第39話 彼ピと私の初デート④〜レッツ、延長!
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。
今日は嬉し恥ずかし、初デート。
♡ ♡ ♡
大漁じゃあー!
駅弁&空弁、それに空港でしか買えない限定お土産の数々!
さち子さんはまるで遥か北の海から戻ってきたマグロ漁船の船長の気分である。
お弁当を四つ、土産品多数。鷲見君はもちろん、さち子さんの両手も塞がっていた。
あちこち歩き回って、心地よい疲労感と空腹感がある。
さち子さんはご機嫌で隣の彼氏に笑いながら聞いた。
「どうする? 喉乾いた? お茶する? それとも何か食べる?」
さち子さんが矢継ぎ早に聞くと、鷲見君は紅潮させた頬でギクシャクしていた。
りんごのようなほっぺで、瞳を輝かせて笑う推しを見たら当然の反応かもしれない。
「そ、それもいいですが……」
「ですが?」
その返答を待っていると、鷲見君は大きく深呼吸した後、落ち着いた調子に戻って言った。
「余計なものを食べて、この買った子たちをどうするんです? 残すんですか?」
「ううっ!」
私の彼氏はなんて思慮深いんだ! こちとら、買ったことで満足してしまった!
そうだよね、せっかく買った子たちを食べてあげないと。さち子、反省!
戦利品をすでに「子」扱い。
さち子さんもつられてそう表現するあたり、二人はベストカップルかもしれない。
「んーと、じゃあねえ……」
さち子さんは考えを巡らせる。
せっかく一緒に買ったのだから、一緒に食べたい。だが、どこで?
思い浮かぶのは当然自宅だが、さち子さんは実家暮らし。初デート後に親に彼氏を紹介なんてハードルが高すぎる。
そんなプレッシャーでモゴモゴしていると、鷲見君も同じようにモゴモゴしていた。
「あ、あの、良かったら、僕んち……来ます?」
「ほへえっ!?」
その言葉はさち子さんにとっては大衝撃だった。
初デートに彼ピの家も、とんでもねえハードルだあ! こんな平服で彼の両親に会うなんて狂気の沙汰!
「あ、えと。僕、市内に一人暮らししているので……」
ギクリと固まってしまったさち子さんの思考を読み取った鷲見君は、ボソボソ淡々と照れながら付け足した。
「え、あ、そうなの?」
「ゆっくり戦利品、広げられますよ」
もっさり彼氏のイケてるプレゼン。さち子さんはもちろん飛びついた。
やだあ、魅惑の提案。実家じゃないなら、それがいいかも!
「じゃあ、お言葉に甘える!」
「わ、わかりました……」
そうと決まれば早速ゴー!
さち子さんと、急に緊張を高めた鷲見君はデパートを後にして、駅の改札を入った。
だが、そこにラストトラップが……
「うっ! これは……!」
さち子さんは思わず立ち止まる。
皆さんも一度くらいは覚えがあるだろう。電車に乗るだけだと思った矢先、改札内で催されているイベントに思わず足止めをくらうこと。
そう、それは電車に乗る客だけに与えられた魅惑の参加資格! 限定ものに弱い日本人の急所を的確に突いた駅のワナ。
本日の罠。それは……『東北名産品フェスタ』!
「──鷲見君」
さち子さんの雰囲気は一変。
まるでどこかの司令官のような鋭い視線で鷲見君を見る。
「はい、さち子さん」
鷲見君はどこかのパイロットのような真面目な顔で頷いてから、厳かに言った。
「ふたつくらいなら、いけます」
「よっしゃー!」
さち子、行きます!
そしてさち子さんは東北銘菓、かもかも卵と、イカスミりんご饅頭、南部せんべいを手に持った。
指令、キャパシティを超えているであります。
「さち子さん、みっつは難しいです」
「やだあぁ、これ以上は落とせないぃ!」
パイロットの訴えをゴリ押しする司令官・さち子。
なんとかコックピットに過剰定員を乗せることに成功。
二人の両手の紙袋がパンパンで、弁当と土産品とお菓子がアップアップ苦しそう。
歩くたびに紙袋から南部せんべいの袋が飛び落ちそうになる。
ちょっと大人げなかったかなと、さち子さんは電車の中で反省した。
隣に座る鷲見君の横顔。地元駅が近づくにつれて緊張でプルプル震えだしていた。
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