女同士とかまぢ無理www
アニメの美少女タペストリーやフィギュア、漫画でぎっちり埋まった本棚などがある、可愛ピンクな雰囲気の部屋で、仲の良さそうな2人がベッドを背もたれにして喋っている。
「いやさ~あたしらってこんな可愛いのに、今まで一度も彼氏できないとか意味わかんなくな~い?」
そんなことをボケ~っと呟くのが。川井夢弍羅。
オレンジに黄色が程よく混じった肩より長い髪に、露出高めの腹だしタンクトップ、下は半分以上太ももが出る短パン、布の面積と肌の面積が互角くらいのファッションだ。
「べつに~……」
夢弍羅の呟きに少しテンション低めで返すのが、百合海雫。
髪は黒く綺麗なボブに、大きいいサイズのキャラプリTシャツ、下はTシャツで見えないいくらいに短い短パン、こちらは理想のアニオタ美少女を体現したようなファッションだ。
「あぁ~彼氏ほし~。」
夢弍羅がだらぁっと、横に座る雫に、脱力して寄りかかりながら言う。
そんなことを言われた雫は、携帯を見つめながらに、あたかも自然な雰囲気をかもしだして淡々と言う。
「はぁ……それ聞き飽きた~もういっそのこと私でよくない?」
それを聞いた夢弍羅は、自然な雰囲気を纏ったその言葉を、冗談と捉え、笑いながら返す。
「はぁ?ないない!
女同士とかまぢ無理しぬwww
絶対ないわ~w」
むぅッ…!
そんな夢弍羅の態度に雫は、携帯をちゃんと見つつもむぅッ…!っと表情変える。
「ねぇ~どっか遊び行こ~よ~!」
突拍子もなく話が変わる。
「今日は暑いからヤダ!」
雫はさっきのことを引きずり明らかに不機嫌そうな感じで返すが、
「え~こういう暑い日にナンパされたりすんだよ~!」
夢弍羅は特に意に返すことなく、話は続く。
「もっとヤダ!!」
「え~じゃあなにすんの~?まだまだ今日は長いぜ~。」
「アニメ…」
何気なく言ったこのアニメという提案、実は雫の百合罠である、
「アニメか~、なに見んの~?」
夢弍羅はそんな罠にまんまと引っかかる……
「最終話出るまで待ってたやつ。」
(よし!やっとチャンスきた!!
去年の夏アニメの中で一番面白いと言われたあの伝説の百合アニメ、「限りある命を君だけのために」を、むにとみれるチャンス!!
12話貯めてみようと思ったら、ツキッターのトレンドを染める程にすごいって話題になって、これをむにと一緒に見ればもしかしたら、なんて思ってもう1年くらい経った今!!
ようやくチャンスが!!)
が、しかし、
「へぇ~面白いのそれ。」
あまり乗り気じゃないようだ。
「うん!面白いよ!!絶対!!
めっちゃ面白いって話題になってたし!
ツキッターのトレンド1位を最新話が放送される度に取ってたくらいだよ!!
トレンド1位取るってことは、普段アニメを見ない人も見てたってことだからね!!
むにも楽しめるよ!!」
寄りかかっていた夢弍羅へ顔を向け、このチャンスを逃さぬようにとすごい熱量で言う。
「ふ~ん……それって、鬼切りの刀よりもおもしろい?」
鬼切りの刀とは、ジャンピングコミックスで連載されていた漫画で、アニメ化された際に、社会現象になる程人気を得た作品である。
ウッ…!
この言葉を聞いた雫は、ウッ…!と一旦ダメージを食らった後に言う。
「いや~私は作品を比べるとかはあんましたくないからなんとも言えないけど、とにかく絶対面白いよ!!」
「あぁ、ごめん、比べるのはよくないね。」
夢弍羅は雫のウッ…!で自分の言ったことを考え直して、とりあえず謝り、
「……で、それってなんて名前のやつ?」
話を繋げる。
雫はそんな夢弍羅の問いに、見てくれるかも!という期待と、断るための助走なのかも……という不安を抱えながら恐る恐る言う。
「…………
「限りある命を君だけのために」っていう作品なんだけど……!」
「あぁ!それ見た~!!めっちゃ面白かったやつ!!」
「サスガワハケンアニメェッッ!!!」
ボスンッ…!
