第15話 愛を知らない皇帝
ランカシャーは闇の中にいた。しかし、ランカシャーにとっては闇の中など、どうでもよかった。なぜなら、ランカシャーは目を閉じて、外界に対する意識を遮断していたからだ。
「なぜだ」
ランカシャーは自問自答を繰り返していた。そこへ、女性の意識が現れた。女性はランカシャーの状態に気がつくと、何も言わずに、ただ待ち続けた。
「なぜ俺は、いつも最後には殺されてしまう運命なのだ。皇帝としての俺は、配下を許し、敵さえ許した。それなのに、俺は反乱軍に殺されてしまった。結局、何をしても俺は殺される運命なのか!」
闇の中でランカシャーの悲痛な叫び声が響き渡った。
「ランカシャー、悔い改めなさい」
優しさに満ちた女性の声が響いた。
「俺は何度も悔い改めている。それなのに、俺はいつも殺されてしまうのだ。なぜなのだ!」
「ランカシャー、お前には愛がないのです」
「愛だと? ふん、俺の女への愛は誰よりも強く深い」
「それは、ただの情愛、欲望です。私が言いたいのは、国や民への愛なのです」
「国や民への愛? なんだそれは? 俺は、今は亡き父王から帝王学や権謀術策を学んだが、国や民への愛など学んではいない」
「ランカシャー、お前が愛を知らないのは父王の教育が偏っていたからです。だから、オルディンひとりにお前の教育を任せたくなかったのです」
「······! なぜ、お前は父王の名前を知っているのだ?」
女性は、その質問には答えず、言葉を続けた。
「この世の全てを円滑に支配するには愛が必要なのです。ランカシャー、お前の心の奥深くにも愛が存在するのです。それを見出して活用するのです」
「ふん! 愛など幻想にすぎない。それに俺はガキの頃から愛とは無縁だったのだ」
「ランカシャー、お前には幼少の頃に母がいたはずです」
「母か。確かに、母がいた。だが、俺が幼い頃、母は父王の怒りを買って処刑されたのだ」
「ランカシャー、お前は母の愛さえ覚えていないのですか?」
「幼き頃の記憶など、忘れたわ!」
「そうですか······」
女性の声は寂しく、悲しげだった。
「おい、女。お前は、いったい誰なのだ。名を述べよ」
女性は何も答えなかった。
「おい! 名を述べ······」
ランカシャーが再び言葉を発した直後、彼は意識を失った。




