意だとは思えないのだ。
(んんんん……)
コホッ…!コホッ…!
雫は、内から込み上げる気持ちが喉につっかえて小さめの咳をする。
クラス一同がそれを見る。
これは雫が、美しく、可愛く、儚げで、全く喋らないからである。
学校で喋るところを見れば、その日1日が幸せになると言われるくらいだ。
それを見た夢弍羅と喋る男の片割れ、田中モブオは話のネタにする。
「なぁ……夢弍羅って百合海さんの幼馴染みなんだろ……?」
モブオは小さい声でそんなことを聞く。
「うん、0歳から一緒だよ~」
夢弍羅のテンションが少し下る。
「連絡先とかもってないの…?」
「持ってるけど勝手に教えたりしませ~ん!」
夢弍羅は当たり前に断るが、
「いやぁ、マジそこをなんとかさぁ…!」
「教えないって!」
「いやぁマジで頼むよぉ……!
連絡先さえ貰えたら行けると思うんだよ……!」
かなりしつこく聞いてくるので、
夢弍羅は明らかにテンションが下げて言う。
「はぁ……そんなに欲しいなら自分で聞きに行きなよ……」
(は~……しーちゃんごめんね~……!アンコミ使わせて~……!)
「よし!今のって実質幼馴染みから紹介貰ったみたいなもんだよな!
オッケー!俺聞いてくらぁ!」
アンコミ、改めて言うがアンチコミュニケーションというもの。
みなもに備わる、二面性に名前をつけた言葉……
ではなく、
このアンコミには本家があり、みなもは英才教育で、その末端を得たにすぎない。
じゃあその本家は誰なのか?
そんなものは言わずともわかることである。
モブオが雫へ近づいていく。
喋り始められそうな距離感まで近づくとモブオが口を開く。
「百合海さ~」
ギロッ…!
シュンッ…!
ドンッッ…!!
雫が、自分の名字を知らない誰かが呼んだことに反応し、声の方を睨む。
その眼力で睨まれたモブオは黒板まで吹っ飛び、チョークの粉煙がモブオを包む。
「無茶しやがって……」
モブオの片割れがそう言いながら見つめる先には、
狼牙風◯拳 がちらつく殺られ方をしたモブオが黒板に張り付いている。
眼力だけで人を吹き飛ばす、これが本家本元のアンチコミュニケーションである。
そして、それを放った雫はというと、
(喋りかけられた…!勉強バリア張ってたのに……!)
今も尚驚いている。
ガラガラ……
そんな時に先生らしき女性が入ってくる。
「は~い皆さん席に……」
モブオの姿が目にはいる。
「キャーーーーーーーーー!!!!!
あの頃のベ◯ータ様が教室にぃっ……!!」
「いませんからぁ!!」
ツッコミをいれるのがクラス委員長の、突古見さん。
「え……!
でも、栽◯マンに殺られたであろう田中君の姿が……!」
「それ百合海さんの眼力です!」
「ほう……眼力で栽◯マンの自爆に匹敵する力……中々やるわね…!」
先生はそう言うと普通に教卓へ歩いていき、
「さぁ!朝のホームルームを始めます!」
普通に話を進める。
「先生!田中君が黒板に張り付いたままなんですが!?」
ここに当然、突古見さんがツッコミをいれるが、
「突古見さん……この物語はギャグ系……
つまり!何事もなかったようにしていれば!ページ移動で全て元通りになるものなのよ!!」
先生は自信満々にこんなことを言う、
「いや!そうはいきませんよ!」
がしかし、突古見さんはそれを否定する。
「なぜです!突古見さん!!先生の理論に間違いはないはずです!!」
そして、自分のギャグ漫画理論を誇る先生へ、
「確かに漫画ならばそれで良いかもしれませんが!この物語の媒体は小説家になろうなんです!!」
こう言うが、
「それがどうしたって言うの…?」
なろうだと言うだけでは伝わらなかったので、はっきりと言う。
「なろうにはページ移動がないんですよ!!」
「なっ……!なんですってぇ~!!!!!
じゃあ!このままだと…!無茶な田中くんはもとに戻らない……!?」
この衝撃の事実を知った先生は、
「ふん…!仕方ないわね……!
こうしてしまえばよかろうなのだァァァァァッ!!」
黒板に張り付いたモブオを消すため荒業にでる。