※第19話 張り込む僕
※印のある話は鷲見君語りで彼の過去話です。
僕の名前は鷲見恋人。
今年から、高校生だ。
大人の道のりはまだ長い。けれど多少の自由がある。
僕は志望通りの県立高校に入学した。
さち子さん(←もうすぐ大人なのでさち子ちゃんは改めた)と同じ高校に入ったからと言って、五年も前の生徒の痕跡を辿るのは難しい。
個人情報だなんだと、卒業生のアルバムさえ、在校生であっても見せてもらえない。
ただ、そこまでやるのは実に気持ち悪い話なので、僕はそんなことはしないけど。
僕は毎日登校するだけで幸せだ。
さち子さんが歩いた(であろう)廊下。
さち子さんが走った(であろう)グラウンド。
さち子さんが座った(かもしれない)机と椅子。
……まずい、ここまで言うと本当に変態だ。やめておこう。
とにかく、さち子さんが五年前に吸った空気を、僕も今吸っている。
それだけで毎日が充実している。
バスケ部、バレー部、何故か柔道部。色々な部活に誘われたけど、全てノー。
僕の放課後は忙しいと何年言えばわかるんだ。
ところでさち子さんは今、大学三年生。
非常に気持ち悪い話で申し訳ないが、僕はさち子さんが大学に入学するであろう年の四月一日のみ、さち子さんの自宅を張り込んだ。
するとおばさんと一緒にさち子さんがスーツを着て駅に向かった。そのスーツ姿は凛々しくも美しく、僕の一生のメモリーだ。
電車に乗るのか、尾行するのは気が引けるなと僕が悩んだのも一瞬。さち子さん達は駅で地元の大学の学生バスに乗り込んだ。
なんて尊い、地元を愛する人だ。僕は一気にさち子さんの通う大学がわかって心で狂喜乱舞。
大学のキャンパスは街のおおはずれにある、陸の孤島。
入学後、さち子さんは駅まで自転車で行って、そこから学生バスに乗っている。
重要な所はココ。さち子さんは毎日駅を使うのだ。
駅前と言えば、大勢の人が通る。すなわち、景色に溶け込める。
それまで遠目でそっと見るだけだったのが、通行人の振りをしてすれ違うことも可能だ。
……でも、やっぱりそれは気持ち悪いからする勇気が持てないけど。
そこで僕は、放課後駅ビルのファストフード店のとある席に入り浸る。
その窓からは、さち子さんの大学のバス停から駐輪場までのストロークが見渡せる。
僕はそこでさち子さんが帰ってくるのを、毎日見ている。これは中学二年の頃からの日課だ。
ところが最近、さち子さんが帰ってくる確率が低くなった。
大学三年生になって、授業が減ったのかもしれない。ますますさち子さんはレアモンスターの如く。
大学バスが止まった。女子大生が続々降りてくる。
ちなみにさち子さんが通うのは女子大で、それを知った僕の嘆き様は人には言えないほどだった。
レアモンスター! じゃなくてさち子さんが帰ってきた!
その美しさはモンスター級! 髪も染めず、ボブカットのままで、素朴な洋服に身を包む、奥ゆかしい美。
三日ぶりに見れた。尊い。尊過ぎる。拝みたくなる。
明日は土曜日。おじいちゃんの家に行ってお手伝いをする日だ。
一週間分の、ファストフード代をもらうために。
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