第53話 彼ピと私のクリスマス③〜浮かれた彼ピの新情報
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。
今日は嬉し恥ずかし、クリスマスイブ in 二人っきりのお・部・屋♡
♡ ♡ ♡
大変です。ディナーを食べ過ぎて、お腹が出そうです。それはもう、ぽんぽこに。
さち子さんはゲフっと言いそうになるのを抑えつつ、さらにバッグを前に持ったりしてお腹が目立たないように部屋まで戻って来た。
「どど、どうぞ」
「あ、どど、どうも……」
部屋のドアを開けてくれた彼氏の鷲見君の向こうに見えるのは、ラブ歓迎のクイーンサイズベッド。
大変です! その時がくるまでにこのお腹はこなれるのでしょうか!
そんなさち子さんの危機感をよそに、ルームサービスが来てしまった。
優雅なホテルマンがテーブルを整えて、綺麗なワインを一本。それから華やかなカナッペ的なものも置く。
二人はされるがままに向かい合って座り、ホテルマンがワインを開けてグラスに注ぐ。
一礼して出ていくホテルマンを見送ってから、改めて向き直る初心者カップル。
「で、では……」
「か、乾杯……」
グラスをカチンとするのが怖い小市民の二人は、軽く掲げただけでワインを一口。
ほのかに甘くて美味しかった。
「飲みやすいですね」
「うん、美味しいね」
小市民の感想なんて、こんなものだ。
そして場は満を持してプレゼント交換へ突入する。
「鷲見君、これ! 私からのクリスマスプレゼント」
先手必勝。さち子さんは鷲見君よりも先にプレゼントを手渡した。
「あっ、ありがとうございます」
反射的に手を伸ばして、それを受け取った鷲見君は。
「……」
包みを開けずに、放心している。
「鷲見君?」
「推しがオレのために選んだ贈り物が神々し過ぎて時空が止まる」
「おおい! しっかりせえよ!」
「あっ、すいません! 走馬灯が見えてました」
死ぬな、生きろ! だが面白い!
これこれ、鷲見君はこれだって。
さち子さんはぽんぽこなお腹を庇うのを忘れて、和んでしまった。
しかしながら、重要なのはここからだ。中身を見た彼がどう思うか……
「あ、開けて……くんない?」
さち子さんが恐る恐るそう言うと、何故か鷲見君は更に固まった。
「さち子さん、その美しい上目線で下賤な僕を見ないでください。マジ尊死します」
死ぬな、生きろ! めちゃ面白い!!
なんかもう、中身を気に入ってもらえるかとかも、どうでもいいかもしんない。
ニヤニヤが止まらないさち子さんの前で、鷲見君は慎重に包み紙を剥がしていった。
「わ……素敵なネクタイとピンですね」
「へへへ……使ってくれると嬉しいな」
「神棚に飾ります」
「使え!」
あー、何これ。ツッコミが気持ちいい。癖になる。
「あ、それでね。これからはシャツとかセーターとかも贈りたいから、鷲見君のサイズ、教えてね」
さち子さんは鷲見君へのプレゼントを買いに行った事を思い出す。
それはこのワンピースを買いに走るよりも、うんと前に遡る。
大人の女性が男性パートナーに送る定番と言えば?
実用性から選ぶならワイシャツだが、実用的過ぎてシラケそう。
ならばスーツか? しかし予算が跳ね上がる。
愛しの彼ピのためならば、クリスマスくらい奮発しても大丈夫ではある。
しかし、付き合いたてでスーツを贈るって激重&怖くはなかろうか。
そこでちょうどいいのがセーター類。デザインが豊富で選ぶこちらも楽しい、素敵アイテム。
だが、さち子さんはそこでハタと我に返り、絶望に打ちひしがれた。
鷲見君のサイズを知らないっ!!
もっさり長身の鷲見君だから、大きめなのは想像に難くない。
だがそれだけだ。さち子さんは己の彼氏の情報量に愕然とした。少な過ぎる。
そこで泣く泣くさち子さんが購入したのが、ネクタイとピン。
ネクタイも種類が豊富なので、かなり選ぶ時間をかけた。厳選して納得の品物に決めた自負はある。
だけどさち子さんが本当に贈りたかったのは……
あのマネキンが着てる、上品な紺基調のオシャレセーターなんだよぉおおお!
さち子、反省。
もっと鷲見君のことを知らなくちゃ。
知りたい、もっと、鷲見君のこと。
……以上の壮大な振り返りを、さち子さんは臆面もなくクールに格好つけた。
それが「サイズ教えてね」のセリフである。
そんなさち子さんの面白彼氏は、浮かれてしまったのだろう。予想の斜め上どころか、裏側からとんでもない弾を放った。
「あ。わかりました。ええっと、もうすぐわかるんじゃないかな……?」
「うへ!?」
「あ、いえ、冗談です」
なんてこった、鷲見君がシモネタぶっ込んできた! クリスマス・マジック!
さち子さんは早速彼ピの新情報を入手してしまった。
心のメモ。
鷲見君は浮かれるとシモネタを言ってくる♡
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