第57話 彼ピと私、新しい年
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。
年始こそラブラブ予定!
♡ ♡ ♡
新年が、明けてしまった。
結局、年末はあれ以来さち子さんは鷲見君には会えなかった。
年末にラブラブする計画……は立てていなかったけれど、ここまで凪なのかと驚かざるを得ない。
しかしながら、クリスマスにものすごいラブラブをしたので、さち子さんとしてはクールダウンする期間があって良かったとも思う。
そうでないと、なんだか色々ダメになりそうで怖かった。
歌にもある「幸せ過ぎて怖い……」ってやつだ。
それに酔いしれる残念な女にならずに済んで、さち子さんはホッとしている。
年末の間、さち子さんは毎日メッセージを送った。鷲見君は急用以外、何故か自分からメッセージは送ってこない。
その代わり、反応は爆速だ。瞬時に既読がつくし、返事も小刻みに分けてすぐに送ってくる。
SNSも同様で、相変わらずの爆速いいね。昼間に暇すぎて適当なことを呟いても瞬時にいいねが来る。
実家の手伝いは? と疑いたくなるが、スマホを持ちながら掃除してるのでは、と思い至る。
そうなるとなんだか悪いから、さち子さんは昼間に呟くのをやめてあげた。
そんな連絡手段が受け身の彼ピであるが、新年になった午前零時、真っ先にさち子さんにニューイヤーメールをくれた。
『あけましておめでとうございます。午後から初詣に行きませんか?』
そのお誘いを見たさち子さんは、もちろん行くと返事をして、即行で寝た。
いつもの調子でお笑い番組を深夜まで見ていたら、目の下に隈ができるからである。
毎年のルーティンをいとも簡単に覆す、これがラブラブ彼ピマジック。
……という訳で、今ここ。地元の神社の前で、さち子さんは彼ピを待っているのです。
「さち子さぁん!」
軽く腕を上げたまま、鷲見君が少し息を切らせてやって来た。
三日ぶりの彼氏! 眩しい! ドキドキする!
ハッピーニューイヤーモードのさち子さんの心は、とても騒がしくなった。
「あけまして、おめでとうございます」
鷲見君が、笑ったぁあ……!
もっさり長身なのにダッフルコートが可愛すぎる!
なんだかもう、それだけで幸せだった。さち子さんは全然クールダウン出来てない自分に気づく。
結局、クリスマスからの浮かれた色ボケ気分が治っていない。
「おめおめおめ、おめでっとう!」
なので、声もこの通りうわずって、さち子さんは舌を噛みそうになっていた。
「さち子さん? そんなに仰け反ると危ないですよ」
彼氏に後光が見えてしまった。神だ。
神は優しくさち子さんの手を取って、支えてくれた。
氏神様、私は彼氏を拝みます……
「さち子さん、その襟巻き可愛いです」
さすがは神! おニューの白いフォックスマフラーに気づいてくれるなんて。
お正月に着られるような着物は残念ながらさち子さんは持っていない。
つくづく、今まで食べ物に給料の八割を注ぎ込んでいた自分を恥じた。
せめて首元だけでもそれっぽいのをと、年末滑り込みセーフのバーゲンで買った甲斐がある。
鷲見君に褒められて、さち子さんの色ボケ指数がまた上がっていく。
「襟巻きて、うふふ、鷲見君たら」
「何かヘンですか?」
「ううん、全然ヘンじゃない!」
氏神様! これ、私の彼氏です!
お参りする前から、さち子さんは力一杯そんな念を飛ばした。
地元の小さい神社とはいえ、元日から混まないようではやっていられない。
なかなかの賑わい。出店もいくつか出ている。
二人はお参りの列に並びながら、漫才大会の優勝者がどうとか、グルメ番組でまさかあの人がクビになるなんてとか、どうでもいい話を楽しんだ。
つづく
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