表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/100

命を懸けて

すみません、更新予約入れとくの忘れてました…!

「はぁ!?そんなことがあったんスかぁ?ベーオウルフの奴、いつかやるんじゃねーかと思ってたっスけど、遂にやったかぁ。しかも、よりによって、ナンナとフォル(あの二人)のいる前でとは……そんで、その後どーなったんスか?」


 騎士団の隊舎に置かれた、一番隊執務室にて、報告を受けているのはウルである。昨日のベーオウルフによるバルドルへの反抗の際、彼は任務で街を離れていたのだが、偶然にも一番隊の副隊長エーギルは別任務の為に隊と別行動をしており、その場に居合わせていたのだ。


「バルドル様が間に入ったので、ナンナ様とフォルがベーオウルフ様と戦う事になるのは避けられました。ただし、ベーオウルフ様はバルドル様に対して血闘(けっとう)を申し込みまして……」


「アイツ……っ!なんてことを。なるほど、それで朝っぱらから騒がしかったんスね。ってことは、これもブラギの仕業かぁ…」


 ウルは頭を抱え、目の前の紙に視線を落とした。そこには、騎士団長バルドルと、二番隊隊長ベーオウルフのどちらが強いのか?という煽りと共に、二人の似姿が描かれている。言うなれば、ポスターのような大きめの紙だ。曲がりなりにも団長とその直属の部下である二番隊隊長の戦いを煽るなど、あってはならないことである。しかし、ウルが呟いたブラギという男は、それを平然とやって楽しむ性質の悪さを持っていた。


 このエッダ騎士団には、古くから伝わる団内独自のルールがいくつか存在する。


 その内の一つが血闘(けっとう)と呼ばれるものだ。これは通常の決闘とは少々異なり、例え立場が弱くとも、実力のあるものが意見出来るようにと考えられたルールで、自分より立場の弱い者から戦いを申し込まれたら相手は必ず受けて立たねばならないというものだ。そして、勝者は敗者の言う事を一つ、絶対に受け入れねばならないのだ。


 エッダ騎士団では今までにもそれを行使した例がいくつか残っているが、ほとんどの場合は、元々の立場の弱いものが負けている。ほとんどが騎士団長に対する下克上であったり、酒の席での意見の食い違いを、水に流す為の方便として使われてきたようだ。中には、先代の当主フリッグに結婚を申し込んで戦いを挑んだ者もいた。……もちろん、そいつは一瞬で返り討ちにあったようだが。


血闘(けっとう)となると、俺ら隊長格の立ち合いが必須っスねぇ……()()()()()()もう決めたんスか?」


「はい、今度の週末にという事になりました。全団員を集めて、盛大にやるとブラギ様が」


「あんのバカ!ホンットにこういう時ばっかりやる気出しやがって!……もういい、解ったっス。ブラギの奴がそこまで関わってるなら、今更俺がやれることもないっスからね。来週のスケジュール確認しとこ……しわ寄せが怖いんだよなぁ」


 ウルは半泣きになりながら、次週以降のスケジュールがどう変更されているのかを確認し始めた。事ここに至ってしまえば、彼がブラギと呼ぶ男に手抜かりはないと確信しているようだ。ウルの言うブラギは五番隊の隊長であり、とにかく掴み所の無い男である。かつては吟遊詩人を名乗って世界中を旅しつつ、勝手気ままに生きて来たという生粋の遊び人だ。旅先で先代当主フリッグにその実力を買われて勧誘されたという話だが、どこまで本当かは解らない。隊長を任されるだけあって確かに実力は指折りなのだが、彼はいかんせん、マイペースが過ぎる人物だからだ。

 ブラギにとっては、とにかく自分が面白いと思える事が最優先であり、任務や作戦の途中であっても単独行動を平気でする。その癖、仕事はきっちりこなすという所がまた始末に負えない。そんな彼がフリッグ亡き後も騎士団に残っているのは、彼の気質と騎士団での自由さがピッタリ噛み合っているからだろう。

 実は今回、ウル達と同様に五番隊も任務で別の領地に赴いていたはずだったのだが、いち早く仕事を終えたブラギは勝手に隊を離れ、一人で街に戻ってきていたのである。彼曰く、面白い事を嗅ぎつける鼻は誰にも負けないとのことだ。


 



 ――そして、時は流れてその週末。


 エッダ騎士団隊舎の庭兼運動場には、多くの人が詰めかけていた。と言っても、そこにいるのはほとんどが団員達である。違うのは、噂を聞きつけて見物に来たヴァーリとドヴェルグ、それに何故か祝賀パーティーの会場でバルドルの力を目にして震えていた若い近衛兵、ビィズくらいであった。


