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魔女の意外な一面

天然な魔女…魔女とは?

「それじゃ、君は本当にこの街で書店を開きたくて移住してきたのか?」


「はい、そうです……」

 

 すっかり元の店内に戻ったアンティーセ。その奥にある居住スペースで、バルドルとフレイヤ、そしてスカディが集まっていた。スカディは正座をし、バルドルとフレイヤがその前に立って話を聞いているようだ。


 勝負に負けたスカディはすっかり大人しくなり、先程までとは打って変わった卑屈な女性になってしまった。本人曰く、どうやらこちらが素の状態らしく、自身に満ちていたのは魔女としてハイテンションになっていたかららしい。スカディは何とも不思議な性格をした女性である。

 

 そんなスカディから話を聞いてみると、どうやら彼女は数週間前まで王都でアンティーセを営んでいたらしい。だが、店の経営はかなり細々としたものであり、とても満足な経営とは言えなかった。そこで一念発起して、今勢いに乗っているエッダ領で一旗揚げようとしたようである。エッダ領内で一番人が多く暮らしているのが、バルドル達の生活している領都ビフレストだったわけだ。

 

「しかし、この街(ビフレスト)は王都に比べれば十分の一にも満たない人口しかいないぞ。わざわざ移住してきても客が付くとは思えないが……」


「あ…そ、それは別に。お金はそんなに問題じゃないって言うか。う、うちみたいな人間はと、友達とか出来ないから、せめて、ほほ本の話ができるお客さんができればと思っただけで……」


「それで、本好きじゃないと入店拒否だったのね」


「そ、そう!なん…です」


「ふむ」


 あれだけの実力を持ちながら、求めていたのは本の話が出来る客……いわば友人だったというのは俄かには信じ難い話である。ただ、逆に言えばあれだけの力があるからこそ、金に執着しないと取る事も出来るだろう。彼女ほどの実力者ならば、国家や自治体に帰属し、そこに頼らずとも独力で十分生きていけるのだ。孤独という最大の敵に勝てれば、の話だが。


 スカディは一人で生きていく力を持ちながらも、その孤独には耐えられなかったということだろう。人見知りかつ引っ込み思案で、更にコミュ障であっても真の孤独は耐え難いのだ。それは個人が持つ生来の気質であるから仕方ない。バルドルはその手の人物を以前に見た事があったので理解出来ない話ではなかった。


「君の気持ちは解るし、個人としては応援したい、それに歓迎もする。だが、領主としては見過ごす訳にはいかないぞ。皆苦しいながらもしっかり税を払って商売をしているんだ。君が求めているものが金ではないと言っても、この街の土地の中で店を構えている以上は、それなりに払うものは払ってもらわねば示しがつかないからな。少なくとも、アンティーセという店の営業許可をここ数週間の間で目にした覚えはないぞ」


「う、そ…それは、解って……ます。でも、まだ店を始めたばっかりなんで……税金は…」


「もちろん、売り上げに応じた税の支払いは後からでいい。差し当たって必要なのは、土地の使用料と利用許可の申請だな。……というか、ここってどうなってるんだ?俺は何度かウルの後を尾けてここへ来ようとしたが、店は見つからなかったぞ。場所は間違っていないはずなのに」


「そ、そそそれは!この店が私の魔術で次元の違う場所に建っているからなんだ!アンティーセは、普段は別次元の空間に格納されていて私が認めた客が来た時だけ、この場所に現れるんだよ!どうだ?!凄いだろう!これだけの魔術が行使できるのは、私を置いて他にはいないよ!」


「ええ……す、凄い。けど、ちょっといい?」


「うん?何かな?」


「ここって普段は空き地なのよね?じゃあ、このお店がこの場所?に現れた時、たまたま人がいたら、どうなっちゃうの?」


「……………………」


 フレイヤの何気ない質問で、スカディの動きが止まった。確かに、別次元の空間というのもバルドル達にはよく理解出来ないが、仮にそこからこの場所に移動してきているのなら、元々そこにいたものがどうなってしまうのかも謎だった。バルドルの疑問に答えようとして一瞬ハイテンションに戻ったことからみて、スカディは自分の能力を自慢し、他人から褒めてもらいたいという強い承認欲求があるようだ。なるほど、それは確かに孤独ではいられないはずである。

 

 少しの間、冷や汗を垂らしながら固まっていたスカディは、たっぷりと間を置いた後で口を開いた。


「あの……その……お、押し潰されて死んじゃう……かな?多分だけど。あ、あははっ!?い、(いった)ぁ~い!」


「今すぐこの店を何とかしろっ!」

 

「は、はひっ!?」

 

 スカディの返事を聞いた瞬間、バルドルの拳骨がスカディの頭に落ちた。当たり前である。どうやら、スカディは狭い空き地だからと、その辺の事は何も考えず対処もしていなかったらしい。領民の暮らしを最優先に考えるバルドルにとって、それは何よりも許せないことであった。鬼のような憤怒の気配をまとって迫るバルドルの圧力に負け、スカディは泣きながら頷いていた。


 その後、店を別次元の空間に隔離して調べた所、現時点で巻き込まれた人間などはいない事が解った。魔術的には対処自体も簡単なようで、バルドルに睨まれながら、スカディは物凄いスピードで術を書き換えている。


「まったく、とんでもない事になる所だった。これはウルに感謝しないとだな」


「そうね。ウルさんがいなかったら、私達はこのお店やスカディにも気付けなかったでしょうし……それにしても、ウルさんは大丈夫なのかしら?」


 チラリとフレイヤが視線を向けると、そこには幸せそうな笑みを浮かべてユラユラと揺れているウルの姿があった。スカディ曰く、大切なお客さんだから、幻覚をみせて保護している……らしいのだが、今の彼の姿は見ようによっては廃人である。本当に元のウルに戻せるのか、何だか不安になる有り様だ。


「スカディ、ウルはちゃんと元に戻るんだろうな?」


「し、心配いらない……ですよ。彼はイイヤツだし、ち、ちゃんと治します……から」


「…へぇ~」


「な、なに……です?」


「ううん、スカディってウルさんの事、気に入ってるんだなぁって。……もしかして、好きだったり?」


「い!いやいやいやそんな!わ、私みたいな魔女が、好きだなんてそんなっ!?」


 (わ、ホントに脈ありっぽいわ。いいなぁ、私もバルともう少し……)


「?」


 フレイヤはバルドルに視線を向けたが、そんな意味ありげな視線でもバルドルは全く気付いていないようだ。フレイヤは大きく溜め息をして、進展する気配のない想いを嘆くのだった。

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