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大蛇・ヨルムンガンド 前編

長くなりすぎたので二話に分けました。

 大蛇に対し、最初に動いたのはバルドルである。彼はルゥムに乗ったまま凄まじいスピードで駆けて、一瞬の内にその腹へ接近した。そして、ミストルテインを自身の身体よりも大きな特大剣へと変化させ、勢いをつけてその腹を斬りつけた。


「ギャアアアアアアッ!」


「利いている……!だが、浅い!」

 

 流石に巨体だけあって、いくら特大剣と言えど、一撃やそこらでは致命傷には程遠い。しかも、予想以上に肉質が硬く、バルドルが渾身の力を込めても深々と刃を入れるのは難しかった。何か特殊な防御があるのは間違いないだろう。


「一番隊!回避運動しつつ、射撃に入るっス!」


 その様子を窺っていたウルは、部下達に指示を飛ばして騎乗しながら弓と魔法を撃ち出していった。ウル達が放つ弓は、いずれも魔力を使って射撃力を向上させた特殊弓である。ただの弓であっても、レールガンに相当するほどの破壊力があるものの、バルドルの剣ですら致命傷にならない身体が相手では分が悪い。

 また遠距離攻撃は安全そうに思えるが、先程見たビームのような熱線がある以上、反撃が最も怖い配置である。案の定、ウル達を狙ってビームが放たれると、それが命中した地面は融けて爆発し巨大なクレーターが出来上がっていた。足を止めれば一巻の終わりだろう。

 

「ちっ!俺らも行くぞ!攻められそうな場所を探せ!」


「こいつはしんどそうな相手だわい。腹に取りつくが、あの巨体だ。押し潰されるでないぞ!」


 ベーオウルフ率いる二番隊と、テュールの四番隊は正面からではなく、位置を変えて接近することにしたようだ。巨大すぎる大蛇と言えど、頭は一つ。三方向からの攻撃とした方がより安全に攻撃出来ると判断した為である。四番隊はぐるりと回り込んで背後を取り接近する隙を探している。至近距離にあのビームを撃てば自分にも被害が及ぶと解っているのだろう。大蛇は近距離攻撃を仕掛けてくるバルドル達にはビームを撃たなかったが、巨体でこちらを押し潰そうと激しく身体を動かしてくる。こうなると、取りつくだけで骨が折れそうだ。


 そんな戦いが始まってしばらくした頃、一向に数を減らす事が出来ないバルドル達に苛立ったのか、突如大蛇はそれまでにない動きをみせた。全身を大きく、高速で揺らし始めたのだ。大蛇の身体がブレて見えるほどの激しい揺れは、局地的な地震を起こし、また身体に取りついていたバルドル達を一気に弾き飛ばしていった。


「ぐっ!?」


「おあっ!?や、ヤバイ!後方、逃げるっスッ!」


 まず狙われたのは、地震によって足を止められた一番隊である。横方向に移動しつつ、大蛇の周りを回るように攻撃していた為か、長く伸びた隊列の中央がビームの餌食となった。ど真ん中に撃ち込まれたビームによって、隊員の三分の一ほどが一瞬にして吹き飛ばされてしまう。先頭を走っていたウルは無事だったが、これでもう同じ攻撃は難しくなったと言っていい。

 

 そもそも、これまでに破壊された建物や地面のせいで、走りながらの射撃はより難易度が上がっているのだ。しかも、あのビームの前では遮蔽物に身を隠す事すら無意味である。その上、地震で足を取られるとなれば、圧倒的に火力差がある遠距離攻撃は捨てる他ないだろう。

 

「う、うわああああっ!た、隊長ぉぉっ!?」


「お前ら……!?クソっ!この蛇野郎がああああああっ!」


 間髪入れず、弾き飛ばされて倒れた二番隊の隊員達が大蛇の口に飲み込まれていった。乗っていた馬なども含め、丸呑みである。ベーオウルフは部下の断末魔に激怒し、単身大蛇へと立ち向かった。


「クソ……!なんてヤツだ。このままでは……!」

 

