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巨人族の王

敵の目的が明らかになってきました。

「す、スカディちゃん、ウートガルザ…ロキって何なんスか!?ロキってヤツとは違うんスか?」


 スカディの隣に立って弓を構えたまま、ウルが疑問を問いかける。それは少し離れたバルドル達にも聞こえているようで、二人もロプトを警戒しながら、その会話を聞いていた。


「ウートガルザ・ロキはね。かつて、神話の時代において神々と戦った巨人族……その王の名前だよ。当初は神の側にいた悪神ロキも、ウートガルザ・ロキと戦ったという記述があるから、両者は別人だ。その優れた能力で、神々は苦戦を強いられた、らしい」


「どういう事だ?!どうしてそれがロプトってことになるんだよ!」


「今奴がやってみせたのは、まさにその巨人族が創り出した魔術の技だからだ!私達魔女の間にはそれが改良された形で伝わっているんだが、ロプトが使ったものはその改良される前のもの……つまり、巨人族しか知らず扱えない魔術なんだよ」


 スカディの帽子に隠れた額には大量の汗が滲んでいる。バルドル達には見えていないが、それだけ彼女は相当なプレッシャーを感じているということなのだろう。確かに、瞬時に空間を移動するというのは厄介ではあるが、そこまで恐れる理由があるのかと言われれば疑問が残る。それらを含めてバルドルはスカディに問いかけた。


「しかし、奴が巨人族だとして、どうしてそのウートガルザ・ロキだという事になるんだ?他の巨人族の生き残りって事はないのか?」


「君達には見えていないのか……あの男から立ち上る異常な程の魔力が。ウートガルザ・ロキは巨人族の中でも、もっとも強大な魔力を持っていたとされる存在だ。空間跳躍だけが問題なんじゃない。本来ならとても、戦えるような相手ではないんだよ…」


「スカディ……」


 スカディは完全に委縮し、今にもその場にへたり込んでしまいそうに見えた。素の彼女はかなり根暗で気弱なようだし、仕方ないことなのかもしれない。そんなバルドル達を横目に、ロプトは薄笑いを浮かべたままで見据えていた。


「クックック……無理もないことだ。魔女共というのは、我ら巨人族と神族の戦争が終わった後、神族が人間の中から強い魔力を持つものを選び出し、巨人族の生き残りを討つ為に使命と力を与えた者達だからな。俺の力を感じ取る事が出来ても不思議ではない。ただ、その力の差はどうしようもないというだけのことよ。しかし、この巨人族の王ウートガルザ・ロキの事まで知っているとは、流石だな、魔女めが」


「な、なんだって……?」


 思わぬ形で魔女という存在の真実を聞かされたが、驚く事が多すぎてついていけない状態だ。その上、何故か身体が動こうとしないのは、蛇に睨まれた蛙ということなのだろうか。


「人間というものは実に不完全だ。神が創り出しただけあって、優秀な力を持っている反面、酷く心が脆くて弱い。ほんの少し恐れや力の差を感じさせただけで、手も足も出んとはな。これほど贄として完璧だと、何かの罠ではないかと疑いたくなるほどに」


「くっ……」


「とはいえ、さっきも言ったようにそれは無理もないことだ。我らは人間なぞより遥かに強力な、神族共と戦い抜いた存在なのだから。貴様ら人間如きでは相手にならぬ。あの戦争では、惜しくもあと一歩の所で我らが敗北を喫したが、今や邪魔者である神族のほとんどはこの世界から姿を消した!もう誰も我らの邪魔など出来ぬ!……長かった、長かったぞ。本来の肉体を捨て、人間共の血に逃れ潜み、どれほどの時間が流れたか。数少ない巨人族の生き残り達も、この長い時間の中で魔女共に始末されてきた。だが、それも今日までだ!雌伏の時は終わった。今日この時、我らは新たな神となる!そうだ、神族に替わって、新たな我ら巨人族の女神が誕生し、この世界を支配するのだ!ハッハッハッハ!」


 高笑いするロプトは、もはや正体を隠す気がないようだ。自ら巨人族の王だと明かし、その目的も暴露した。そもそも、この世界を創ったのは一人の神の如き存在である。いや、正確に言えばその存在は神を超えた()()()であったらしい。それは異界の星を基にこの世界を作り出し、そこに住まう者達までもを創っていずこかへと消えたという。遠い遠い、遥か過去の話だ。


 そうして生み出された生命達は自由に育ち、繫栄し、そして世界の覇権を争い合ってきた。巨人族と神族は、その最たるものだ。ただ、神族のような神々は力を得るにつれて住む世界が変わっていく。神々が住まうのは天界と決まっているからだ。この世界から去って行った神族のほとんどはそのステージが上がったのだと言ってもよい。


 ウートガルザ・ロキ達巨人族は、神族が神として次のステージへ上がり、ゆくゆくは天界へと移り住んでいく事を知っていた。だから、人間の中に身を潜めて、その時を待っていたのである。


「女神……フレイヤのことか!?くそっ!そんなことをさせる訳には……っ」


「無駄だ無駄だ!我が魔力は、貴様らが主神と崇める神、トールでさえ手玉に取った強力無比なもの。いくら優秀な力を持っていても、人間にその戒めは破れんよ。見てみるがいい、自分達の足元を!」


「なにっ!?こ、これは?!」


 ウートガルザ・ロキの目が怪しく光ると、バルドル達の足元から無数の茨が生えだして、その身体に巻き付いていった。もがけばもがくほど、茨は深く食い込んで身体中を締め上げていく。そうして流れた血を茨が吸って更に強力な茨へと進化していくのだ。あっという間にバルドル達は、茨の内に取り込まれて、巨大な茨の塊のような姿になってしまった。


「ククク、さて、コイツらはもう我が手の内に落ちた。ここは先に、外の様子を見に行くとするか。バルドルめ、俺や魔獣を警戒して、外にたっぷり人間共を残してきたようだからな。小賢しい事をする。……あれだけいれば、中には贄として使える者もいるだろう。楽しみだ、どれほどの力が集まるか。それによって、フレイヤの…いいや、女神アングルボザの力が決まる!待っていろ、憎き神族共め。貴様らの大事な人間共を皆殺しにして新たな種を創り、この世界を支配して次はウートガルザ・ロキが天界に上がってやる!」


 遠大なる野望を口にして、ロプト……ウートガルザ・ロキは姿を消す。その毒牙が、バルドル達の帰りを待つ人々へ向けられようとしていた。

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