第14話 沈黙する皇帝
闇の中でランカシャーは目覚めた。
ランカシャーは黙り込んでいる。考え込んでいるようだ。沈黙の闇の中で、音もなく時が流れていく。
「ランカシャー、悔い改めなさい」
闇の中で、女性の声が響いた。その声は、いつもと違って柔らかかった。
「なぜなのだ。なぜ、憎しみを果たすと、いつも悪い結果を招くのだ」
ランカシャーは、自分自身に問いかけるように呟いた。
「そう思うのなら、逆のことをしてみなさい」
優しさを含んだ女性の声が響く。
「逆のこと? どういうことだ」
「それは、お前が考えて答えを出すのです」
「教えてくれ、俺様は、俺はどうすれば良いのだ!」
ランカシャーの切実な問いかけに対して、女性は何も答えなかった。
しばらく沈黙が流れたあと、ランカシャーは意識を失った。
気がつくと、皇帝ランカシャーは帝都の宮殿テラスで立っていた。眼下の群衆から歓声が聞こえてくる。
「陛下、そろそろ演説のお時間です」
左後方で控えているミリアスが小声で促した。
ランカシャーは皇帝即位を宣言したあと、帝国の理念、方針について演説を始めた。ミリアスの原稿とおりの演説を進めていく。やがて、亡国の王たちへの処遇に関する演説が始まった。
「我が覇道を妨害した亡国の王たち······」
ランカシャーは、突然、言葉を切った。そして、そのまま沈黙が流れる。
広場の群衆は、皇帝による亡国の王たちへの処遇に関心があるらしく、陛下の次なる言葉を緊張しながら待った。
ランカシャーは目を閉じてうつむいた。皇帝の異変に、ミリアスだけでなく、後方で控えている側近たちも固唾を呑んだ。
沈黙する広場、宮殿にはためく帝国旗、鳥のさえずり、しばらく時が流れたあと、ランカシャーは目を開いて大空を見上げた。
皇帝は再び眼下に目を向けると、大きく息を吸った。
「亡国の王たちよ、余に忠誠を誓うのなら引き続き王領を統治することを認めようではないか!」
次の瞬間、広場から大歓声が大空に広がった。
「皇帝陛下の寛大な処置に感謝を!」
「英明なる皇帝陛下に祝福を!」
「皇帝陛下、万歳!」
群衆の至る所から、皇帝ランカシャーを称える声が大空に発せられた。
4人の亡国の王も両膝をつき、皇帝による寛大な処置に心から感謝したのだった。
皇帝即位から5年後、ランカシャーは死んだ。
大陸を統一して帝国の統治を始めたランカシャーではあったが、すぐに政治に飽きると、贅沢と色欲にふけるようになってしまった。その結果、帝国の統治機構が腐敗していき、帝国軍も弱体化してしまう。
その後、帝国各地で反乱が頻発。
ついに帝都は反乱軍によって陥落させられ、皇帝ランカシャーは処刑されてしまったのだった。