「これは……予想以上だね。あれが神話の怪物か」


「スカディ!?どうして……いや、どうやってここに?」


 バルドルが体勢を立て直そうとしていると、突然隣にスカディが現れた。幅広の三角帽子をかぶり、深緑のマントと大きな杖を持った彼女は、以前バルドルと戦った時のようである。


「私は元々王都で店を開いていたと言っただろう?だから、ここにも空間の出入口を作ってあるんだよ。しかし、応援に来てみれば状況は最悪のようだ」


「神話の怪物って、どういう事なんだ?アンタ、何か知ってんのか?」


 ちょうど合流してきたヴァーリが二人の会話に割って入ると、スカディは躊躇いがちに言葉を発した。


「アレは、かつてロキが生み出したという巨体の怪物、ヨルムンガンドだよ。ロキは神々を裏切って巨人族に着いた時、巨人族を超える怪蛇を生み出して神々を襲わせたのだそうだ。やはりロプトという男は、ロキに関連した人物であるのは疑いようがないね」


「ヨルムンガンド……伝説の怪物か。確かに、噂に違わぬ強大さだ。どうやって倒せば」


「スカディって言ったな、アンタあの怪物に詳しいのか?神々はどうやってアイツを倒したんだ?」


「神話では、ヨルムンガンドは主神トールによって倒されたと言われている。だが、それはミョルニルという神の槌を使っての事だ。並の攻撃が通じるかどうか……」


「ミョルニルか、神器の名前だな。それは知っているが実在するとは……いや、待てよ」


 神話には詳しくないとはいえ、神器の名前ならばバルドルも知っている。神々の武器とはいえ、それらは必ず武具の図鑑などで紹介されるものだからだ。バルドルの使うミストルテインのような魔剣を更に超えたモノ…神々の力そのものを武器に変えたと言っても過言ではないそれらは、至高の名品とされている。だが、そんなものは世界中のどこを探して見つからない。

 バルドル自身、かつて修行の旅の最中で神器を真面目に探した事があった。当時はまだ母フリッグが存命だったので、バルドルは自分の武器を持っていなかった。数打ちの剣などではバルドルの力に耐えきれず、例え名刀名剣と呼ばれる類いのものであっても、満足できた事は一度もない。優れた剣士は、常に己の命を預けるに足る一振りを探し求めるものだ。バルドルもいずれはミストルテインを継ぐ事になるだろうと考えてはいたが、それがいつになるのかは不明だった。故に、己の納得する武器を求めて彷徨っていたのである。

 そうして修行をしながら武器を探し続ける内に、フリッグが急逝してしまったので、まだ旅は途中であった。しかし、そんな道半ばにあっても、一つだけ気付いた事がある。


 それは己が強くなる為に、神器のような武器など不要だということだ。

 

 優れた武器というものは確かに存在するが、それは己の手足と同じように、鍛え上げて使いこなす事に意味があるのであって、どれほど強力な武器と言えど借り物の力では満足にその効果を発揮することは出来ない。本当に大事なのは、力の使い方なのだ。


「……ミョルニルという神器は槌なんだな?それで倒したというのならば、奴には打撃の方が効果が高いということだ」


 それは単なる推量ではない、実際に攻撃し、傷をつけた経験も加味した答えだ。確かに、斬撃をいくら重ねても、あの硬い肉質と鱗状の皮膚を裂くのは並大抵の事ではなかった。ましてやあの巨体である。切断するにはかなりの時間と力が必要になるだろう。


 考えてみれば神話の怪物ヨルムンガンドを倒したのは、他ならぬ主神トールだ。怪力無双を誇る神のトールが神器の威力をもち、打撃を加えてようやく倒したというのは、神ならぬバルドル達には絶望的な答えかもしれない。

 だが、ここに神がいないのと同様に、あのヨルムンガンドもまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ロプトが真にロキという悪神なのであれば、もっと早くにバルドル達は敗れ去っていたはずだ。仮にロプトがロキよりも劣るなら、ロプトが生み出したヨルムンガンドも、ロキが作ったそれよりも弱いはずだろう。


 大事なのは、()()()()()()ではなく、その情報を基にどう戦うかである。



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