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ウートガルザ・ロキ

最終決戦です!

「ロプト……!これだけの騒動を起こした責任とフレイヤを返してもらうぞ!」


「クックック……まぁ、そう急くな。まずは褒めてやろうと思って、わざわざ表に出てきてやったのだぞ?」


「褒める…?」


 ロプトは薄笑いを浮かべたまま、両手を大きく広げ、掲げた。芝居がかった大仰な動きだが、実際、この男は演じているのだ。()()()()()()()()()。この男の得体の知れなさが、バルドルに直感でそう思わせた。それほどに、今ここにいるロプトは、以前、大森林で戦った時とは違う気配を纏っていた。


「そうだ。たかが人間如きが、不完全体とはいえ、あのヨルムンガンドを倒すとは思ってもみなかった。……()()()()()()使()()()から、せめてたっぷり食わせて贄としての質を上げようかと思っていたのだがな。まぁ、お陰で新しい贄の候補は多く見つかったが」


「贄、だと?ヘズ王子のことか?!」


「ああ、そんな名前だったか?奴はゴミ掃除くらいにしか使えん、情けない子孫だったがな。その親はしっかり贄として使える逸材だったというのに、どうしてこうも我が血で答えが変わるのか。人間というものは理解し難いわ、神族の連中などよりもずっとな」


「な、何を言ってんだ……?コイツ」


 (やはりだ。前に会った時よりも……()()()()()今のロプトからは人間らしさが感じられない。この短い何があったんだ?いや、違う、これが本性なんだ、こいつの)


 圧倒されるヴァーリの隣で、バルドルは冷静にロプトを観察していた。大森林での遭遇はほんのわずかな間だったが、確かにロプトから人間らしさを感じたのだ。それは即ち、人間的な隙があるという事であり、相手が決して理解の範疇を超えた怪物ではないという証明だった。だが、今のロプトはどうだろう?こうして、目の前にいるロプトは物理的な距離という意味ではなく、手の届かない場所にいる存在のように思えるのだ。怖気づいた訳ではないが、警戒心が高まっても仕方のない事だろう。

 そしてバルドルの他にももう一人、ロプトを見て異質さを感じている者がいた。


「君がロプトか。なるほど、私の使い魔が認識しない訳だよ。なぁ、ヴァーリ君、バルドル、ウル。君達の目に、あの男はどう見えている?」


「え?ど、どうって……気障ったらしいヤツだなって感じっスけど」


「よくわからねーが、得体が知れねぇな」


「奴は、以前会った時とは違っているような感じだ。なんというか……人間じゃないような」


「うむ、概ね私も同じ印象だよ。……だが、にもかかわらず、奴はなんだ?まるで人間じゃあない。奴は人の皮を被った別の何かだ!」


 スカディは冷や汗を垂らしながら、ロプトを睨んでそう言い放った。魔女である彼女には、バルドル達とは違う何かが見えているのだろう。それほど激しく感情を解き放つ程の何かが。ロプトは、そんなスカディの様子を見て不敵に笑った。邪悪としか言えない、企みを隠さない笑みだった。


「ほう。魔女か、なるほど。中々いい眼をしているな。貴様もさぞや優秀な贄になりそうだ」


「さっきから贄だ贄だとふざけやがって……!父上をやったのはテメェなんだな!?許さねぇ!」


 ヴァーリが剣を抜き、やや前傾気味に構える。軽く腰を落としていつでも飛び掛かれるようにという、ヴァーリが独学で編み出した、あまり剣術には無い構えだ。ヴァーリは決して、バルドルに頼りっきりだった訳ではない。彼自身、バルドルに頼りつつも多少のライバル意識は持っていて、勝てないまでも追いすがろうという努力は欠かさなかった。更に、幼い頃は騎士になる事も夢であったことから、独学で剣を習得してきたのである。


「父上?ああ、コイツの事か」


 ロプトは薄笑いを浮かべたまま、右手を軽く掲げた。すると、背後にモヤモヤとした空間の歪みのようなものが現れて、そこから彫像にされたオーディが顔をのぞかせたのだ。


「なっ?!ち、父上っ!」


 (なんだあれは?結晶……水晶のようなものの中にオーディ様を閉じ込めているのか?!)


「ふふ、お前はコイツの息子か。親子揃ってよい贄になるとは、やはり血筋も侮れんなぁ」


「ふざけんじゃねぇ!父上を返しやがれっ!」


 激昂したヴァーリが飛び出す。風のマントがヴァーリの魔力で嵐のように激しい風を纏い、その動きを更に加速させていた。身を低くして動く様は猿のようなすばしっこさだが、かなりのスピードだ。あっという間にロプトの元へ到着すると、勢いよく跳んだ。狙いはもちろんその首一つ。常人であれば、何が起きたのか解らぬ内に仕留められていただろう。あまりの速さから、達人であっても受け止めるのがやっとのはずだ。


「ふん」


「何ッ!?」


 しかし、ロプトはあっさりとそれを躱してみせた。ほんのわずか数ミリの見切りだが、偶然ではない。回避は最少の動きであればあるほど、反撃が容易となる。それを理解しているからこその避け方だ。事実、その時ヴァーリは空中にいて、体勢的にも反撃されれば受けきれない状態だった。


「そこっ!」


「……おっと。やるな、連携の腕もいい」


 それをさせなかったのは、ウルである。ウルの放った矢がロプトの心臓付近を狙っている。心臓の周囲は直撃しなくとも大事な血管がいくつもあるので、致命傷になりやすい位置だ。ウルはヴァーリが飛び出した瞬間には既に、矢を番える動作に入っており、攻撃が当たろうと当たるまいと援護射撃をするつもりだった。そしてそれは、バルドルも同じであった。ウルの矢を追いかけるようにしてバルドルは飛び出し、剣を右脇に引いて剣先を下げて走っている。そして、一気にロプトを逆袈裟に斬り上げた。


「なっ!?」

 

「ちっ!後ろだ、ヴァーリ!」


 矢が当たるのとバルドルの剣が命中する瞬間、ロプトの姿は忽然と消えていた。そして、バルドルの指摘通り、ロプトは着地したヴァーリの背後に立って剣を振り下ろす動作に入っていた。


「野郎ッ!」


「むっ!」


 ゴウ!という突風がヴァーリの足元から吹き上がり、ロプトの動きを止めさせた。その隙に、ヴァーリは風に乗ってその場から跳躍し、バルドルの横に立ち並ぶ。


「あっぶねぇ…!なんだ今のは!?」


「気を付けろ、忘れてたが、奴は瞬間移動のような動きが出来るらしい」

 

「そんな重要な事、忘れんなよ!?」


「……俺も見るのは初めてだったんだ、ナンナから聞いていただけで。しかし、あんな動きが出来るとは」


 そう、以前バルドルが戦った際、ロプトは今の動きをみせなかった。それをやったのはナンナの攻撃を避けた時である。なので、報告として聞いてはいたが、どのようなものなのかをバルドルは理解出来ていなかったのだろう。どこかで誇張が入ったか、何かの錯覚を利用した回避…程度にしか思っていなかったのだ。


 一方、今の攻防をしっかりと観察していたスカディは、瞠目していた。杖を握る手に力が入り、手汗がじんわりと杖を湿らせている。そして、大声でロプトの正体を看破した。


「今のは……空間跳躍、か。しかも、あれは人間の技じゃない。アイツがみせたあれは……古の巨人族の技だ。そうだ、奴は……ウートガルザ・ロキだ!」

 

 

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