王都へ!
いよいよ出陣……!
エーギルがもたらした情報は、想定していたものよりもずっと危険な状況を示していた。
数時間前、突如として王城内部から多数の魔獣やモンスターが出現し、王城は大混乱に陥ったらしい。本来であればもっと早くエッダ騎士団に出動要請がかかるはずだったが、それを止めたのはユミル卿とその息子ボルだったようだ。王城の警備は近衛兵団に一任されていることから、エッダ騎士団に援軍を求めたくはなかったのだろう。バルドルが怪我を負い、意識不明である事も手伝って、ここで手柄を上げれば自分達の地位が更に上がると思ったのかもしれない。
だが、それでもエッダ騎士団に伝令が来たという事は、近衛兵団では既に対抗しきれない状態になっている事を示している。もしも、王城内で倒しきれていないのだとしたら、次に襲われるのは王都に住む市民達だ。王都には一応、冒険者ギルドを始めとした民間の戦力があるとはいえ、彼らではそれほどの敵を抑えるのは難しいだろう。一刻も早く救援に向かう必要がありそうだ。
バルドルはすぐに全隊に指示を出し、三番隊を除いた全部隊を出動させることにした。残念だが、怪我の為に動けないナンナは留守番である。幸いなことに各部隊は待機状態だったので、出動命令から三十分もしない内に出撃準備は整ったようだ。
バルドルはルゥムの背に乗り、大きく息を吐いた。これだけの魔獣やモンスターを大量に用意できるのはロプトしかいない。恐らく、フレイヤを手に入れた事で、奴の目的に必要なピースが揃ったのだ。そして今、その目的の為に行動を開始したのだろう。
(ロプト……今度こそ俺は負けない。そして必ず、フレイヤを取り返す!)
決意を新たにしたバルドルの目には、今までにはない覚悟が宿っているようだった。だが、あの森で敗北した時のように、冷静さを無くしたのではない。自分をしっかりと持った上で、戦いに集中するだけの覚悟が出来たということである。
そんなバルドルの様子を見て、スレイプニルに乗ったヴァーリがそっと近づいてきた。
「バルドル、いつになくやる気じゃねーか。今までよりずっといい顔してるぜ。吹っ切れたか?」
「ああ、俺はフレイヤを愛して……って、こんな時に何を言わせるつもりだ!?」
「いや、別にそんな事言わせようと思った訳じゃねーんだけど……まぁしかし、なんだ、随分遠回りしたな。傍から見てた方としちゃ、お前らの関係にはずっとヤキモキしてたんだぜ?」
「……そうだったのか?心配かけたんだな。すまない、お前だってオーディ様の事が心配だろうに」
「父上なら心配いらねーよ。あの人は、魔獣如きに後れを取るような人じゃねぇ。たぶん、陛下と一緒になって戦ってるはずだ。だから、お前はまずフレイヤちゃんを助ける事を最優先に考えろ。親友として、お前の恋路は大切だからな」
「ありがたいが、フレイヤの事と同じ位、戦えない市民やオーディ様の事も心配するさ。特にオーディ様にはずっと世話になってきたからな。……皆助ける、それが騎士団長としての役目と心得だ」
「……そうか、ありがとよ。だが、お前だけに任せちゃおかねぇぜ。あのロプトの野郎には一泡吹かせてやらないと気がすまねーからな!」
ヴァーリは拳を握って、ロプトへの怒りを露わにした。ロプトが魔導具師ローゲを名乗り、教団と呼ばれる組織を作っていた事が発覚してから、ヴァーリはずっとその影を追って来た。調べが進んでいく毎に、教団の影響力が徐々に増している事が判明したからだ。比較的、主神トールへの信仰が根強いこの国はまだしも、他国では教団の掲げる女神・アングルボザへの影響が強くなっていた。それを知ったヴァーリは、オーディからの密命を受け、国内の教団について調査を続けていたのである。
その件では相当な骨を折っていたらしく、その上でバルドルとフレイヤの事もプラスされ、ヴァーリもまたロプトを許せないと感じているようだ。