雫は突然奇声を上げながら背もたれにしていたベッドへ勢いよくダイブする。
そして寄りかかっていた夢弍羅は倒れる。
「イテッ…!って、いきなりどうした!?大丈夫そ……!?」
いきなりの奇行に夢弍羅は驚き、心配する。
「いや、大丈夫。
気にしないで……………………
絶望してるだけだから。」
(もうおしまいだぁ……アニメ史上最も強い百合を見て今の感じなら……もうおしまいだよぉ……)
「いやそれ大丈夫じゃなくない!?」
ベッドに突っ伏す雫を見ながらツッコミを入れる。
「いや、ほんと大丈夫……。
それよりもさ…ほら、かぎきみ見てどうだった…?」
絶望している雫は、もう既に態度として現れているがしかし、一応、最高の百合アニメを見た感想を聞く。
「めっちゃ面白かったよ!!
ただ、勉強しながら見てたから、あんま内容覚えてないけど。」
「なにィッ…!!」
シュパッ…!!
さっきまで絶望していた雫が急に元気になって、夢弍羅をしっかり見る。
「おぉ…!すごいね…!テンションどした?」
夢弍羅はいきなりしっかり顔を合わせられて、おぉっ…!っと反応をするが、
「アニメはながら見じゃダメなんだよ!!」
雫がベッドの上に立ち上がり、真剣に、声高らかに、そんなことを言うので、
「はい…!」
その雰囲気に合わせて夢弍羅もピシッと姿勢を正す。
―長文タイム―
今から始まるのはあくまで彼女の個人的な意見です。
「あのね!
アニメはながら見じゃダメなの!
これがなんでかっていうとね!
まず、記憶に残りずらい!!
ながら見してると、記憶にあんまり残らない割に、印象に残ったとこだけが記憶に残っちゃうから、勿体無いんだよ!!
次に、伏線とかが拾いにくい!!
記憶に残りにくいのもそうだし、見落としたり、聞き漏らしちゃうことだってあるから!
だから伏線とかが拾えずに、なんでこんなとこで泣いてるんだろう?ってことになったりするんだよ!!
なんでこんなに怒ってるんだろう?とかね!!
これってそんなに大事な物なんだ!とかも!!
とにかく、違和感がうまれちゃうから!!
後は、作画をちゃんと見れない!!
すごいアニメはぬるぬるで動くからね!ぬるぬるで!!
でもそれって当たり前じゃないんだよ!
アニメでぬるぬるなのはすごいんだよ!!
それをながら見で、消化しちゃうなんて勿体無いんだよ!!
アニメは映像の全てが描かれてるわけだからね、そういうアニメーターさん達のこだわりとかもあるんだよ!!
とりあえず今思い付くのはこのくらい!
わかった!?」
息をつく間もわからないほど、濃密に語る。
「はっ!はいィっ!!」
夢弍羅は少し焦ったような顔で雫を見上げ、返事をする。
「よし!じゃあ一緒に見よ!!
足広げて座って!
中入るから。」
ここぞとばかりにタブレットを取りながら、可愛らしい笑顔でそんなことを言う。
「え?股の間に座るん!?」
夢弍羅はあまりの距離感に驚くが、
「え?だってそうする以外に一緒に見る方法なくない?
身長はむにの方が高いんだし。」
雫は、これまたあたかも自然な感じで、当たり前じゃんみたいに言うがしかし、
(ヤバい……違った……?
無理?こ~れ、まぢ無理案件?
いや~、この流れなら行けると思ったんだけど…!)
内心はドキドキである。
「確かに!そう言われたらそうかも!!
じゃあクッション取って~!」
夢弍羅は雫の自然な感じに、そっか~と納得してポジショニングを始める。
「うん!」
(やったぁッ…!)
