第3話 皇帝の演説
新皇帝ランカシャーは、宮殿テラスから眼下の大広場を見渡した。広場を埋め尽くす諸侯や貴族、兵士たち。彼らはまるで、地面を覆う大量の蟻のようだ。
ランカシャーは思った。
支配者である俺様以外は、全て蟻だ。俺様こそ、大陸の唯一の支配者であり、蟻のごとき大衆を統治する神なのだ。
ランカシャーは黄金製手すりに触れながらほくそ笑む。
この大陸の全ての財宝は俺様のもの。蟻どもは俺様のためだけに働き、死んでいけばいい。ああ、なんて気持ちが良いのだ。今、俺様は野望を叶え、欲望のままに生きられる絶対的な権力をもつ皇帝なのだ!
「皆の者!」
ランカシャーが叫ぶと、広場のざわめきが静かになった。静まり返った諸侯らを見下ろしながら、ランカシャーは満足そうな笑みを浮かべた。
「我こそ、大陸の勝利者にして絶対的な支配者である皇帝、ランカシャーである」
皇帝の左後方で立つ軍師ミリアスが黙ったまま満足げにうなづいた。同時に、広場から大歓声が沸き起こり、それに驚いた鳥たちが大空に舞い上がった。
ランカシャーは、両手を高く大きく広げて、大歓声を制した。すると、再び広場に静寂さが戻った。
「我が帝国の臣民たちよ、我が勝利、我が支配の恩恵を受けるが良い。そして、皇帝に忠誠を誓い続ける限り、永遠の平和と繁栄を約束しよう!」
ランカシャーの言葉のあとに続く大歓声。さらに、ランカシャーは言葉を続ける。
「しかし、だ。我が勝利を遮る者、我が支配に逆らう者には、死あるのみ!」
ランカシャーの表情が豹変した。勝利者たる満面げな笑みから、恨みを抱く復讐者のような表情に変わったのだ。軍師ミリアスは、ランカシャーの言葉に驚きながら右前方にいる皇帝の豹変ぶりを注視した。
陛下、演説は打ち合わせ通りに!
軍師ミリアスは、嫌な予感がした。