「団長、全員出撃準備が整ったっス。号令を」
「ああ、解った。……エッダ騎士団、全員整列!今回、王城に現れた敵は、先日ヴォルトライン領で魔獣の反乱を引き起こした主犯である可能性が極めて高い。情けないが、俺も土を付けられた相手だ、決して油断はできない。だが、今度は負けないと皆に誓おう!そして、何よりこれは奴らの手によってきずつけられた三番隊の弔い合戦だ!各員の奮闘を期待する!」
「おおっ!」
「見ろ!あれだけ降り続いていた雨は止んだ!我らの行く先は光と希望に満ちている!……ならば!今こそエッダ騎士団、出撃だ!俺に続けっ!」
「オオオオオッ!」
地鳴りのような唸り声を上げて、四百人近い精鋭のエッダ騎士団が走り出す。騎士は騎兵として、従卒は馬車で。それぞれが強い意思を備えた目で前だけを見ているようだ。先頭を走るルゥムの背の上で、バルドルはフレイヤの笑顔を思い出していた。
――アウズンブラ、城内。
輝く白亜の城は、あまりにも凄惨な状況にあった。あちこちに近衛兵団の兵士や、王城で働く貴族達の死体が転がっており、白い壁や床はおびただしい程の血で汚れてしまっている。そんな中で、国王ローズルと財務大臣であるオーディは肩を並べて襲い来る魔獣から身を守っていた。
「ハァ、ハァ……オーディよ、流石のお前も息が切れてきたな。すっかり肩で息をしておるではないか」
「ローズル様とて、同じでしょう。フゥ……我らはもう若くありませんからな。あの頃のようにはいきませぬ。しかし、貴方様と再び肩を並べて暴れられる時が来るとは……不謹慎ですが、楽しいものです」
「ふ……そう言えば、狩りの勝負では余は一度もお前に勝った事がなかったか。今だから言うが、余はお前に嫉妬しておったのだ。何故、剣も魔法もお前に勝てないのか、とな。余が勝っているのは顔だけだったろう」
「……いやいや、流石に顔は引き分けでございましょう。そこをあやふやにしては我らの友情にひびが入りますぞ?」
「む?それは聞き捨てならんな。学園の人気投票では余が圧勝だったではないか」
「二年生の時はそうでしたが、三年では逆転したはずですが?」
「一年の時も余が勝っていたではないか!二対一で余の勝ちであろう!?」
「一年の時は僅か一票差です。ほぼ引き分けでございましょう」
「ぬぬぬ…!ならばよかろう、次に見つけた魔獣の群れ、倒した数の多い方が勝者という事でどうだ?」
「……よろしいでしょう。受けて立ちますぞ」
こんな状況でも軽口を叩き合っているのは、この二人が古くからの友人であったからだろう。まだ魔獣も多かった若い頃には、コンビで魔獣狩りをしていたというから、その腕前はかなりのモノである。そんな彼らは突如現れた魔獣達に対しても臆する事なく戦っていた。ヴァーリが心配いらないと言っていたのは、あながち的外れでもなさそうだ。
そうして戦いながらしばらく城内を進むと、不意に魔獣達の姿が途絶えた。まるで、何かを避けるようにピタリと敵が現れなくなったのだ。
「なんだ?一体……む?あれは」
ローズルの視線の先には広い廊下の中央に佇む一人の男の姿があった。遠目なのでハッキリしないが、その服装には覚えがある。
「ヘズ…?!何故ここに。早々に部屋へ引き籠ったはずでは……」
それはローズルの息子で、現王子のヘズであったようだ。臆病な彼は、我先に自室へ逃げ込んだと報告を受けていた。しかし、その息子が何故か供回りも連れずに出歩いている。その異常さがローズルには不気味に見えた。
「王、おさがりを!あのヘズ王子、様子がおかしゅうございます!」
異常に気付いたオーディが素早くローズルの前に出る。そんな二人に気付いたのか、ヘズ王子はゆっくりと振り向いた。その姿はもはや、人のものとは思えぬ形へと変貌を遂げていたのだった。
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