雫は嬉しい気持ちが駄々漏れのまま、返事をする。
そして二人は仲良くアニメを見る。
1話目
「面白い…!」
「あぁ!こんなんだったな~!」
2話目
「早く次…!」
「あれ?こんなシーンあったっけ?」
3話目
「エグい…!」
「エグ…!」
4話目
「これはトレンド1位だわ。」
「確かにね。」
5話目
「あ゛ぁ゛!!ここでぇ!!」
「ここ覚えてるわ~」
6話目
「とりあえずよかったぁ……」
「トイレ~」
7話目
「トイレ~」
「この体制意外と疲れるな~」
8話目
「ここで死ぬマ?エグ……」
「ね。」
9話目
「じゃあ寝っ転がろ~」
「ちょっと座るの疲れたわ~」
ベッドでうつ伏せに並んで、枕を支えにタブレットを置く。
10話目
「もうすぐ終わっちゃう~」
「ふわぁ~ぁ」
11話目
「やばい!次最後だ!!やばい!!」
「もう最後か~」
12話目
「グスッ…う゛ぅ゛ぅ゛……」
「なんが、前見たとぎよりっ、感動ずるわぁ……」
一気見終了。
「最高すぎ~!!ネタバレ踏まないように貯めた甲斐があった!!最高すぎ~!!」
「なんか前見たときより面白かったわ~!」
二人で感想を言い合う。
ここで思いがけない言葉が夢弍羅から出る。
「いや~女の子同士はいいなぁ……あッ…!」
言った瞬間ハッとして雫の方を見る。
「ありがとうございます……最高の作品を生んでくださりありがとうございます……この世の全てに感謝を……今までの全てに感謝を……ありがとうございます……ありがとうございます……」
雫は手を組んで、天にぶつぶつ何かを言いながら感謝を伝えていたため全く聞こえていない。
(危っぶなぁ……)
夢弍羅は人知れず安心する。
そこから少し経って落ち着いた頃。
「そろそろあたし帰るわ~」
夢弍羅が軽~く言う。
「うん。」
雫も特に何事もなく相づちを打つ。
そして、雫は玄関まで夢弍羅を見送り、夢弍羅は一人、家を出る。
(はぁ~~っ今日も可愛かったなぁ~
てか、いくら女同士だからってしーちゃんガード緩すぎ……
不意にパンツとか胸とか見えちゃうよ……
……
……
……
……今日は夜更かし確定だなぁ……)
そんなことを思いながら、雫の家の隣にある自分の家へと帰る。
……
……
……
……雫の片想いだと思えるような関係にみえたが
その実!夢弍羅も雫のことを思っていたのだ。
ではどうして2人がまだ付き合っていないのか?
それは今日の出来事を、夢弍羅視点で見ればわかる……
「いやさ~あたしらってこんな可愛いのに、今まで一度も彼氏できないとか意味わかんなくな~い?」
(あ~相変わらずしーちゃん可愛すぎぃ……エッチすぎぃ……全部好きぃ……
だから、少しでも意識してませんよアピールしなきゃ……
だってふとした時に、目とか胸とか首とか足とか手とか脇とか鼻とかうなじとか唇とか鎖骨とか耳とかおしりとか見ちゃうもん……!
あくまで同じ女として見てるって感じを装わないと……性的な目で見てるなんて思われないように……!)
「べつに~……」
(しーちゃんは昔からあんま彼氏ほしそうじゃないんだよね~うれし~!)
「あぁ~彼氏ほし~。」
雫へ脱力し体を寄せる。
(ちょっとスキンシップしてみちゃったり!
女友達っぽいよねこれは!
あたしやられたことあるもん!!)
「はぁ……それ聞き飽きた~もういっそのこと私でよくない?」
雫は携帯を見ながら適当な感じで言う。
(なんでそんな適当なこと言うかな~!!
こっちの気も知らないで!!
はぁ~うろたえるなあたし!
女友達っぽく返すんだよ!!)
「はぁ?ないない!
女同士とかまぢ無理しぬwww
絶対ないわ~w」
(うんまぢ無理死にそ~www
これ実質告白断ったみたいなもんだからね!!
しーちゃんからされた告白を断るとかもうまぢしねる、人生GGいやBG。)
少し飛んで。
「イテッ…!って、いきなりどうした!?大丈夫そ!?」
(えぇ急にベッドに飛び込んじゃった!
ってか足エロすぎ~。
ちょっとその体制はダメだよ~
Tシャツめくれてるし、短パン短すぎて隙間からパンツ見えてるし……白かぁ……
……
……
……)
「いやそれ大丈夫じゃなくない!?」
雫がアニメを見るため、夢弍羅の股に入る。
(この体制でアニメ見るマ~!
はぁ~幸せすぎて絶頂しそ~!!
てかしーちゃんちっちゃすぎ、めっちゃすっぽり入るじゃん、あたしもそこまで大きい方じゃないのに……
って……
これしーちゃんの動き次第で乳首見えちゃうやつ……
ありがとうございます。
一緒にお風呂入ったりしたことあるし、今更罪悪感とか感じなくていいよね!
うんうん!
ありがとうございます。)
と、終始こんな感じなのである。
雫は、まぢ無理~という夢弍羅に怯えながら、平静を装いあたかも自然な感じでアピールをする。
夢弍羅は、雫が同姓の幼馴染みとしての自分にすごく心を許してくれてる、だから今の関係が崩れてしまわないように、好きだということを隠す。
これはそんな2人のすれ違いラブコメディ。