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【完全版】モブ女の私がイケメン後輩にストーキングされてます!  作者: 城山リツ
♡♡ ドキドキ彼ピ 編

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31/58

第31話 来ていた彼ピ

 私の名前は、花寄(はなより)さち子。

 市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。

 なんと最近、彼氏ができてしまった。




 ♡ ♡ ♡


 


 決戦、そして衝撃の土曜日。

 ふわふわしたまま記憶がない日曜日を経て。

 いつも通りの月曜日がやって来た。


 厳密にはいつも通りではない。

 なんとさち子さんには彼ピッピがおわすのである。



 

「おはようございまーす」

 

 この日、出勤したのはさち子さんが最後だったようだ。

 主事の畑野(はたの)は皆の机を拭いているし、統括主査の涌井(わくい)はスマホでスポーツ新聞を見ている。


「は、な、よ、り、さん! どうだったんですか?」

 

 いつもクールで、辛辣な言葉のナイフで人を刺しまくる畑野が、雑巾片手に猫撫で声でさち子さんにすり寄った。

 興味に負けてキャラがブレてしまっている。

 さち子さんは苦笑しながら、平静なトーンで答えた。


「うん、全然ダメ。お互い普通な感じで、ランチして即終了でしたわ」


 ここの「お互い」と言うのが重要だ。

 さち子さんは振られたわけではない。土曜日の会食はお互い会ってみて「なるほど」と思うだけのものだった。

 と言うのを、後輩相手なのでさち子さんは強がっていたい。

 

「ああーん、そうなんですかぁ。やっぱ、一人目でうまくいくはずないですよねぇ」

 

 らしくない、甘えた言葉尻の畑野。意外に似合う。

 彼女なりに我が事のように残念がるのがいいと踏んだのだろう。


「……っ」

 

 そしてスマホをスクロールする指がどんどん高速になる、涌井統括。

 すでにスポーツ新聞の内容は頭に入っていないに違いない。

 聞き耳立てているのはわかってる。言いたいことがあるなら言ってくれ、とさち子さんは思う。


「ま、元気出して、次いってみましょ!」


 畑野は雑巾を机に置いて、さち子さんの両肩に手を置いて(ねぎら)った。

 さあ、ここだ。さち子さんの反撃チャンス。

 

「ううん、婚活アプリは退会しちゃった」

 

「ええええっ!!」


 らしくない後輩が珍しく慰めようとしてくれたので、さち子さんは先を制して言ってやった。

 ほっほ。クールな女子が驚愕におののいておるわ、気持ちいい。


「な、なんで……?」


 畑野は大きくない瞳をパチパチ瞬かせていた。

 その表情には、さち子さんが振られたショックで衝動的に辞めてしまったのでは、という不安が見える。

 甘くみないでいただきたい。三十路女がそんな豆腐メンタルでどうする。

 

 すまんな、私はもうキミの実験に付き合えない。

 何故なら……



 

 さち子さんは、可哀想な捨て犬を見るような後輩と、チラチラこちらを伺う探偵のような先輩に、努めて平静を装ってクールに報告した。


鷲見(すみ)君とお付き合いすることにしたので」


「でええええっ!?」


 まず反応したのは畑野ではなく、涌井だった。

 でかい声で驚愕した涌井は、持っていたスマホすらぶん投げる。

 ガッチャン、と派手な音がした。


「何がどうなって、そんなことになったんですか!?」


 遅れて畑野も焦りながらさち子さんに詰め寄った。

 どんどんクールから遠ざかる畑野女史。それほど、さち子さんのもたらしたニュースは会計課の面々にとっては晴天の霹靂だ。

 

「そうだよ、花寄さん! 俺らの知らないところで超展開しないでよ!」

 

 投げ出したスマホの画面を注視しながら、涌井が涙目になっている。

 もしかして、画面でも割れたか。


「えーっと、なんと申しましょうか……」


 さち子さんは言葉につまってしまう。

 先を制して驚かせたまでは良かったが、この後のことはさち子さんも考えていなかった。


 さち子さんも、彼ピが出来て自慢したくて浮かれているのだ。

 戦々恐々でさち子さんの次の言葉を待つ二人に、何と言ったものか。

 

 鷲見君の二十年にわたる私へのストーキング行為にキュンとしました。

 そんなことはさすがに言えない。激ヤバカップルじゃないか。



 

「……おはようございます」

 

「うわあ!」


 説明に困っているさち子さんの側に、音もなく忍び寄る男。

 それが福祉課主事の鷲見君。さち子さんの出来立てほやほや彼氏である。


「鷲見くんっ!」

 

 畑野もまた、同じ勢いで驚いていた。

 

「鷲見クーン!!」

 

 涌井はなんと号泣している。

 やはりスマホ画面が割れたか。


「鷲見君、音もなく近づいちゃダメ! びっくりするでしょ!」

 

「……ごめんなさい。でも、さち子さん」



 

「──()()()()()!?」



 

 主査と主事、仲良く声を揃えて大絶叫。

 外野、うるせえ。とさち子さんが思う間もなく、彼氏からも爆弾発言。


「僕のことは、れんきゅん、では?」

 

「ここでは呼ばないよ!?」



 

 朝から血圧が上がること言わないでよ!




お読みいただきありがとうございます

感想などいただけたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
畑野さんも涌井さんも驚き様が面白い~ 投げられてすごい音がした涌井さんのスマホが心配ですw 涌井さん達が知らないところで急展開でしたからねぇ…見たかったですよね(笑) 鷲見くんは人前でも「れんきゅん」…
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