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【完全版】モブ女の私がイケメン後輩にストーキングされてます!  作者: 城山リツ
♡ 不思議な後輩 編

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第10話 たそがれる後輩 +おまけ

 私の名前は、花寄(はなより)さち子。

 市役所勤務八年目、会計課主任の三十歳。

 若者の不思議な感覚、見てて楽しい。



 

 ♡ ♡ ♡





 お昼休みだ! 食堂に行かなくちゃ!

 さち子さんは昼休みのチャイムと同時に食堂に駆け出した。

 

 今日は月に数回ある、ビビンバが日替わり定食になる日。

 通常メニューにあるけれど、日替わりになった日は安く食べられる

 さち子さんはこのビビンバデーを欠かした事はない。




 食堂は賑わっていた。心なしか女性が多い気がする。さち子さんのように、普段食堂に来ない職員も多数来ているのだ。

 恐るべし、ビビンバ効果。きっと数年前にお隣の国のドラマが全庁的に流行ったせい。

 その情報を聞きつけた食堂がビビンバを提供するのも抜け目ない。さち子さんはそんなことを考えながら食券の列に並んだ。

 

 食券を買うだけでまあまあ並び、カウンターで注文したものを待つ時間もまあまあかかる。

 チャイムとともに飛び出して良かった。さち子さんは続々やってくる同僚達を尻目に、早めにビビンバを入手することに成功した。

 コチュジャンが赤く煌めいて、真ん中のプルプル温泉玉子が食欲をそそる。


 さて、どこに座ろうか……

 おや? 窓際でたそがれている、もっさりイケメン発見。鷲見(すみ)君だ。


 さち子さんは見知った姿目がけて歩く。

 窓の向こうをぼおっと眺めている鷲見君に声をかけた。


「鷲見君、ここ座ってもいい?」

 

 返事を聞く前に、さち子さんは鷲見君が座るテーブルの向かい席にビビンバを置いた。

 

「……ッ! は、花寄先輩!」

 

「あ、ごめんね、考え事してた?」

 

 椅子がガタッと揺れるほど驚いた鷲見君に、さち子さんもつられてびっくりしてしまった。


「いえ、どうぞ……」


 肩を竦めて右手を差し出し、さち子さんに着席を促す鷲見君。

 そのお上品な仕草は、彼の育ちの良さが垣間見れる。良い家庭で育った息子さんなんだなあとさち子さんはほのぼのした。

 

「鷲見君もビビンバ、好き?」


 ふと鷲見君の前にも、さち子さんと同じビビンバのどんぶりが置かれていることに気づく。

 少し覗き込むと、半分ほど減っていた。もしかして早めにお昼を食べに来ていたのかもしれない。

 午後から出張かな、とさち子さんはそんな想像をする。

 

「普通、ですね。今日はいつもより安いと聞いたので……」


 鷲見君の答えはやはりもっさり淡々。

 美味しいビビンバが安価で食べられる機会を取りにきた彼に、さち子さんは親近感をこめて頷いた。

 

「だよねえ! このチャンスは欠かせないよねえ」


 ご機嫌でビビンバを混ぜるさち子さん。目の前の鷲見君は何故か溜息をついている。

 

「はぁ……」

 

「どうかしたの? 元気ないね」


 ビビンバを丁寧に混ぜながらさち子さんは聞いた。

 もっとも、元気溌剌な鷲見君は見たことないし、キャラではない気がするが。


「最近、推しに認知されてしまって……」


 鷲見君の返答にさち子さんはビックリ驚いた。鷲見君はアイドルが好きなのか。

 先日聞いた聖地巡礼の趣味を思い出す。それと繋がったような気がした。

 

「ええ、すごいじゃん」


 聖地を巡ってまで応援活動をした甲斐があったのでは。こういうのを「推し活」と言うんだっけ?

 さち子さんは感心したのだが、鷲見君の表情は冴えない。

 

「長年、陰から見ていただけなので、戸惑いがすごくて……」

 

 ファンとしては嬉しいことではないのだろうか。

 もっとも、「〇〇ちゃんに認知されたぜ、フー☆」とかはしゃぐ鷲見君は想像できない。


「どんどん自分が強欲になる気がして……」


 あ、なるほど。鷲見君らしいかもしれない。さち子さんはその言葉が腑に落ちた。

 きっと鷲見君は、そのアイドルともっと親しくなりたいと望んでしまうんだろう。

 それは仕方がない。人間のサガだとさち子さんは思った。

 

「でも、認知されるまでになったのは、今まで鷲見君が一生懸命応援したからでしょ?」

 

「応援、というか……僕は陰から見てただけで……」

 

「その陰からの声が届いたってことは、鷲見君の情熱が伝わったんだよ! 良かったね」


 さち子さんは褒めたつもりだったが、鷲見君は微妙な顔をしていた。

 それをさち子さんは謙遜ととった。だから元気づけようとして更に力を込めて言う。

 

「これからの応援にもますます力が入るんじゃない? そういう力って必要だと思うよ」

 

 アイドルには熱心なファンは必要だ。それが度を超えない限り、アイドルに迷惑をかけるとか、グッズで破産するとかしなければオッケー。

 鷲見君に限ってそんなことはないだろう。さち子さんはそう思える程度には鷲見君のことを知っているつもりだった。


 そしてついにさち子さんはビビンバを混ぜ終えた。

 待望の一口を食べる。うめえ。


「そうですかね……」

 

 鷲見君は再び溜息を吐いた後、またビビンバを食べ始めた。








 ✧*。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:✧

  祝! 10話突破記念 登場人物紹介

 ✧*。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:・゜♡・。+:✧



 花寄(はなより) さち子(30)

 会計課主任

 進学、バイト、就職を全て地元で完結させる女

 地域密着型と呼んで


 鷲見(すみ) 恋人(れんと)(25)

 福祉課主事

 さち子さんを推して〇〇年

 最近歯止めが効かなくなっている


 鴨川(かもがわ) 斗織(とおる)(31)

 建築課主任

 さち子さんの同期。高学歴のちゃらんぽらん

 同期の中で未婚なのは、さち子さんと彼だけらしい


 畑野(はたの) (たまき)(24)

 会計課主事

 鷲見くんの同期で二年目の若手

 3分の1のドライな感情でたまに周りを傷つける


 涌井(わくい) 雄二郎(ゆうじろう)(40)

 会計課統括主査(係長)

 さち子さんと鷲見君の全てを見通す男

 延長保育が死ぬほど嫌なので絶対定時に帰る




お読みいただきありがとうございます

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― 新着の感想 ―
鷲見くんがドストレートに言ってるのにバレてないw さち子さんすごい。全然気づいてない(*ˊᗜˋ*)あはは でも情熱は伝わってるよね!…よね?
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