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【完全版】モブ女の私がイケメン後輩にストーキングされてます!  作者: 城山リツ
♡♡ 彼ピッピVSアホ同期 編

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48/58

第48話 彼ピにそんな義理はない

 私の名前は、花寄(はなより)さち子。

 市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。

 冬の最大カップルイベントまで、もう少し。

 ……なのに、とんだ邪魔が。


 


 ♡ ♡ ♡



 

「おさち! クリスマスは俺と過ごしてくれぇ!」


 鴨川(かもがわ)は再度発言を繰り返す。スベリネタを天井したところで一切笑えない。

 あまりのトンデモ発言だったため、さち子さんも彼氏の鷲見(すみ)君も反応出来なかったのだ。


 さち子さんが無反応だったのは、もちろん「呆れてモノも言えない」状態だから。

 まさかそんな境遇が自分の身に降りかかるとは。嬉しくない初体験である。



 

 鷲見君もさち子さんを背中に隠しつつ、目を丸くして棒立ちだった。


「……鴨川先輩、見た目通りすごい胆力ですね。彼氏持ちの女性に、彼氏同伴の場所で、よく言えましたね」

 

 皮肉を言っているようにも聞こえるが、鷲見君はただただ心から驚いている。

 

「当たり前だろ! こんなの、本人だけにコソコソ言ったら卑怯じゃないか!」

 

「なるほど。一理あるような気もします」

 

 よくわからないオトコの理屈を振りかざした鴨川。鼻息荒く言う様は滑稽でもある。

 鷲見君は頷いているが、鴨川の矜持はほぼ響いていない。

 さち子さんはまだ呆然とその場に突っ立っていた。



 

「つまりだな、これは挑戦状なんだよ、スミくん!!」

 

 ビッシィ! と音が鳴ったような錯覚をするくらい、鴨川は劇的に鷲見君を指さした。

 

 ははぁん、こいつ、酔ってるな。お酒ではなく、少年漫画の主人公にでもなった気分なのでは?

 さち子さんは同期の行動が恥ずかしくなってきていた。


 確かに「自分の人生では誰もが皆主人公」である。

 だからと言って社会の中で主人公然と振る舞う鴨川の今の行動は、はっきり言ってイタイ。


 畑野が見たら特大のブリザードが舞うことだろう。

 そんな妄想でさち子さんが逃避したくなるほど、鴨川は更にヒーロー風な言動を繰り出した。

 

「キミと違って、俺たちには八年築いた絆があるからなあ!」

 

 ……それを言ったら、私のダーリンは二十年ですが。

 もうホントのこと言ったろかな。


 さち子さんは割と苛々が募っていた。

 八年も短くはない。長年気の合う友達だと思っていた時間が裏切られた気がした。


 鴨川がさち子さんに恋愛感情を持っていたことが嫌なのではない。

 みっともなく、無駄な悪あがきを見せにやってくるその行動に、さち子さんは傷ついてもいた。



 

「はあ。でも、僕がその挑戦を受ける義理はないですよね」

 

「──えっ?」


 鴨川のにわか熱血に流されるわけがない、現代っ子の鷲見君は落ち着いてもっさり淡々と答えた。

 言われた鴨川は、予想外の答えに固まっている。


「二人同時にさち子さんに求愛して、返事がわからない状態ならそうですが、さち子さんはすでに僕を選んでいるので」

 

「そ、そそ、それは俺がおさちに告白してなかったからだろ!?」


 どういう理屈だ、それは。

 さち子さんの苛々は更に増していく。

 

 しかし、目の前の彼ピはやはりもっさり淡々と鴨川に反論した。

 鷲見君が一定の態度で冷静であるからこそ、さち子さんは何も言わずにそこにいることが出来ている。

 

「でも僕が交際を申し込んだ時、鴨川先輩の()の字もさち子さんからは出ませんでしたけど」

 

「だ、だからぁ!」


 しどろもどろの鴨川に、鷲見君はハァと深く溜息を吐いて面倒くさそうに言う。


「つまり、もし、僕より先に貴方が告白していたら、結果は違ったと。そう言いたいんですか?」

 

「そーそーそー! そーゆーこと!」

 

 鷲見君を指さす腕をさらに伸ばして、鴨川は頷いていた。

 その様子に、鷲見君の溜息はますます深くなる。



 

「恋愛はタイミングですし、たらればの話をしても仕方ないと思いますが……」

 

 鷲見君はさち子さんを背に隠したまま、振り返ってこんなことを聞いた。

 

「さち子さん。鴨川先輩の気持ちを知ってから、何か心境の変化はありましたか?」



 

「全然」

 

 それは、もちろん、考えるまでもない。

 さち子さんはスンと無表情で首を振る。



 

「お、おさち……? 急に俺を意識し始めたとか、俺の方が好きだって気づいたとか……?」


 鴨川は信じられない事実を聞いた、という顔で体まで小刻みに震えていた。

 彼には彼なりの勝算があったのだろう。でなければこんな所業に及ばない。



 

「全く」

 

 しかし、さち子さんは心底の気持ちで引導を渡してやった。


 鴨川君よ、去るがいい。

 もうこんなお前を私は見たくない。


 


「……」

 

 冷たい、冷たい木枯らしが吹く。

 からっ風に吹き飛ばされて、鴨川は主人公から陥落していた。

 震えが止まっているのは、彼がその自尊心ごと玉砕したからだ。

 令和の振られ男はそうして呆然と、薄いコートをはためかせて立ち尽くしていた。




お読みいただきありがとうございます

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― 新着の感想 ―
鴨川くんの「本人だけにコソコソ言ったら卑怯」は立派です! 悪い人じゃないんですけどねぇ。しつこいのは嫌われるぞ☆ 遅すぎたのですよ…残念だけど。合掌。
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