第4話 反逆者たち
皇帝ランカシャーの軍師ミリアスは、ランカシャーの皇帝即位の直後「宰相」に任命されていた。
ミリアスは大陸統一戦争中、ランカシャーの軍師として、富国強兵や戦争の勝利に貢献した功労第一人者だった。ランカシャーより幾らか年下ではあるが、冷静沈着で知謀に長けている。今回の皇帝即位における皇帝の演説も、その内容はミリアスが原稿を作成していた。しかし、ランカシャーは、ミリアスの原稿を無視して暴走を始めたのである。
「我が臣民たちよ、見るがいい! 広場の中央で無様な姿をさらしている4人の敗北者を! この4人の虫ケラどもは、我が覇道を妨害した末に敗れたのだ!」
ランカシャーは、険しい表情で4人の亡国王を指差した。その直後、広場に集う諸侯や貴族たちから亡国王に対する罵声の嵐が巻き起こった。
ランカシャーの演説は続く。
「余は、決して許さぬ! 余に逆らい捕えられた敗北者たちよ。お前たちに命ずる。首を大地につけて永久に謝罪せよ!」
ランカシャーの命令が発せられると、亡国の王たちを囲っていた兵士たちが一斉に腰の剣を抜いた。鞘から抜かれる剣の音が、広場の群衆たちを一瞬にして緊張させ、黙らせた。
「皇帝陛下、亡国の王たちに御慈悲を!」
群衆のどこからか、そのような声が空に向けて発せられた。当然、その嘆願の声はランカシャーの耳にも届いていた。
ランカシャーは、その声の主に憤激した。
「衛兵! 嘆願した反逆者を抹殺しろ!」
ランカシャーは眼下の衛兵たちに命じた。しばらくすると、群衆の中から男の悲鳴が聞こえた。
嘆願した貴族の男は、衛兵によって首を落とされた。
広場の群衆に動揺が走り、再び沈黙した。
再び、ランカシャーは命令を発した。
「4人の亡国の王を斬首せよ!」
「陛下! なりませぬ!」
ミリアスが慌ててランカシャーに駆け寄ったものの、広場から男たちの悲鳴が発せられ、皇帝による突然の処刑を止めることができなかった。
皇帝即位の日に、しかも宮殿内で無慈悲な処刑を行うとは! これでは諸侯や貴族からだけでなく民の心も皇帝から離れていく!
「余に一度でも逆らった者は容赦せぬ! 衛兵たちよ、この処刑に非難の声をあげる者があれば、見つけ次第、処刑せよ!」
ランカシャーが命じると、広場のいたるところから悲鳴があがった。衛兵たちは、皇帝への批判を口にしている者を見つけ次第、斬り殺している。
「陛下、なりませぬ!」
ミリアスがランカシャーを諌めた。すると、ランカシャーは狼のような冷めた目でミリアスを見つめた。
「ミリアス、お前まで余に逆らうか? まあ、いい。大陸を統一できた以上、お前など用無しだ。ゆっくり休むがよい」
ランカシャーからの思わぬ言葉に、ミリアスは絶句した。
「近衛兵よ、この反逆者をテラスから突き落とせ」
皇帝の命令を受けた屈強な近衛兵2人はミリアスを捕らえると、宮殿テラスから突き落とした。
ミリアスは死んだ。
ランカシャーは、処刑が繰り返される広場を見下ろしながら、絶対的な権力の快感に酔いしれていた。