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偉大なる戦士の魂

主人公の格好いい所も描かないと……!

「はぁっ!」


 それはまるで、踊っているかのような体捌きだった。するりとモンスター達の懐に飛び込んでは、一撃、また一撃と確実に急所を狙い仕留めていく。儀式剣舞というものもあるが、それとは全く比較にならない、速さと力強さが融合した戦い方だ。

 モンスター達の大半は、バルドルのその動きについていけておらず、あっという間に倒されていく仲間を前にして、理解出来ない様子で棒立ちになっている。そしてそれは、居合わせた貴族達もまた同じである。


 ある者は目で追うことすら難しくバルドルを見失い。またある者は、打ち倒されていくモンスター達よりも、バルドルへ恐怖を感じていた。そして、その場にいた全ての人々は後にこう語る。バルドルという男は、何よりも美しい様で敵を倒すのだ、と。


「てぇいっ!」


 四つの足に加え、人間の腕が首から生えた奇怪な馬のモンスターは、その持ち前の動体視力からバルドルの動きに反応してバルドルに向かって突進してきた。だが、バルドルはその動きを予測していたかのように高くジャンプし、腕の届かない背中に向けて逆立ちするように乗って二本の刃を突き立てた。刃は見事に骨の隙間を貫いて内臓を切り裂き、一哭きする間もなく、そのモンスターは倒れた。もちろん、倒れ落ちる前にバルドルは腕の力だけで飛んで、真っ直ぐに着地している。まるで軽業師のような動きだった。

 

「凄い、凄いわ!バル、あなたって本当に、戦いに関しては天才なのねっ!」


「そうでもない。このくらい、うちの騎士達なら皆出来るさ」


 この場にウルがいて、その言葉を聞いていたなら、まず間違いなく全力で否定したことだろう。モンスター達と渡り合う事は出来るだろうが、こうも悠々と苦も無く倒してみせられるほど、この怪物達は弱くはない。バルドルと同じように苦も無く倒せるのは、精々各隊の隊長か副隊長クラスの幹部達だけである。

 そうなの?とフレイヤが聞き返そうとした時、突然二人の背後から人型の敵が現れ、手にした剣で横薙ぎの一撃を放ってきた。


「ちっ!」


 身体を後ろに逸らし、右から襲い来る剣を避けながら左足で敵の腕を蹴り上げた。そのままでは後ろに倒れてしまうところだったが、バルドルは溢れる魔力を使って瞬間的に体を浮かせ、姿勢を保つと今度はすぐさま軸足を変えて、右足で敵の顔面を蹴ったのだ。


「……ッ!!?」


「はぁぁぁぁっ!」


 その流れのままに一回転をし、バルドルは体勢の崩れたモンスターの胴を薙いだ。どうやら、敵はコボルトと呼ばれる獣人だったらしい。狼に似た頭と人間状の身体は二つに分かれ、物言わぬ屍と化している。その一連の流れに誰もが息を呑み、逃げる事すら忘れて見入っているようだった。


「凄まじいな」


 ポツリと呟いたのは誰でもない、王のローズルである。彼もまた、若き日には鍛錬を欠かさぬ武人であったというから、バルドルの力がどれほどのものか誰よりも理解出来たに違いない。傍らに立つ若い近衛兵がガタガタと身を震わせているのに気付き、優しく肩に手を置いてその目を見つめた。


「ろ、ローズル様……」


「何も恐れる事はない、彼は敵ではないのだ。いや、敵にしたくはないというのが正直な本音ではあるがな」


「わ、私には想像もつきません。ど、どれほどの修練を積めば、あのような力を身につけられるのでしょうか……?あの方、バルドル候は私と同じ人間だとは…とても……」


「ふ、余にも解らぬよ。だが、バルドルはかつて、武者修行で訪れた遠き東の小国において、恐るべきドラゴンと一騎打ちをして勝利をその手に納めたのだそうだ。それ以来、奴は救国の英雄『偉大なる戦士の魂(アインヘリヤル)』と呼ばれておるのだとか。それが伝わってきたのは、あ奴が国に帰参し、侯爵を継いでしばらく経った後だがな。全く、あの母にしてこの子ありという事か。あれはまさに、人を辞める程の修練を積んだとしか思えんわ」


 ローズルはそう言うと、苦笑しながらバルドルに視線を戻す。その頃バルドルは、息つく間もなく更なる敵と対峙していた。今度は上半身がカマキリで、下半身が人間という不気味な虫人間だ。


 (……おかしい。いくらなんでも倒した数と残った敵の数が合っていないぞ。まさか、まだ敵が増え続けているとでも……?)


