表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/100

神と巨人

圧倒的……!

「静かだな……」


 ポツリと呟いたのは、市民の警護に当たっている五番隊の騎士の一人、レッカである。魔導楽器の使い手である彼は、他の五番隊隊員よりも魔力が高く、音楽のセンスもある男だ。エッダ騎士団の中では若手に入る年頃で、有望株と言っていい男だろう。


「さっきあれだけの怪物が出てきたんだ。団長達は、きっと相当な強敵と戦ってるはずだぜ。……俺達も加勢したいよなぁ」


 隣にいたカシゥという同世代の騎士も、王城を見つめながら呟いた。彼ら五番隊は、本人達の能力もさることながら、魔曲による能力補佐が最大の特徴である。個人の能力が上がるという事は、どんな相手に対しても有効だ。その為、どんな戦場においても役立てるという自負があった。だからこそ自分達も戦いに行きたいと考えているようだ。とはいえ、バルドルから任されたのは力を持たない市民達を守ることである。その重要さを理解していないものなどエッダ騎士団には一人もいない。なので、彼らは大人しくバルドル達の帰りを待っているのだった。


「でも、なんだろうな?割と見慣れてるはずの王城なのに、今日はやけに雰囲気が違って見えるぜ。……何かがこっちを見てるような、そんな感じがしないか?」


「……おいおい、恐い事言うなよ、レッカ。一体、何が見てるってんだよ」


「いや、それは解らねぇけどさ。何か、背中がゾワゾワするような、変な感じがするんだよな。気のせいにしてはちょっと……」


「俺は何も感じないぜ?きっと気のせ、い……ぁ?……」


「え?え、え!?う、うわああああ!て、手がっ!?」


 唐突に、カシゥが倒れた。背中から腹を一突きにされていて声を上げる間もなかったようだ。それに一瞬遅れて気付いたレッカが振り向くと、その背後にはロプトが立っており、レッカは両手からどんどんと結晶化していった。


「大したものだ、我が眼に気付くとは。……お前はいい贄になるぞ」


 レッカ達がいたのは、王都の外から王城入り口が見渡せるよう、市民達から少し離れた場所である。その為、二人に起きた異常はまだ他の誰にも気付かれてはいない。そうして、あっという間に全身が結晶と化してしまったレッカはいずこかへと消されてしまった。恐らくは、オーディ達のようにどこか別の空間に収納されてしまったのだろう。そして、ロプトはカシゥをその場に置いて、市民達や警護に当たるエッダ騎士団の生き残り達をゆっくりと見回した。


「ククク……使えそうなものはそれなりにいるようだ。いいぞ、これだけいれば目的に足りそうだ」


 獲物を前に舌なめずりをするような、獰猛な視線を一切隠さず、ロプトは一歩を踏み出した。その目には、底なしの胃袋を持つ飢えた怪物のような、ギラつきが浮かんでいた。






 

 ウートガルザ・ロキは巨人族の王として、かつては巨人族を従える存在であった。そもそも、巨人族と聞くと一般的には、大きな体躯とそこから発揮される怪力に任せた力押しのみの怪物に思われるだろうが、そうではない。巨人族はその大きな体に見合った頭脳と、高い魔力を有する存在なのである。


 この世界の成り立ちは、とある超越者が異世界の星を模倣して創ったものだと述べたが、そこで生まれる者達へ向けて、超越者は何かを示した訳ではない。多種多様な生物の種をこの世界に誕生させると、超越者はそれまでが仕事と言わんばかりに去って行ってしまったからだ。そこに生まれた者達が世界の覇権を争うも、手を取り合って生きるも、それは彼らの感知することろではないということである。


 そんな中で、巨人族と神族が何故対立するようになったのか?それは巨人族が、その高い身体能力や生命を維持する為に、異常なほどに他の生命を喰らう必要があったせいである。基本的に、身体が大きいということはそれだけ多くのカロリーを必要とするものだ。巨人族はその例に漏れず、多くの生物を糧とした。そして、最も効率のいい栄養源だったのが、神族達だったのだ。


 神族は、現在の人間を作り出した基となっている種族である為、人間とさして変わらない見た目をしている。とはいえ、普通の人間よりは体格がいいし、有している肉体の強さや魔力の桁も違う性能の持ち主なのだが、彼らをもってしても巨人族は桁外れに大きかった。何しろ、最低でも二十メートルはあろうかという巨体を持つのが巨人族なのである。彼らに捕まれば、たったの一噛みで神族の命は終わってしまう。それほどの存在だった。


 当初、巨人族と神族の祖先は、全く別々の大陸に住んでいたらしい。しかし、この世界が出来て数万年もの時が流れる中で徐々に世界そのものの形が変わり、両者は出会ってしまったのだ。或いは、それもまた超越者の意思であったのか、それは誰にも解らない。


 また神族はこの世界において、もっとも魔力に優れ、肉体のバランスが取れた種であった。彼らは巨人族ほどの巨体を持たない代わりに、彼らを上回る魔力を持ち、それでいて魔獣のように暴走しない生物としての強さを備えている。問題があるとすれば、彼らは精神性が非常に高く、繁殖能力が低い点だろう。彼らはその高い能力から寿命も長く、命を落とす事も少なかったので、繁殖する意欲が低かったのだ。


 そこへ現れたのが巨人族である。


 自分達を都合のいい食料と見做し、巨体とそれに見合った身体能力や魔力によって襲い来る巨人族は、神族の天敵となった。それまで、敵となり得る存在がいなかった神族にとって、巨人族との出会いはまさに脅威という他ないことだっただろう。食う側と食われる側の血で血を洗う戦いは、こうして始まったのだ。


 初めは巨人族が圧倒的に有利な状況から始まった。神族がどれほど優秀であっても、身体能力と絶対数で勝る巨人族を駆逐することは至難の業だ。更には、悪神ロキという裏切り者までが現れて戦いは数十年にも及び、神族はその生き残りが、片手の指にも足りないほど数を減らすこととなった。

 

 そして、主神トールを始めとする三人の神族は、ウートガルザ・ロキを討ち取った。その時点で、巨人族にはまだ百近い味方が残っていたが、誰も彼もが負傷し戦える状態ではなかったようだ。滅び朽ちゆく肉体と意識の中で、ウートガルザ・ロキは神族が自らの後を継ぐ人間という生物を生み出していた事を知る。彼は最後の力を振り絞り、手近な人間の体内に己の血と魔力を分け与え、強引に眷属を創ったのだ。いつか自分が、人間の中で復活し、神族へ復讐する日を夢見て。

 


 




「蘇ってみれば、この世界から既に神族は姿を消し、天界という神の世界へと渡っていた。……だが、これは好機だ。直接この世界におらぬ神族など恐れるに足らん。人間共を我らの贄とするにはこれほどのチャンスは他にないだろう。さて、城に戻って最後の仕上げと行くか」


 ロプトは眼下に広がる無数の死体を前に怪しく笑った。市民達の多くを手にかけ、見どころがありそうな者達は片っ端から結晶に変えて仕舞い込んでいる。邪悪な企みの達成はすぐそこまで迫っていた。

お読みいただきありがとうございました。

もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら

下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