第19話 蘇る記憶
闇の中でランカシャーは目覚めた。目覚めた直後、ランカシャーは怯えた獣のように怒りと恐怖で言葉にならない叫び声をあげた。
「ランカシャー、悔い改めなさい」
闇の中で女性の声が響いた。しかし、ランカシャーは発狂していた。ひたすら叫び続けている。
「哀れなランカシャー。苦悩の末に心がおかしくなってしまったのね」
哀れみを含んだ女性の声が響いた。
「女よ、もうやめてくれ! 俺はもう皇帝即位などしたくない。だから、この無限のループから俺を解放してくれ!」
ランカシャーは哀願した。
「ランカシャー、お前が皇帝即位するたびに悲惨な死に方をしているのには原因があるのですよ。なぜ、それに気づかないのです?」
「俺には分からない。運命の変え方など、俺には分からない」
「哀れな、ランカシャー。幼き頃に母を亡くし、父王によって厳格な帝王学を教え込まれた結果、今のお前は苦悩しているのです」
「父王は言っていた。母上からの教えなど全て忘れよ、と。幼かった俺は、父王の言う通りにするしかなかった」
「お前の父オルディンは勇猛な戦士でした。しかし、お前の母はオルディンと違って慈愛に満ちていました。ランカシャー、お前には母の思い出が残っているはずです」
優しさに満ちた女性の声が闇の中に響く。そのとき、闇の中で、すすり泣く声が響いた。それはランカシャーから発せられていた。
「母上は優しかった。母上からは他者への思いやりや慈悲、罪を許すこと、弱者をいたわることを学んだ。しかし、父王によって、母上から教わったこと全てを否定され、そのうえ、母上と引き離されてしまったのだ」
「そうです。お前に、民を慈しむこと、を教えたマリアンヌは、激怒したオルディンによって処刑されたのです······」
「母上······」
ランカシャーは闇の中で泣き崩れた。
「我が息子、ランカシャー。お前はもう気づいたはずです。皇帝として何をなすべきかを」
闇の中で響いていたランカシャーの泣き声が止んだ。
「え、今、なんと言われたか?」
ランカシャーの問いかけに女性は何も答えなかった。闇の中には静寂しかなかった。
「母上の教え、我が心に蘇りました······」
ランカシャーの声は、新たな決意に満ちていた。
その後、ランカシャーは意識を失った。




