第2話 亡国の王
皇帝即位の式典は、帝都中心部にあるアルハン宮殿で行われる。夕陽を遮るほどの高い城壁に囲まれ、宮殿面積の大半を占める広場は、数万人規模の軍団の練兵を行えるほど広大だ。
大陸の覇者となったランカシャーは、城壁より高く壮大な宮殿のテラスから眼下の広場を見下ろしていた。
眼下の広場には、大陸中の諸侯や貴族、将軍や参謀、そして歴戦の勇士たちが集っている。しかし、広場の中央には、4頭の馬とそれを囲む数十人の兵士たちが、場違いな雰囲気を漂わせながら配置されていた。馬上では、正装した貴族や軍人とは程遠い、みすぼらしい格好をした4人の男が広場からの視線を集めていた。彼らは、ランカシャーによって滅ぼされた亡国の王たちだった。
エルゲセウス、カム・ライ、ジョン、アカラマの4人の亡国王たちは、人々からの蔑みと憐れみが混じった視線を避けるようにうつむいている。
宮殿テラスのランカシャーは、歪んだ笑みを浮かべながら、広場中央で孤立している亡国王たちを見下ろしている。
ランカシャーは、すでに戴冠式を終えていた。
金と宝石が煌びやかに輝く宝冠を頭に戴いた若き皇帝ランカシャー。その左後方には、大陸統一戦争においてランカシャーを支えた学者風情の軍師ミリアスが、黒縁の丸い眼鏡を眼下に向けている。
ランカシャーは、ミリアスに顔を向けた。
「見よ、ミリアス。あの亡国の王たちの屈辱に歪んだ顔を」
ランカシャーは左頬をひくつかせるように笑った。そんな若き皇帝の歪んだ笑みを目にしたミリアスは、表情を変えることなく無言のままうなづき、そして口を開いた。
「陛下、そろそろお時間です」
「うむ、始めるか。新しき皇帝の演説を!」
皇帝ランカシャーは、宮殿テラスの黄金製手すりに一歩近づいた。