第17話 運命を弄ぶ女
ランカシャーは静寂の闇の中で悔しがっていた。
俺としたことが、階段から転げて死ぬとは······なんて情けない!
「ランカシャー、悔い改めなさい」
闇の中で女性の声が響いた。
「転落死を悔い改めよ、だと? ああ、そうだな。情けない死に方をして後悔してるよ!」
ランカシャーは悔しげな声をあげたあと舌打ちした。
「ランカシャー、そうではありません。お前が歴史に夢中になっていたせいで、帝国が弱体化したことを知っているのですか?」
ランカシャーは何も答えなかった。ランカシャーは自分の死後、帝国が滅んだ原因は自分にある、と自覚していたからだった。
「しかし、です。帝国の統治のために歴史を学び始めたお前の姿勢は大変評価できます」
女性の言葉に、ランカシャーはフンッと鼻で笑った。
「女よ、初めて俺を褒めたな」
「私の望みは、お前が立派な皇帝となって大陸に平和と繁栄をもたらすこと。お前は、私の理想にまた一歩近づいたのです」
「ふん! 余計なお世話だ! 俺は、お前の理想を実現するために皇帝になったわけではない! ましてや、お前の理想を実現するために働くつもりもない」
「まあ、良いでしょう。お前は、お前が好きなように帝国を統治しなさい。失敗すればまた皇帝即位から始まるだけです」
「ところで、女よ。いったいお前は誰なんだ? 俺を何度も過去に戻せる力があるようだが、お前は神なのか?」
「私が何者であるか、今のお前はそれを知る必要はありません」
「知る必要がない、だと? 俺の運命を弄んでいるくせに、その言葉は聴き捨てならないな」
「ランカシャーよ。むしろ、お前は私に感謝すべきなのですよ」
「感謝、だと?」
「いいこと? ランカシャー。お前は何度も皇帝即位しては情けない死に方ばかりしているのですよ? お前は何のために皇帝に即位したのです?
情けない死に方を繰り返すためなのですか? そんなことは父王も私も望んでいませんよ!」
女性の口調は次第に強くなった。ランカシャーは女性の言葉に説得力を感じて何も言い返せなかった。
ランカシャーは考え込んだ。
俺は幼い頃から大陸の覇者となるべく父王から教育を受けた。武芸や統率力を磨き、権謀術策も教え込まれた。しかし、実際に皇帝になってみると······。
「お、おい! 女! 皇帝とは何なのだ! 皇帝とは、どうあるべきなのだ!」
闇の中でランカシャーは叫んだ。しかし、女性の声が返ってくることはなく、ただ静寂だけが続いた。
しばらくして、ランカシャーは意識を失った。




