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大蛇・ヨルムンガンド 後編

ヨルムンガンド決着編です。

 「打撃……?確かに剣で斬るよりゃ効果がありそうだ、がっ!?」

 

 ヴァーリが相槌を打つ途中で、再びヨルムンガンドが動き出す。どうやら、ベーオウルフがその身体に取りついて、めった刺しにしているらしい。逆側からテュールも尾に攻撃していて、たまらず暴れているようだ。だが、いつ何時またあの高速振動を行ってくるかは解らない。あれは接近していればいるほど、こちらのダメージが大きいはずだ。下手をすれば脳震盪を起こして動けなくなった所を潰される可能性がある。早く打開策を見つけなければ、全滅は必至だ。


「やはり、奴は身体が大きすぎて刺突や斬撃では思ったような効果が出ていないようだ。うちで一、二を争う怪力のベーオウルフとテュールが揃って攻撃しても、致命傷には程遠い。狙うなら打撃で、内部を破壊するしかない」


「それは解るが、どうやって……」


「スカディ、君の魔術で衝撃を増加させるようなものはないか?」


「衝撃を?うぅん、待ってくれ。考えてみる……んー、んー……あ、そうだ。魔力紋の応用で似たような事が出来るかもしれないな」


「ならそれをやってくれ。それとヴァーリ、その風のマントを借りていいか?」


「構わねぇが……どうすんだ?」


「まぁ、見ててくれ」


 バルドルはルゥムから降りると、ヴァーリからマントを借りてそれを羽織った。少し魔力を込めただけで、マントから風が発生してその身体が浮き出す。その間に、スカディはバルドルの両腕に魔力を使って紋様を描いた。通常の魔力紋は刺青を入れるものだが、今回はスカディ自身の魔力を材料にしたものだ。込めた魔力がなくなれば消滅する、使い切りの術と言っていい。


 その二つを備えたバルドルは、思いきり魔力を解放し、一瞬にして天高く飛び立っていった。その背にはあの魔装義肢(プロテーゼ)による大きな翼が生えている。それを使って加速するつもりだろう。


「あとは、動きが止まれば……」


 上空から見下ろし、ヨルムンガンドに狙いを定める。バルドルの狙いはただ一点、ヨルムンガンドの頭部だ。丸みを帯びた蛇の頭は、その硬さもあって打点がズレれば衝撃ごと攻撃が外れてしまう。正確に一点を狙わねばならない。だが、ベーオウルフとテュールを振りほどこうとするヨルムンガンドの動きは激しく、中々狙いが定まらなかった。かと言って、そう時間もない。焦る気持ちを抑え、バルドルはチャンスを待っている。


「団長……何かするつもりか?いいだろう、いつぞやの借りを返すいい機会だっ!」


 戦いながら冷静に周囲の動きを視ていたベーオウルフは、バルドルが高速で飛んでいった事も確認していた。魔力を探せば、上空で機会を窺っているのも手に取るように解った。ならば、自分に出来る事はそのチャンスを作ることであると、ベーオウルフは考えた。


「ジジイっ!下がれ!団長が何かやるつもりだ!ここは、俺が隙を作る!」


「むっ!?しかし、お主……いや、解った!気を付けろよっ!」


 テュールはすぐにベーオウルフの思惑を察して、ヨルムンガンドの尾から離れた。バルドルが何をするつもりかは解らないが、ベーオウルフは隙を作ると言った。出来ない事を言う男ではないので、どんな手段を使ってでもベーオウルフはそれをやるだろう。そう、()()()()()使()()()()

 

 テュールが離れた事で、ヨルムンガンドの狙いは完全にベーオウルフ一人になった。ヨルムンガンドはその小さな敵を押し潰そうと躍起になっているが、ベーオウルフは巧みに攻撃と離脱を繰り返している。


 (潰そうとしても潰せない相手なら、お前はどうする?手っ取り早い攻撃手段があるだろう。ついさっき、やってみせたものだ!)


 ベーオウルフはヨルムンガンドを挑発するかのように、ヒットアンドアウェイでヨルムンガンドの注意を向けさせた。だが、その時だ。


「……っ!?」

 

「ああっ!?ベーオウルフの奴、足を滑らせやがった!」


 ちょうど運悪く、破壊された瓦礫がヨルムンガンドの体重で磨り潰され、砂となって集まっている場所にベーオウルフは足を踏み込んでしまった。瞬間的に体勢が崩れ、動きが止まる。ヨルムンガンドはその隙を逃さず、その獰猛な怒りを発散させるべく、ベーオウルフに食らいついた。


「……かかったな!」


 ベーオウルフをその大口に収めたヨルムンガンドは、先程二番隊の騎士達を飲み込んだ時と同様に、首を高く上げて制止した。歯を持たない蛇が獲物を飲み込む為に上を向き、瞬間的に身体を固定する。ベーオウルフはこれを狙っていた。自分の身体を囮にしてでも、ヨルムンガンドの隙を作ったのである。


「今だっ!」


 そのタイミングを見逃さず、バルドルは一気呵成にヨルムンガンドへ向かって急降下した。魔装義肢(プロテーゼ)の翼とヴァーリのマント、そして、スカディが入れてくれた魔力紋。それら全てを一撃に乗せて叩き込む為だ。


「ウオオオオオオオッ!」


 それはまさに流星の如きスピードで、一直線にヨルムンガンドの眉間を捉えた。既にミストルテインはバルドルの上半身ほどもある巨大な槌へと変化しており、高速で飛来する一撃を回避することなど不可能だ。遠目に見ていた者達は、ヨルムンガンドに雷が落ちたかと思っただろう。ズドン!という轟音がして、バルドルの一撃は見事にヨルムンガンドに命中した。

 その衝撃は瞬く間にヨルムンガンドの脳を揺らす。しかし、それだけでは終わらない。スカディの魔力紋には複数の効果が重ねられていたからである。


 一つは、反発。通常、どんな攻撃であれ命中すればその威力は分散し、多少なりとも攻撃者側に戻ってくる。それは自然の摂理として当然だ。だが、スカディの入れた反発の効果は、その戻ってきた衝撃さえも再び相手の元へ送り込む効果があった。これによって百パーセント完璧に、威力を相手に叩き込む事が出来るのだ。

 そしてもう一つの効果は、増幅である。一般的にはやまびこと呼ばれるもので、主に魔法使いが魔法の威力を増幅させる為に使う魔力紋だ。これを身体に入れた魔法使いは、魔力の消費がある程度増加するものの、魔法の威力を大きく高める事が出来るという。これらを同時に併用することで、衝撃波となった威力を更に増幅させようと考えたのだろう。

 

 その狙い通り、叩き込まれた一撃の威力は百パーセント無駄なく、またヨルムンガンドの体内で増幅されてその脳を完全に破壊した。神が成した怪物殺しを、ここに人間がその力のみで成し得たのだ。

 


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