第30話 告げる彼⑥〜鷲見君と私 +おまけ
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。
今起きている人生の重大イベント、決着してみせよう。ここが私の正念場だ!
♡ ♡ ♡
「ちょっとお待ちなさいよ!」
言いたいだけ言って。
『交際して欲しい』と言いながら、最初から諦めていた鷲見君。
さち子さんはそんな彼が『消える』と言った事に、少しご立腹だった。
「……え?」
鷲見君はビクビクしながらさち子さんを見ている。
怒られるとか、嫌われるとか勝手に考えて自分に酔っている。
そんなんだから、二十年も黙って見ている羽目になったのに気づいていない。
わかった。彼はこうやって思いつめるタイプなんだ。
そんでもって、一途なあまりに変なことしちゃう子なんだ。
さち子さんは彼の言う通り、鷲見君がいなくなる事を考えた。
ないな、と思った。
鷲見君が側にいる生活がすでに当たり前過ぎて。
もう、彼を知らずに、彼に見られるだけの日々になんて戻れない。
「あのさあ、鷲見君」
「はい……」
うつむいて泣きそうになってるじゃん。
出来もしないこと、言うんじゃないよ。
さち子さんは溜息混じりに、恨み節のように言った。
「今日のお昼、いいねくれなかったでしょ」
「えっ!?」
鷲見君は驚いた後、ポケットからスマホを出して愕然としていた。
「あっ……通知が来てる。何てことだ、ああ、他の人がもういいねしてる……」
更に落ち込んでいく鷲見君。
そっか。私の投稿に一番最初に反応したかったんだね。
「この僕が、リアタイ出来なかったなんて……」
どんどん泣きそうになる鷲見君。
そうやって、いつも私を気にしてくれていたんだね。
「あのね。鷲見君」
「はい……?」
「電光石火のいいねがなくて、私はすっごく淋しかったよ」
「ごめんなさい……」
我ながら、無茶なこと言ってんな。
さち子さんは自分の言葉にドン引いている。
でも、引くわけにはいかない。引き寄せなくてはいけない、彼を。
「今週はさ、ずっとモヤモヤしてたの。鷲見君が全然会計課に来なかったから」
「ショックで、二日ばかり休んだら、仕事が山のように溜まってまして……」
マジか。おもしれー男。
いや、ごめん。きっと私が悪いんだ。
鷲見君の気持ちも知らずに、笑い飛ばしてしまったさち子さんは反省した。
「そんなに、私のことでいっぱいいっぱいなのに、私の前から消えるなんて言うんじゃないよ」
「でも……」
消えるとか言うな。悲しいじゃないか。
ああ、そうか。それが私の気持ちなんだ。
鷲見君がいないと悲しい。淋しい。物足りない。
鷲見君がいると嬉しい。楽しい。面白い。
それが私の気持ち。
「鷲見君が側にいる生活が当たり前になっちゃった。鷲見君がいないと嫌だし、悲しいし、つまんない。私はそんな体になっちゃったの」
「そ、そんなカラダに……!? あ、気持ち悪くてすいません……」
頬を染めて煩悩と戦う彼の姿は、とても愛おしくて面白い。
「だから、鷲見君は私の側にいてくれないと、ダメなんだよ」
「あ、はい……」
もっさりイケメンの鷲見君は、私のものだ。
「ね? 側にいてよ」
「わかりました……」
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。
今日、彼氏というものができてしまった。
✧*。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:✧
祝! 30話突破記念
登場人物紹介〜好きなテレビ番組編
✧*。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:✧
花寄 さち子(30)
会計課主任
おじさんがランチで食べまくるドラマ
高級料理の値段を当てるバラエティ
鷲見 恋人(25)
福祉課主事
アニメ……だったが、今はスマホで動画を色々見る
(→さち子さんのSNS通知を逃さないため)
鴨川 斗織(31)
建築課主任
スポーツ(団体競技)、オリンピックの柔道
畑野 環(24)
会計課主事
恋愛バラエティを否定的観点から文句を言いつつ見る
涌井 雄二郎(40)
会計課統括主査
おじさんの二人組が社会の悪と闘う刑事ドラマ
失敗しない医者が活躍するドラマ
お読みいただきありがとうございます
感想などいただけたら嬉しいです!