 チラリとヴァーリの方を覗くと、レモーヌがその腕に抱かれてこちらを見守っているのが確認できた。だが、ヴァーリとレモーヌの傍に敵はおらず、さっきから敵が狙ってくるのはバルドル達ばかりだ。つまり、敵はバルドル達のすぐ傍にいるということになる。


「俺達の方が飛び込んで行ったのだから当然だが、それにしては……」


「バル、あれ!」


 フレイヤが指を刺した先には、とても小さな()が落ちていた。物と表現したのは、小さすぎて手に取ってみなければなんだか解らないほどのサイズだったからだ。四角い物体であることは解るが、それが何なのかは拾ってみなければわからない。


 「何だ?まさか……()()が!?」


 そう呟いたのとほぼ同時に、小さな物体から不釣り合いな大きさの一本、また一本と出てきて最後には人間大のモンスターが這い出てきた。やはりあの小さな物から、次々にモンスターが出てきているのだ。あれを破壊しない限り、この騒動は終結しそうにない。だが、目の前に立つカマキリ型の虫人間は、簡単に倒せるような敵ではなかった。


 両腕を曲げ、顎の下辺りに構えた姿は、ボクシングでいうピーカブースタイルのようである。バルドルが臆さず攻撃に出ようとした瞬間、目にも留まらぬ速さで、その鎌状の腕がバルドルの首を狙って繰り出された。

 

「くっ!?速い……っ!」


 咄嗟に双剣をクロスさせて受け止めたが、そこから更に鋭い連撃が、バルドルを襲う。残像でブレて見えるほどの高速連撃だ。しかも、それが正確に首だけを狙ってきている。それを掻い潜って反撃に出ようとした時、先程追加で現れたもう一体の怪物がバルドルに近付いてきた。


「新手か!」

 

 現れたのは、一見すると普通の人間のように見えるモンスターだった。ボロ布のようなローブを全身に被っていて、辛うじて外に出ているのは腕くらいのものだ。男か女かすら判別できない姿だが、何故それをモンスターだと思ったのかと言えば特徴があったからだ。

 外に出ている腕の色は青白く、所々黒ずんで傷があるように見える。だが、その傷口から血は垂れておらず、代わりと言ってはおかしいが小さな虫がそこに這っていた。そして、微かに感じられる腐臭……これが導き出すものは。


「ゾンビだと。……いや、この魔力は!」


 バルドルがそれに気付いた瞬間、ローブの下で怪しく光る赤い目がバルドルを捉えた。そして、強烈な魔力が津波のように溢れて、水流の弾が発射される。バルドルは瞬時に数歩後ろへ跳び避けたが、邪悪な魔力のうねりは目に見えるほどの圧を放ち、更に高まる一方であった。


「きゃぁっ!?な、なんなの、あれ!?」


「リッチだ。噂には聞いていたが、俺も初めて見たよ。だが、完全なものではないようだな」


 リッチとは、元々高位の僧侶や魔術師だったものが、敢えて死を受け入れて自らをゾンビ化することで、生前の数倍以上の魔力を手にしたとされるアンデッドモンスターである。バルドルが完全ではないと言ったのは、本来のリッチは生前と同じ人格や知能を持つとされるモンスターであるのに対し、目の前のリッチにはそう言った知性と言うものがほとんど感じられないからだ。まるで無理矢理にリッチへと変化させられたような、歪さを感じさせるものであった。


「ど、どうするの?!バル。このままじゃ……っ!」


「心配要らないさ、フレイヤ。俺が何の魔法を得意としているか、忘れたか?」


 バルドルは不敵に微笑んで、魔力を一気に練り上げる。すると、その身体が眩い程に輝き始め、やがて光がその手に集中していった。


「原初より輝き続ける天の航路よ、星の導きにより悪しき魂を討ち祓い給え……『浄化せし光の巨船ゼーレ・フリングホルニ』!」


 ミストルテインを持ったバルドルの両手から光が放たれ、それが船の形に収束していく。以前使ってみせた、燦爛たる光の大帆船ブリリアント・スキーズブラズニルと似た魔法だが、この浄化せし光の巨船ゼーレ・フリングホルニは軍船の形をしているようだ。しかも、周囲の様相はいつの間にか大海原へと変わっていてバルドル達と二体のモンスター、そして光の船だけがその場にいた。

 そのまま光の船は何発もの大砲を放ち、無数の光の砲弾がリッチとカマキリ虫人を跡形もなく粉砕した。

 

「え、い、今のって!?」


 気づけば、フレイヤとバルドルは元のパーティー会場に戻っている。フレイヤが見たものは魔法によるイメージの具象化であり、その凄まじい威力と効果を如実に表したと言ってもいいだろう。かく言うバルドルも、思っていたよりもずっと派手な具象化をして、少しだけ冷や汗を搔いているようだった。


「……ちと、威力が強すぎたかもしれないな。なんでだ?」


 バルドルは気付いていない。フレイヤが彼の背中から抱き着いている為に、僅かだが彼女の魔力が入り混じって、魔法の効果が上がってしまっていたことに。呆然とする貴族や王達が歓声を上げたのは、それから数呼吸の間を置いてからであった。

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