「いやー、中々盛況だなぁ。バルドルの奴、まさか血闘(けっとう)を申し込まれるとは……アイツは慕われてるんだか、疎まれてるんだかよく解んねーな」


「ヴァーリ様、連れてきて頂いたのは嬉しいのですが、血闘(けっとう)というのは…」


「うん?来る時説明したろ?エッダ騎士団には、こうして立場に関係なく自分の意見を言う為の場が用意されてるのさ。それだけでも、近衛兵団とは雲泥の差だろう。ビィズ、お前さんがエッダ騎士団に興味があるって言うから連れて来たんだ。ちゃんと見ときな」


「はぁ……」


 見ておけ、と言われても、そもそもエッダ騎士団と近衛兵団は犬猿の仲である。どこで知られたのか定かではないが、ビィズが近衛兵団所属の兵士だと言う事がバレているようだ。今はヴァーリの存在があるから直接口出しされていないが、明らかに騎士達からは部外者を責める強い視線が感じられた。ビィズはとにかく居たたまれなくなり、ビクビクしながら血闘(けっとう)の開始を待つ羽目になった。

 そうしてしばらくの時間が経った後、ちょうど太陽が頂点に差し掛かる時間になって、一人の男が運動場の中央に現れた。


「さぁさぁお立合い!エッダ騎士団、久々に血闘(けっとう)の時間だ!お前達、準備はいいかぁ?!」


「オオオオオオォッ!」


「今回はなんと、二番隊隊長ベーオウルフから、我らが騎士団長、光の騎士侯爵と名高いバルドル様への血闘(けっとう)と来た!お前達も知っての通り、ベーオウルフはエッダ騎士団きっての武闘派……各隊の隊長格の中でも格闘戦なら右に出る者はいない男だぜ!コイツはひょっとすると、ひょっとするかもしれねぇよなぁ!?」


「ウオオオオオオ!」


「ベーオウルフ隊長、やっちゃって下さいよー!」


「何言ってんだ、バルドル団長に勝てる訳ねーだろ!」

 

 騎士達の叫声と共にヤジが飛び、集まった者達のボルテージがどんどんと上がっていく。エッダ騎士団にとって、血闘(けっとう)は滅多にないイベントのようなものらしい。要は、祭りなのだ。

 この場に集まった騎士達のほとんどは、その勝負の結果よりも、どんな戦いが見られるかを楽しみにしているのだろう。そして、司会進行を務める男は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、更に叫んだ。


「っと、今日の進行はこの俺、ブラギが担当するぜ。さぁーて!それじゃそろそろ選手両人に出てきてもらうか!西、ベーオウルフ!東、バルドル団長!出ませいっ!」


 それを皮切りに、怒号にも似た大歓声が上がり、ベーオウルフとバルドルがそれぞれ現れた。二人共に気負っている風ではなく、涼しい顔をしている。しかし、どちらもやる気に満ちているのは、纏っている気配からもよく解った。


血闘(けっとう)を受けて頂いて感謝してますよ、団長殿。久々に、血が湧きたつような感覚が止まらねぇ……やっぱりこうでなくちゃな」


「ここまで大事になるとは思わなかったけどな。ベーオウルフ、先に聞いておくが、俺に勝ったらどうするつもりだ?俺に何をしろと?」


「ふん、そうだな。アンタを引っ張り出しただけでも十分なんだが、もう少し本気を出してもらわにゃ気がすまんしな。……よし、決めたぞ。俺が勝ったら、団長、アンタ自身の手であの幽霊女……フレイヤって言ったか?アイツを浄化してもらう」


「なに……!?」


 ベーオウルフの思わぬ要求に、バルドルは驚愕する。しかし、ベーオウルフは悪びれもせずに更に言葉を続けた。


「アンタはあの女の霊が来てから変わっちまったんだ。昔のアンタに戻ってもらうにゃ、それが一番手っ取り早い方法だろう。どうした?今更怖気づいたか?」

 

「……冗談じゃない。お前がそこまで言い出したからには、受けなければ終わらないだろ。いいさ、受けて立ってやる。ただし、俺が勝ったら、二度とそんなバカな事は言わせないからな!」


 かくして、期せずしてフレイヤの存在を賭けた戦いが始まろうとしている。二人の戦いがどうなるのか、勝負の行方はまだ誰も知らない。

お読みいただきありがとうございました。

もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら

下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