第28話 告げる彼④〜鷲見君の正体
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。
今、人生の重大イベントが発生した。
♡ ♡ ♡
「僕は、五歳の時にあなたに初めて会いました」
駅ビルの中のファストフード店。
テーブル席が満席で、窓際のカウンターに座ったさち子さんと鷲見君。
窓ガラスに映る鷲見君は思いつめた顔をして、そんな風に切り出した。
『僕は、あなたのことがずっと好きなんです』
『答えを出す前に、僕の懺悔を聞いてくれませんか』
そんな流れを経てからの、突然のカミングアウトだった。
「五歳? ごごご、五歳!?」
予想もしていなかった内容に、さち子さんは思わず言葉がうわずった。
好きです、と告白された事よりも、ある意味衝撃だ。
「迷子になった僕は、小学生のあなたに拾われました」
「あ!」
その言葉でさち子さんの脳裏に走馬灯が駆け巡った。
唐突に。本当に唐突にさち子さんは思い出したのだ。
下校中、いつもの帰り道。
途方に暮れる小さな男の子。
泣きそうになっているのに、決して泣くもんかと頑張って。
口を引き結んで、その固い意志を表していた。
「れんきゅん!?」
あの日、声をかけた子。
はずみでランドセルが背中に激突したのを見たら、目を丸くしていた男の子。
それが、今、ここにいる鷲見君なのか?
さち子さんはやや照れている彼の顔を凝視していた。
「……だから、れんきゅんって呼んでもいいですよって。僕は最初に言いましたよね?」
「はわあ!」
いつかの伏線コントで婚姻届を持ってきた日。
鷲見恋人という名前をさち子さんが覚えたあの日。
なんてこった、真の伏線は今日だったのか。さち子さんはものすごい時空の波を感じてしまった。
「でも、良かったです。覚えていてくれたんですね……」
さち子さんの反応を見て嬉しそうに微笑む鷲見君。
その様子に、さち子さんはなんだかキュンキュンした。
二十年前にすでに会っているなんて、まるでどこかの少女漫画。
運命的なロマンティック展開にも、年甲斐もなくキュンキュンする。
しかし、これのどこが懺悔なのだろう?
「謝りたいのは、ここからなんですが……」
鷲見君は表情をまた険しいものに戻して、呟くように言い出した。
さち子さんには何がそんなに彼を追いつめているのかわからない。
え? なんかあったかな。二十年も前のことなのに。
さち子さんが首を傾げていると、鷲見君は衝撃の事実を告白する。
「僕、住宅地図でさち子さんの家を探しまして」
ん?
「さち子さんが中学校から帰ってくるのを、毎日遠くから見てました」
んん?
「それから、さち子さんがバスで高校から帰ってくるのを、毎日向かいの歩道から見てました」
んんん?
「それと、さち子さんが大学から学生バスで帰ってくるのも、この店で、まさにこの席で、毎日見てました」
んんんん!?
さち子さんの頭の中で、鷲見君の言葉がリフレインする。
『家を探しました』
『毎日遠くから見てました』
『毎日歩道から見てました』
『この席で、毎日見てました』
待って。待って待って。それってさ。アレじゃない?
さち子さんは鷲見君の『可能性』に気づく。
私は全然知らなかった。
れんきゅんがずっとそんなことをしていたなんて。
れんきゅん……鷲見君は、アレなのか?
つづく
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